全滅、失踪、大混乱
サラ達は無事にランボー星から出ていった。異変に気づいた者はいない。
事態が動き出したのは、その日の昼過ぎ。凶報が官邸にもたらされ、蜂の巣をつついたような騒ぎになる。
「遠征軍から、連絡が途絶えました。状況不明!」
「不確定情報ですが、艦隊は全滅したもよう!」
「信じられん!」
「本当かどうか、各方面に確認しろ!」
政府の情報官達は休む間もなく、必死で働いていた。国の一大事である。
こんな状況でも、マルクスが女遊びをしてるかと思うと、怒りしか沸いてこない。
秘書は連絡を取ろうとしたのだが、携帯電話にでるなり、
『やかましい! お前らでなんとかしろ!』
怒鳴られて、すぐに切られてしまった。
いつものことなので、時間をおいてから、もう一度電話をかけるも……
『黙れ! 俺が楽しんでるとこを邪魔するな! 殺すぞ!』
と脅されてしまい、それ以上は連絡しにくくなった。
マルクスは本気でやりかねない男だから、なおさら恐ろしい。
仕方なく秘書はショート・メッセージを送り、後で読んでもらうことにした。
「今はとにかく情報収集をしておこう。対応策を考えるにしても、状況が分からなければ話にならん。どうせ上級評議員は、後始末を俺達に押しつけるだけだからな」
「……そうですね。しかし遠征が失敗したとなると、国家の存亡に関わります。果たして、我々にどこまで対処できるのか……」
官僚達は頭を抱えていた。軍が敗れたことは、皆薄々感じていた。
もともと遠征計画には無理があったからだ。
それでも、手をこまねいているわけにはいかず、最善策を講じる必要があった。
もうマルクスだけの問題ではなく、自分達の身にも関わってくるので、誰もが真剣に仕事に取り組んでいた。
こうして、慌ただしい一日が過ぎる。マルクスからの連絡はない。
――次の日の朝。
不興を買うのを承知で電話をかけるも、またもや怒鳴りつけられ、切られてしまった。
それでもめげずに何度もかけるが、マルクスの反応は同じ。
「……これは、絶対におかしい。携帯の位置情報ではマンションからは、動いていないようだが……何かあったのではないか?」
マルクスが無能だとしても、遠征軍の戦況が気にならないわけがないのだ。
何しろ侵攻計画を立てて出兵を命じたのは、マルクス本人なのだから。
異変を感じた秘書は同僚達と一緒に、直接マンションに向かった。
最上階の入り口でインターホンを鳴らしてみる…………反応がない。
何度押しても返事はこないが、なぜか携帯にはつながって、罵声だけが返ってくる。
「これは異常事態だ! 責任は俺がとる! 鍵屋じゃ、ここの扉は開けられん。解体業者に連絡してドアを破壊する!」
「分かりました!」
しばらくして、解体業者がやってくる。
分厚いドアに近づいて調べると、男は難しい顔をして言った。
「こりゃあ、普通のチェーンソーじゃ無理ですな。鍵の部分だけ、プラズマカッターで溶断するしかありませんぜ。時間もかかりやすが、本当に壊していいんですかい?」
「構わん。あと、このことは他言無用だ」
「へいへい、特別料金さえいただけりゃ、何も言いませんぜ」
秘書は肯き、電子契約書にサインをすると作業が始まった。
ここで待っていても仕方ないので、あとは業者に任せて秘書達は下に降り、昼食をとることにした。これから大変な仕事があるので、食わねばならない。
数時間後、溶断作業は完了し正面扉は開いたものの、各部屋にも鍵がかかっており、開けるのに苦労することになる。
その前にフロア内で、大声で呼びかけてみた。
「マルクス様ー! どこにいますかー?」
「大丈夫ですかー!」
もちろん返事はない……ただの屍なのだから。台座が喋ることもなかった。
もう一度、マルクスの携帯にかけてみるが、フロア内での着信音がしない。
「ここに、スマホはないのか⁈ 一体どこに?」
「調べます…………反応は屋上です!」
「議員はそこにいるのか?」
慌てて階段をかけ上がり、屋上扉を開けて外に出てみたが誰もいない。
あったのは、黒いボストンバッグのみ。
一人が近づこうとしたところ、秘書が慌てて腕を掴んだ。
「待て! 離れろ! いかにも怪しいぞ!」
「あっ、はい!」
その勘は正しかった。ボン! と音を立ててバッグが爆発したのである。
幸い規模は小さく被害はなかったが、バッグは黒焦げになって中にあった装置と、大人の玩具の破片が辺りに飛び散った。
「一体なんなんだ……?」
これは証拠隠滅である。
バッグの中にはマルクスのスマートフォンと、自動応答装置が入っていたのだ。
電話をかければ、マルクス本人が返事をしているように聞こえる。
これに秘書は騙されていた。
そして、人がバッグに近づくと爆発する仕掛けだったのだ。
装置は焼け焦げ、玩具の電子部品と混ざりあったので、何が入っていたか調べようもない。
電話が通じなくなったことだけは確かだ。
秘書達はしばらく呆然としていたが、気を取り直してマルクスの行方を捜した。
軍警察に相談すべきなのだが、政府のトップが行方不明などと、公表するわけにはいかない。
国内はもちろん、地方惑星や同盟にも大きな影響を与えてしまう。
だから、口の固い者だけで捜索するしかない。これでマルクスの死体でも見つかっていれば、話は簡単だった。
下級評議員達を集め、臨時の代表を選出すればいい。
しかし、本人が生きている可能性がある以上、誰も政治を担う権利がないのだ。
ただの不在では、上級評議員の地位を引き継ぐことはできない。
表向きは法治国家である以上、法律に従うしかなかった。官僚なら尚更。
「そうだ! ここに来ていた娼婦がいたな、何らかの事情を知ってるはずだ!」
秘書は三人の女達を思い出した。まさか彼女らがエスパー姉妹で、事件の犯人だとは思いもよらなかった。
急いで連絡を取ろうとするのも、すでにランボー星を出たあとだった。
デリヘルの運営先である、ヴィーナス派遣会社に問い合わせて見るも、
『アンに、サツキに、シャル? そのような者は登録されておりませんが……』
「なん…だと…」
秘書は頭が真っ白になってしまった。もうどうしていいか、分からない。
名探偵がいたとしても、証拠もなく容疑者も分からないのでは、解決のしようがなかった。ドラマやアニメのように、都合良くはいかない。
オロオロしているうちに、時間だけが過ぎて、やがてマルクスの不在を隠しきれなくなってしまう。
数日が経って、辺境惑星同盟が高らかに勝利宣言をしたのだ。
侵攻してきた艦隊を全滅させたと、誇らしげに宇宙中へ向けて発表したのだ。
『我々、辺境惑星同盟は共和国軍を完全に撃破した! 共和国、恐るるに足らず! 立ち上がれ、抑圧された星民達よ! 共和国の独裁者を打ち倒すのだ!』
ランボー星はもちろん、宇宙に衝撃が走る。政府には問い合わせが殺到した。
「一体どうなってる⁈ 上級評議員はどこにいる? さっさと出てこい!」
「マルクスに説明させろ!」
国民の声を抑えきれず、秘書はマルクスが行方不明であると公表するしかなかった。
これで政府は大混乱に陥る。
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