最後のあがき
残るはβ星に進軍している、ドジール総大将のみ。
こちらの艦隊は襲撃されることもなく、機雷に阻まれもしなかったが、別なことで進軍が遅れていた。
『動力機関が故障しました。航行不能です』
『あーこっちは、時空転移装置が動きません。艦隊に付いていけません』
「敵と戦う前に、故障と戦わねばならんのか……」
ドジールは頭を抱えた。理由は分かってるから誰も責めようがない。
つまるところ、艦船のメンテナンスが間に合わなかったのだ。
大半がボロ船。長距離を移動すればするほど、故障率は跳ね上がる。
進軍はままならず、時間だけが過ぎていく。このままでは作戦予定時刻に間に合わない。
他の大将達と合流するので、遅れるわけにはいかなかった。
「もう待てん。使えん艦は置いていく」
「しかし司令、それでは戦力が減ることになります」
「構わん。また壊れるかもしれんのに、何時までも待ってる余裕はない。どうせ故障したのは補給艦ばかりで戦力にはならん。修理が終わり次第、追いかけてくるように伝えろ」
「了解しました」
副官は乗り気ではなかったが、進軍を止めてるわけにはいかなかった。
こうして約百隻が離脱する。しかし、故障の大半は大嘘だった。
地方から動員された兵士達は、辺境惑星同盟と取引をして、参戦しないことを約束していたのだ。
そしてこの戦いの後に、同盟に参加する予定。
「マルクスなんぞのために、命をかけられるか!」
恨まれていたので、離反工作は思った以上の成果を上げていた。
最初から戦う気はなく、離脱する機会を待っていたのである。
だが、ドジールはそれを知らない。動員兵を疑うこともしない間抜け。
贅沢ばかりしてきたので、貧しい者の本音が分からなかった。
「よし、これで少しは身軽になったろう。全艦、進軍を再開せよ!」
「了解!」
――そして、数日後。
ドジール艦隊は何事もなく、β星へと到着した。
ただ補給艦を含めて、追いついていない艦も多く、艦数は六百隻に減っていた。
念には念を入れ、まずは周囲をくまなく探索する。
「敵影、一切見当たりません!」
「これはα星に三姉妹は行ったな、ヘボーンは運がない。無事にこっちに来られると良いが……まあいい、こちらは惑星の占領を開始する。まずは降伏勧告をしろ」
「はい」
副官が通信兵に指示をだす。しかし、しばらく待っても音沙汰はなかった。
「どうした?」
「それが全く応答がありません。それどころか、どの周波数からも電波が発信されておりません。まるで誰もいないかのようです」
「ありえん。無人だとでも言うのか?」
「どうしますか、司令?」
ドジールは腕を組み、少し考えてから言った。
「罠の可能性もあるな、まずは海兵隊に地上を調査させろ。降下艇を少しだせ」
「分かりました」
すぐに数隻の降下艇が発進し、降下を開始する。
大気圏を抜けβ星の地表が近づいてくると、建物や道路や鉄道は見えた。
しかし、車や電車などの乗り物は動いておらず、人っ子一人見当たらない。
その映像は旗艦にも送られ、ドジールは驚く。
「まさか、本当に無人なのか⁈」
そう、β星の全住民はすでに疎開していたのだ。もともと人口は少なかったし、三カ月もあれば余裕を持って避難できた。α星も同じで、状況が落ち着いたら戻る予定。
戦争中なので仕方なく、星民達は我慢して疎開したのだ。
ならばドジールにとっては無血占領できて、めでたい話だがそうではなかった。
海兵隊が主要施設を調べたところ、艦は一隻も残されておらず、食料と弾薬と燃料は全く見つからなかった。
敵に利用される物資を残しておくはずもない。これではβ星を前線基地として、同盟領に侵攻する計画はおジャンになった。
一から補給施設をつくるなど不可能。そして、ランボー星に帰還するのも困難になる。
略奪品を当てにしていたのだから、甘い作戦計画だったと言わざるを得ない。
もっとも状況を確かめもせずに侵攻し、ルナが流した偽情報に踊らされた面もある。
留まるも地獄、戻るも地獄である。
「ザルーノ、ヘボーンと連絡はつかないのか? 補給艦はまだ来ないのか?」
「確認中です」
焦ったドジールは他人に頼ろうとしたが、もう二大将は亡くなっていた。
それを知る由もなく、時間だけが過ぎていく。どうしていいのか分からない。
そして……
「時空転移反応を遠方に確認……味方の補給艦です!」
「おおっ!」
「他にも艦が、続々と転移してきます」
「やれやれ、アイツら間に合ってくれたか」
ドジールはホッとしかけるが、
「待ってください、司令! こ、これは敵艦隊です! 敵旗艦ファミリー号を確認! 辺境惑星同盟軍です‼」
「なんだとー!」
索敵担当がもたらしたのは、吉報ではなく凶報だった。
しかも味方のはずの補給艦は敵に回り、敵味方識別装置を切り替えてしまう。
ドジール艦隊は何もしないまま包囲された。味方は六〇〇隻で、敵は一二〇〇隻。
戦力差は二倍で、さらに三姉妹がいるなら勝ち目などない。
そこに旗艦に通信が入った。モニターに映ったのはサラである。
『これより、総攻撃を開始します』
「待て!」
ドジールが叫ぶも、通信は一瞬で切られた。交渉をする気も、降伏を認めるつもりもないのだろう。ただの最後通告だ。
「司令……」
「分かっている。全艦戦闘準備、撃って、撃って、撃ちまくれ!」
「了解」
同盟艦隊が交戦距離に入ると、双方の撃ち合いが始まった。
とはいえ、ドジール艦隊は惑星を背にして囲まれており、圧倒的に不利である。
味方艦は瞬く間に撃沈されていく。数の差は覆しようもない。
同盟艦隊の被害は少なく、ドジール艦隊が全滅するのも時間の問題。
そして死が間近に迫ってくると、人は見苦しく足掻くものだった。
「き、旗艦を降下させろ! 地上へ逃げるんだ!」
「わ、分かりました!」
ドジールは味方を見捨て、唯一の逃げ場へと必死に向かう。
周りに敵がいるので意味はないが、藁にもすがる思いだった。
しかし、なぜか同盟艦は追ってこない。
旗艦が大気圏を抜け、ドジールは脱出艇で外へ逃げようとするが、
「ミサイル、多数接近!」
「そんな……」
数十発の対空ミサイルをくらい、旗艦は轟沈した。地上に隠されていた最後の罠である。
こうしてドジール総大将は逝き、残った艦も宇宙の藻屑と消えた。
かくして侵攻作戦は失敗し、辺境惑星同盟軍の大勝利に終わった。
この作品がお気に召しましたら、ご感想などお寄せいただけましたら幸いです。
今後の執筆の励みになります。




