酒宴
「一~三班はA区画の防衛、四~五班はD区画の防衛、六~九班はEとF区画を交互に移動して敵をかく乱して。十班は陽動よ」
『分かりました、静香様!』
今度は静香が圧倒していた。天音の部隊が入ったのも大きいが、もともと防衛戦が得意なのだ。
陣形を組むのが上手い。部隊配置は絶妙で、敵がどの通路にきても、連携して阻めるようになっていた。
「ぬうう、やるな静香」
あらゆる戦法を駆使して志乃は攻めまくるが、部隊の被害が増えていくだけ。
志乃は野戦や艦隊戦は得意だが、狭い場所での局地戦は苦手のようだ。
最後まで粘ったものの、要所を奪い切れないまま時間切れ。静香の勝ち。
一勝一敗。見応えのある良い勝負だったので、俺は二人を褒める。
「静香も志乃も、いい用兵だった」
「ありがとうございます、司令。部隊と兵士の才覚によって、戦況ががらりと変わるので、良い経験になりました」
「まったくだわ!」
静香は文句を言いたいのを我慢していた。
どんな理由があろうと結果には、指揮官は責任をとらねばならない。厳しいけどね。
敵も味方も思い通りに動くわけではないので、戦場では最善をつくすしかないのだ。
それでも、どうしようもない時は逃げればいい。そして反撃の機会を狙うのだ。
二人の勝負が終わり、次は天音と弥生の戦いになる。
「ふっふっふ、私は負けない……」
「この前のリベンジだ!」
今回の演習には目的があり、次の指揮官を育てることだった。
志乃と静香だけに頼っていたら、二人が不在の時に、軍全体が動けなくなってしまう。
なので他の候補達にも、演習で指揮経験を積ませる。
ただこの戦いは弥生が奇策を連発して、それを天音がなんとか防ぐ展開になり、泥仕合のようになってしまう。
偵察隊の機甲羽衣を脱がし、ダストシュートや通気口に入り込ませたので、かなり汚れてしまう。
「くさーい!」
「…………」
見ている側としては、かなり見苦しい戦いだったが、実戦では何でもありだ。
卑怯と言われようが、どんな手を使っても勝たねば死ぬだけである。
劣悪な環境下での戦闘はもっと厳しいので、良い経験になるだろう。
こうして艦内演習は終わり、次の日には表彰と賞品の贈呈を行った。
その後は、全軍での打ち上げ――宴会である。反省会はしない。
今日は一日休んで、英気を養ってもらう。
「かんぱーい!」
「うぐぐぐ……うらやましい……」
優勝したのは、弥生の小隊。個人成績もダントツである。
準優勝は天音で、下馬評通りになったと言える。
そして弥生は、手に入れた特級酒を部下達と飲んでいた。
指揮した小隊にもお裾分けして、部下にもちゃんと気を配れるので、やはり優秀な上官である。
美味そうに味わっていると、紅美がヨダレを垂らしながら近づいてくる。
おこぼれにあずかりたいらしい。
「なあ、弥生……おちょこ一杯でいいから、酒をくれないか? アタイも部下だろ?」
「……だめだ。大活躍したのは部下達だし、紅美は分隊扱いだからあげない」
「うう……」
「ほれ、代わりにコレをやるから我慢しろ」
「参加賞のカップ酒じゃねーか! これも美味いからいいけど……」
紅美は未練たらたらで、蓋を開けて安酒を一気に飲んだ。
その後も天音にたかろうとするが、素気無く断られて、特殊分隊の集まりに戻った。
そして全員でやけ酒をあおる。
「次こそは、特級酒を飲むぞ!」
「おう! 一級酒でもいいな!」
「頑張るニャ!」
内容はともかく成績は良かったので、ひと瓶だけ二級酒を手にしていたのだ。
特級酒には遠く及ばないが、十分美味い酒である。
みんなで分け合って雪辱を誓った。
宴会だからこそ、忙しい部隊もいる。炊事班だ。
「待て! その肉は、まだ焼き始めたばかりだ!」
「皿が足りない、至急追加を請う!」
「盛り付け完了! 直ちにワゴンで運べ!」
調理場は戦場である。手伝いに年少組と増援部隊が入っているものの、休む暇はなかった。
理由は単純、軍人なので一般人の二倍以上は食うからだ。でなければ訓練で動き回れない。
それで、料理を作っても作っても足りないのだ。
仕事が大変なので総料理長と炊事班には特別手当として、一級酒と料理酒を渡していた。これに文句をつける者はいなかった。
俺は休憩中の椿を労う。
「ご苦労様、椿」
「はい、アラシ殿。お酒を頂いてるので、報酬は十分でありますよ。もっとも、我らは飲まずに、料理に使ってしまうでありますが」
「ははは、みんな料理好きだからな。肉と魚の臭み消しに酒はちょうどいい」
「次はニホン酒にあう料理を作りたいですが、アノ素材が欲しいでありますね」
「おう。開発計画は進めてるから、もうちょっと待ってくれ」
炊事班は美味い物の探求に余念がない。少し前まで満足に食べられなかった反動だろう。
新メニューの開発には、天女団全員が協力している。
俺は手を上げ別な場所へ向かう。総司令官なので、あちこちに顔を出して、気を配らねばならなかった。
やってきたのは、新住民達の集まりだ。
元奴隷・捕虜・難民達を差別したくなかったので、まとめて「新住民」と呼ぶことにしたのだ。
軍には属さずに、生産やその他の仕事をしてもらっている。戦闘はさせない。
助けた当初は暗い顔をしていたが、いまはすっかり馴染んで笑顔に変わった。
まあ来たばかりのタルボットの人々は、まだぎこちないが。
まず俺は、まとめ役であるホセリアと話す。
彼女は外交官か大使のような扱いで、ホークブルク家との連絡や、ビジネスの相談をしている。
「それでは、今回の演習を編集して動画配信します。みんな娯楽には餓えてますから、新生惑星機構でうけると思います。ただ共和国にも軍事情報が伝わることになりますが? 機密がばれるかも……」
「かまわん、構わん。こんなのは所詮お遊びだ。実戦では手榴弾や閃光弾を投げるし、ドローンやロボット犬も使う。戦い方はまるで違うから問題ない。それでも天女団の強さは見れば分かるから、威圧と宣伝には使えるだろう。ガンガン流してくれ」
「分かりました、アラシさん。それでは動画の収益金で、次の賞品と生活必需品を購入いたします。余った分は貯蓄しておきますね」
「任せた、ホセリア」
ホークブルク家からの援助に、いつまでも頼ってはいられない。
機材と設備はありがたくもらったが、あとは自分達で物を生産しなければならない。
俺達は金を使ってないので、バーター取引になる。それで必要な物だけを買う。
場合によっては資源を売る気でいるが、これに頼り過ぎると怠け者になるから危険だ。
楽な暮らしは麻薬のように中毒になって、止められなくなる。資源の罠だ。
平和に暮らすには他星に頼らず自立して、生活基盤を作っていかねばならない。
そのためにも、俺はアーロンにあることを頼んだ。
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