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神力の少年兵  作者: 夢野楽人
第三章 争乱編

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モノローグ サラ8

 マンションの最上階は、フロア全体が一つの住居でした。


 エントランス(入り口)には大理石が敷かれ、両開きの扉を開けると、広いリビングがあります。

 壁一面は巨大なガラス窓で、街を見下ろせました。

 通路を歩いていくと様々な部屋があります。どれもこれも無駄に広い。

 専用のバーカウンターやワインセラーもあり、生活用品はすべて高級品です。


 私達が眉をひそめたのは、バカでかいベッドと黄金の浴槽でした。あとマルクスの像。


 権力者が悪趣味なるのは、この世の全ての物を手に入れたと、思いたいからでしょう……女も含めて。


 ここに入れるのは、マルクスと許可された者だけです。恐らく秘書でも入れない。

 常に命を狙われてる悪党が人を信用するはずもなく、正攻法でマルクスに近づくのは、困難だったでしょう

 だからこそ、娼婦に成りすましたのです。私は妹達に合図します。


「さあ、お客様を迎える準備をしましょう」

「ええ、おね……アン」


 ルナはこっそりと端末に近づき、電脳支配《サイバー・ドミネーション》を使いました。

 これでマンションの制御システムは、ルナの手に落ちました。


「これでもう大丈夫よ、お姉ちゃん……流石にアソコには、アクセスできないわね」

「仕方ないわ、豚(・)が来るのを待ちましょう」

 

 私達は手はず通りに配置につきます。



 ――一時間後、鼻の下を伸ばしたマルクスがやってきました。


 リビングに入ると誰もいないので、辺りを見回して首をかしげますが、机のメモを見てニタリと笑いました。


『お風呂で体を洗ってます』


「そうかそうか、ならば俺も一緒に入るとしよう。ぶひひひひひ!」


 不気味な笑顔になり、手早く服を脱いで、スッポンポンになりました。

 足早に、全面ガラス張りの浴室にやってきます。

 湯気で奥が見えない中、扉を開けて私に近づいてきます。


「さーて、子猫ちゃんはどんな顔をしてるのかな?」


「こーんな顔ですよ。半冬眠(ハイバネーション)!」


「き、貴様はもしや……あ……」


 私はのっぺらぼうを真似ながら、氷の超能力で、マルクスの身体を微凍結(パーシャル)にしました。


 まだ殺してはいません。逃げられないように、体の自由だけを奪いました。

 水着姿の私はマルクスに目隠しをして、股間には防水テープを貼って目張りします。

 ……いつまでも見ていたくないので。


「姉貴、大丈夫か? うう、寒(さぶ)い」

「ええ、リジー。こいつを運ぶのを手伝って」


 湯気から一転、浴室は凍り付いて、壁も床も霜だらけです。

 私達はマルクスの両腕を持ち、居間まで引きずっていきます。

 こういう時、力のあるブリジットは頼りになります。 

 ああ、念力を使える隊長がいてくれたら……早く会いたい。

 

 私達は執務室にマルクスを連れて行き、椅子に座らせてから目隠しを外します。

 少し凍ったままなので、身体も口もまともには動かせません。自分に何が起きてるのかも、分からないでしょう。机の上には端末がありました。


【マルクス上級評議員の生体認証を確認。政府中央サーバーへのアクセスが可能です】


 マルクスを生かしておいたのは、国のシステムにハッキングする為でした。

 始末するだけなら簡単ですが、将来の布石を打っておく必要があったからです。

 

「侵入成功よ、お姉ちゃん。直ぐに終わらせるわ」

「ええお願い、ルナ」


 キーボードを高速で叩くようなことはしません。用意しておいた水晶記憶装置(クリスタル・メモリ)を端末に接続し、中のプログラムを転送するだけです。

 これはシステムを破壊するものではなく、データをロックして身代金を要求する、ランサムウェアでもない。 


 AIのスパイウェアで、政府の機密情報を同盟に送信するウィルスでした。

 ルナの作ったAIは半端ではなく、別サーバーに自らを複製し分散するので、駆除はほぼ不可能です。そして感染に気づかれることもない。


 これ以降、ランボー星の情報は私達に筒抜けになります。上手くいけば、他の上級評議員の情報も手に入るでしょう。


「ひとまず終わったな、姉貴」

「まだ半分よ。まずはゴミ(・・)を片付けましょう。フリージング」


 私はマルクスを完全に凍らせて、息の根を止めました。もう用済みです。

 亡骸はボストンバッグに隠していた、遺体袋に詰めました。


 これから脱出するので、いろいろと小細工をして、遺体発見を遅らせる必要があります。


「どこに隠す?」

「あれにしましょう」


 指差したのは部屋の隅に置かれた、マルクスの石像……の台座。

 蓋を開けると人が入れるくらいの空洞があったので、無理矢理押し込んで閉めました。


「あとは、あたいに任せろ」


 リジーは超能力で高温の炎を指先から出して、蓋を溶接しました。

 これで継ぎ目は完全に塞がり、もう簡単には開けられません。


 バタバタしてるうちに、どんどん時間は過ぎていきます。

 なるべく証拠を残さないように、痕跡を消して回ります。もっとも、ここに来た女性は多いので、私達を特定するのは難しいでしょう。


 一段落したところで、交代で仮眠を取りました。場所は問題ですが、ベッドがあるだけマシです。


「何時でも何処でも、どんな状態でも眠れるようになれ。休まないと動けなくなる」


 私は隊長との特訓を思い出します。そうしなければ、戦場を渡り歩けなかったでしょう。

 厳しい反面、私達に毛布をかけてくれましたので、その気遣いが嬉しかった。


 朝になって、私達はエントランスから外へ出ました。同時に全ての扉が施錠されて、誰も最上階に入れなくなりました。

 侵入するには、頑丈な扉を破壊するしかありません。相当な時間がかかるはず。


 エレベーターで地下駐車場に降りると、一台の無人送迎車がこちらへ走ってきました。

 目の前で停車するとドアが開き、私達は乗り込んで、そのまま宇宙港へと向かいます。


 まだ誰もマルクスが死んだとは気づいていません。

 大騒ぎになるのは、ランボー星を発った後でした。

お読みいただきありがとうございます。この作品がお気に召したら

ブックマークと★評価よろしくお願いします。


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