和平交渉の結果……
全体会議から、二か月後。本部は慌ただしくなる。
「大気圏を抜けた一隻の船が、こちらに向かってきます。交渉を求める通信が入っています。どうなさいますか? 司令」
「全隊に通達、デフコンは4(警戒強化)。交渉に応じるから基地に誘導してやれ。俺が直接会う」
「おやめください司令、それは危険です!」
「そうだアラシ、そんな交渉は私達でやる!」
志乃と静香は心配して止めにかかる。
「たぶん大丈夫だ。金属探知機にかけてボディチェックをすれば、問題ないだろう。来る奴の反応を見て起きたいんだ。俺を見て侮るようなら、叩きだしてやる。まずは話を聞いてみたい」
「……分かりました。ただ、一個小隊を司令の近くに控えさせます」
「すまん、俺のわがままだ」
会談の準備が整い、俺は応接室の椅子に腰かけて待っていた。やがてドアが静かに開き、一人の若い女が入ってくる。
「失礼します……」
女は上質なスーツに身を包み、シャツはきっちりと整えられていた。緊張してるのか笑みはない。
子供の俺を見て驚いたようだったが、すぐに表情を引き締めた。なかなか度胸があって、好感がもてる。
席をすすめると優雅に女は座った。
「俺の名前はアラシ・テンマ。天女団の総司令だ。さて本題に入るとするか、あんたの目的は?」
「は、はい。私はクララ・クローネと申します。本日はお時間を頂き、誠に感謝いたします、アラシ司令。アンダー交渉事務所の交渉役です」
女は名刺を差し出してくる。
「前置きになりますが、私達は依頼を受けてこちらに参りました。依頼主の名は明かせませんが、ここに出資していた資産家の御家族です。まずそちらの要求を伺った上で、こちらの要望をお伝えします。敵対する意思は一切ございません」
「ふーん、その前にスケベのパトロン共が、どうなったか聞いていいか? 災害でくたばったらしいが、確認しておきたい」
「……分かりました。中心人物であった大富豪エロシタイン伯爵は、私有船『ロリペド・エクスプレス号』に仲間達と乗り込み、この惑星へ向かっていました。同乗者にはクリキントン元大統領やウンドルー王子など、宇宙の要人の方々がいましたが災害事故により、いずれも帰らぬ人となりました。出資者で残ってる方はわずかです」
「けっ、ざまあ! 生命を弄ぶような真似をするから、そうなるんだ。いい気味だ! それじゃあ先に、あんたらの要求を聞こう」
「ッ……」
クララは戸惑ったように見えた。先に相手が望む物を与えて、心証をよくしてから、要求を飲ませる気だったのだろう。
交渉のやり方として正しいが、俺はあえて意地悪をする。
クララは諦めたように言った。
「宇宙は復興中ですが、この災害をきっかけに、様々な不祥事が明るみに出ました。ここでの非人道的な行為が世に知られると、出資者の親族一同が非難されてしまいます。それを避けたいので、アラシ司令と天女団の皆様には、口外を控えていただきたいのです。もちろん無償ではなく、必要な物資やあらゆる物を毎年お渡しします」
「はん、人目が悪いから、俺達に『黙ってろ』ってか⁈ そんな都合のいい話、簡単には飲めねえな」
「も、もちろん、あくまでお願いですので、条件に関しましては調整をさせて……」
「それは無理なんだよ。俺達が欲しいのは物じゃなくて――――!」
いきなり内線電話が鳴り響き、俺は応答スイッチを押す。
「どうした?」
『会談中に失礼いたします。緊急の御報告があります。更に三隻の船が降下してきました。こちらも交渉を求めてきてます。どうしますか、司令?』
「……そうか、なら誘導してやれ。おもてなしは赤い紅茶でな」
『了解しました!』
「さて、クララさんや、来たのはあんたの仲間か?」
俺がニヤつきながら問いかけると、クララはみるみる顔色を失い、慌てて首を振った。
「違います、ただの同業者です! こちらが先に交渉をすることは、事務所間で取り決めしたはずです! こんなの約束違反です!」
「ずいぶんと緩い取り決めだな。まあいい、そいつが来るまで休憩しようや、手洗いに行くといい。一緒に話そうじゃないか、くっくくくく」
「……はい」
俺は部屋から廊下に出て、無線機で指示を出す。
「静香、デフコンを2に引き上げろ。部隊を展開して作戦通りに動け。情け容赦なくやれ! 徹底的にな‼」
『了解した、アラシ!』
すでに隠語で伝えてあるので、あとは部下に任せるだけだ。
それから応接室に戻り、クララと一緒に待ってると、また内線が入る。
『司令、訪問者がライターの持ち込みを求めてますが、どうしますか?』
「ライターねぇ……ふっ、あからさまだな。どうせ煙草は持ってないんだろ?」
『はい、あとはノートが入った鞄だけです。金属探知機は反応しませんでした』
「かまわん、通してやれ。後は俺が相手をしてやる」
『了解しました』
やがて、ノックもなしにドアが乱暴に開く。
「よう、邪魔するぜ。俺はガルバス傭兵団のジョンだ」
部屋に入ってきた若い男は、軽薄そうな顔でニヤニヤ笑っていた。
体つきを見れば強さは大体分かる。男は軍人というより、ゴロツキに近い。
戦闘服で強そうに見えても、歩き方や筋肉のつき方までは誤魔化せない。
俺を見るなり男は鼻で笑った。
「なんだあ? こんなガキが司令だと? 冗談はよせよ、かっかかかか!」
無礼な男に対して、クララが食ってかかる。
「本当ですよ! そもそも何故、貴方が割りこんできたのですか⁈ 約束では――」
「あーうるせえな、文句なら上に言え! こっちの雇い主は別だからよ。さっさと、終わらせるとするか」
ジョンは立ったまま、持ってきた鞄から銃身パーツを取り出す。
底にでも隠しておいたのだろう。材質は強化プラスチックと樹脂といったところか。
ライターはグリップ兼マガジンへと変わり、そのまま銃身に装着される。
わずか数秒で、小型拳銃が完成した。
「あばよ」
ジョンが俺に狙いを定め、引き金を引く。
バン!
発砲音が室内に響いて、すぐさま悲鳴が上がる。
「きゃあああああああ!」
俺は椅子ごと後ろに倒れた。
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