三途の川へ、ご案内
「カモ星門には、百隻。α星とβ星には、それぞれ七百隻が制圧に向かうことにしよう」
「ああ……」
「異論はない……」
ドジールの提案に二人は力なく肯く。星門からは、同盟は撤退したとの情報が入っているので無血占領できるだろう。
問題は二つの惑星への対応だった。攻めるとしても、敵はあの三姉妹。
恐らくどちらかの惑星にいて待ち構えいるだろう。まず勝てるとは思えなかった。
しかも同盟軍の艦数は千隻と聞いてるので、戦力的には不利な状況だった。
三方面を攻めるから戦力が減るのだが、艦隊を集結させて戦う考えは、三大将にはなかった。
マルクスの命令もあるが、当初の作戦目標を変えようとはしなかった。
いや……正確には変えられなかった。
補給の問題で、ランボー星に近い宙域にしかいけないのだ。遠くに行けば干上がってしまう。
ましてや、燃料と弾薬はタダでさえ少ない状況で、どうしようもない。
一応策はある。
「作戦通り二つの惑星に侵攻はするが、同盟艦隊に出くわしたら即時撤退だ。別の惑星で味方艦隊と合流する。外れクジを引いても恨むなよ」
「分かっている。あの三姉妹から逃げるのは大変だからな。かなり犠牲はでるだろう」
「地方艦を囮にすればいい。とにかく星門一つと惑星一つ獲れば、戦果としては十分だろう。マルクスも文句は言うまい」
三大将は始めから戦う気はなく、同盟領を分捕ったという戦果だけを、手にする気だった。
ただの空き巣狙いである。軍隊と言うより、コソ泥。
それでも、三姉妹を相手にするのだけは嫌だった。その理由は恐怖。
もし負けて生け捕りにされってしまったら、その身柄は民衆に引き渡される。
そして裁判もなしに、見せしめとして無惨に殺されるのだ。
軍閥将校の末路を見ているので、その光景を思い出すだけで身の毛がよだつ。ぶるぶる。
恨まれてる共和国の軍人も、同じ目に遭うだろう。
サラ達がどこに現れるか不明なので恐怖は増す。
担当宙域を籤引きで決めることにしたが、三人とも絶対に当たりたくないと思っている。
こうして侵攻作戦は始まった。
カモ星門を奪取しに行くのは、ザルーノ大将。
「同盟軍は去ったようだし、三姉妹もコッチには来ないだろう。俺はくじ運が良かった。これは楽勝だな、はっはははは…………はあ⁈」
「司令! 敵艦隊が左右から急速接近中! ご指示を!」
「ばかなあああああー! まだ航路の途中だぞ!」
油断して偵察艦もださず、敵の動きを確認していなかった。気づいた時にはもう遅い。
左右から同盟艦隊に挟み撃ちにされてしまう。奇襲攻撃だ!
味方は百隻、敵は二百隻。倍の敵が待ち伏せしていたのである。
楽勝ムードから一転、ザルーノは窮地に追い込まれる。
「に、逃げろー!」
「無理です! 敵艦隊砲撃を開始しました!」
「くたばりやがれ!」
「俺達の恨み、思い知れ!」
同盟艦隊は撃って撃って撃ちまくる。ザルーノ艦隊の被害はどんどん拡大していく。
固定式砲塔が仇となり、主砲のある艦首を横に向けてる間にやられてしまう。
副砲とミサイルでの応戦が精一杯。ただ左右の艦がバラバラに撃ってるので、効果はまったくなかった。
もはや勝ち目はない……いや最初からなかった。
「ひぃいいい! 死ぬのは嫌だあぁ! 降伏だ、降伏する!」
「ダメです司令! 一切の通信を受け付けてません!」
「なんでだああああ!」
最初から降伏を受ける気などなかった。見敵必殺、共和国軍にかける情けはない。
反撃もままならぬうちに、僚艦は次々と撃沈されていく。もはや一方的だった。
やがて砲火は止み宇宙に静けさが戻る。こうして、ザルーノは宇宙の塵となった。
「我が軍の損害軽微です!」
「よし、このまま次の作戦宙域へ向かう。戦いはまだ始まったばかりだ!」
「了解!」
奇襲作戦は大成功。わずかな残敵は無視し、同盟艦隊は友軍の元へと急ぐ。
α星に向けて進軍していたのは、ヘボーン大将。
「三姉妹と出遭いませんように……」
「…………」
指揮官席の脇に、小さな祭壇を作って拝んでいた。
普段は神も仏も信じてもいないくせに、こういう時だけ神頼み。
副官や艦橋員達は半ば呆れていたが、ヘボーンの気持ちも少しは分かるので、見て見ぬを振りをしている。
それだけ、三姉妹は恐ろしい。軍閥も共和国軍も、勝った者は誰一人いないのだ。
なので常に警戒態勢を取り、ザルーノとは違って偵察艦も出している。
もっともこの時点で、ザルーノ艦隊は奇襲されており、ヘボーンは知るよしもなかった。
いまのとこ敵艦の姿は見えない。だが、前方で爆発光が瞬いた。
「何事だ⁈」
「恐らく機雷攻撃かと!」
「くそっ! 全艦停止。機雷掃海艇を出せ!」
「了解!」
ザルーノの判断は早かった。そのまま前進していたら、機雷にやられていただろう。
しかし状況は深刻であった。しばらくして、掃海艇から連絡が入る。
『探査したところ、機雷の数は少ないですが、広範囲に散らばってます。種類も時限型・浮遊型・感応型と様々で、全てを排除するには、時間がかかりすぎます』
「うーむ……」
ヘボーンは悩む。
同盟からすれば、攻撃される惑星が分かっているので、敵の進軍航路も見えてくる。
ならば、そこに罠を仕掛けておけばいい。
「これは我らを足止めする気ですな。ここで停船してるのは非常にマズい。敵艦隊に襲われるかも知れません。ならば多少の被害は覚悟して迂回しましょう、司令」
「……そうするしかないか。掃海艇を先行させて、進路を確保しろ」
ヘボーンは副官の進言に従うしかなかった。
慎重に進むので進軍速度は、かなり落ちることになる。機雷に気を取られてるうちに、ある地点に誘導されてることには、誰も気づかなかった。
真の罠に気づいた時にはもう遅い。無人管制艇のカメラとセンサーが、ヘボーン艦隊を捉えた。
そして周囲の残骸に隠されていた、多数のミサイルが一斉に動き出す。
「全方向からミサイル接近! 避けられません!」
「うそだろ⁈」
直後、ヘボーン艦隊はミサイルの直撃を喰らう。迎撃は間に合わない。
不意打ちの上に、近距離からの攻撃だったのでどうしようもなかった。
「被害甚大! 前衛艦隊が壊滅状態です!」
「司令、ご指示を!」
と副官が叫ぶも、ヘボーンは祭壇で両手を合わせていた。
「お助けください、神様! どうかお願いします! 今度だけは……いやこれからも、ズッと助けてください!」
「……終わった」
副官は天を仰ぐ
結局も何も出来ないまま、一方的に艦隊は撃たれた。しかもこれで終わりではない。
トドメを刺すべく、同盟艦隊がやってきたのだ。すでにボロボロのヘボーン艦隊に、為す術はなかった。全ての艦が撃沈される。
ヘボーンはあの世へ逝ったが、その願いは半分だけ叶えられた。三姉妹に遭わずには済んだのだから。
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