お家事情が最悪です
「兵も艦も、まだ集まっていないだと⁈ 何をやってる貴様ら!」
ランボー星の官邸で、マルクスは司令官達を怒鳴りつけていた。
作戦会議室にいたのはドジール・ヘボーン・ザルーノの三大将。
今回の辺境惑星同盟への侵攻では、その指揮を任せられている。
三人は少しひるんだものの、言い訳をしてきた。
「確かに動員はしましたが、徴収できた物資は思った以上に少なく、集めた兵はド素人なので、新兵訓練すら終わっておらず、このままではまともに戦えないかと」
「もともと地方惑星に配備されてた艦船は、廃艦寸前のポンコツばかりで、メンテナンス不足で故障が多数発生してます。燃料も不足しており、集結地点に行くのも困難です」
「輸送船と整備艦も足りません。ランボー星の業者には全て断られました。民間輸送を止めてる余裕はありませんし、提示した使用料が安すぎて、どこも船を貸してくれません」
とまあ、もっともらしい理由を大将達は述べた。その言葉に嘘はない。
……だが、表には出せない裏の事情もあった。
兵器会社から接待を受け、賄賂を受け取る。
武器を不当に高い価格で購入し、その差額を懐に入れる。
燃料や弾薬を横流しして利益を得て、兵士の給与まで中抜きする。
大将達はやりたい放題で、他にも数え切れないほどの悪事に手を染めている。
その結果、兵士達の士気は低下し、戦艦や兵器もまともに動くのか怪しい。
私腹を肥やして贅沢三昧の暮らしはしたいが、戦争などしたくないのが本音。
三人は悪徳平和主義者だ。
しかも昨今ではゴリオシの艦隊は敗れ、難民船団は逃がした上に、雇った軍閥艦隊も壊滅している。
自分達もその二の舞になる可能性は高かった。なにせ、架空演習しかやってないのだから。もちろん予算は請求して、ポッケナイナイ。
そんな軍隊で勝てるわけもなかった。自分達がよーく分かっている。
総大将のドジールが、冷や汗をかきながら締めくくった。
「作戦は見事かもしれませんが、それを実行できる態勢ができておりません。大災害の傷跡は深く、現状では辺境惑星同盟へ攻め込むのは不可能です。マルクス上級評議員」
これを聞いてマルクスは更に激高したが、大声は出さなかった。
平時であれば、全員を更迭したところだろう。しかし司令官を代えたところで、無理難題を実行できる者はいない。
「うぬぬぬ……」
現実を突きつけられて、マルクスは不愉快に唸った。
かといって、自らが主導した侵攻計画を撤回するわけにもいかなかった。面子の問題で、自分の失敗を認めたくはない。
そして、もう一つ。
これ以上、地方からの大脱出を許すわけにはいかなかった。
このまま放っておけば、共和国から離脱する惑星がますます増えるだろう。
税収も労働力も失われるのは我慢ならない!
意地でも作戦を成功させねばならなかった。ゴリオシは必死に考えて一計を案じた。
「侵攻作戦は延期する。ただし三カ月だけだ。それ以上の遅れは許さん! その間に戦時国債を発行し、軍資金を集める。その金で兵器や物資を買い揃えろ。分かったな!」
「……はい」
大将達は嫌そうに返事をした。これ以上逆らえば、粛正されるだろう。
戦時国債で金は集まるかもしれないが、ランボー星傘下の惑星が、莫大な借金を背負うことになるのだ。
マルクスは賠償金で支払う気でいるが、辺境惑星にそんな金はない。
勝っても負けても負債だけが残り、どっちにしろ国は傾く。亡国まっしぐらだ。
それでも独裁者は止まらない。国民が後でどうなろうと知ったことではない。
会議が終わると、マルクスは財務長官を呼びつけて、戦時国債を発行するように命じた。
聞いた財務長官は真っ青になったが、逆らうこともできず、ただ頷いて席を後にする。
命令を出し終えたところで、マルクスは執務室に籠もり、一人で不満をぶちまけた。
「こうなったのも全部、あのアホのアカスリのせいだ! 余計なことをしやがって! 何事もなければ、ズッと遊び呆けていられたのに! 女も手に入りにくくなっちまった!」
逃げ隠れた議長に憤りを覚える。これに関しては宇宙の誰もがそう思っていた。
もっとも、私腹を肥やしてきたマルクスも大悪党ではあるが……。
マルクスは椅子に座り、机の引き出しから目録を取り出す。
「さて、どれにするか」
電子ペーパーをめくり、掲載されている商品を眺めていく。もっとも、そこに並んでいるのは全て女性だった。
女性のカタログショッピング。
違法でも、そうした斡旋業者はいるのだ。必要とされるからお目こぼしされている。
権力者は法律すら変えられるのだから。
マルクスは写真を見て、気に入った女を数名選び、秘書に手配するように命じた。
――月日が経つのは早い
マルクスが女遊びにうつつを抜かしてる間に、時間だけが過ぎていった。
この三カ月は長すぎた。
その間に状況は大きく変わり、マルクス軍にとっては不利になり、辺境惑星同盟にとっては有利になってしまう。
艦船は修理・建造を進め、千二百隻まで増やすことができた。
さらに各地から志願兵や義勇兵も続々と集まってくる。
「二度と奴隷には戻りたくない!」
その思いは強く、全員無給で戦いに赴く。なにより家族や故郷を守りたいので、士気は高かった。
離反工作も功を奏し、艦隊の集結地点に向かうふりをして、そのまま同盟領に逃げこんでいく艦も多かった。
もしくは自分達の惑星が狙われてるというデマを信じて、出撃命令を拒否してしまう。
「我々の星を守ってくれるなら、戦地に赴こう。保証もなしに命をかけられるか!」
「いいから命令に従え! 抗命するなら制裁を加えるぞ!」
正規軍の伝令官が動員兵を脅すも、「やられるもんなら、やってみろ!」と開き直られ、逆に凄まれてしまう。
伝令官はすごすごと引き下がる。地方惑星にやってきてる味方は少なく、場合によっては殺されかねなかった。
懲罰軍を派遣するだけの余裕がないので、動員兵達からは足下を見られている。
こうして、まともに戦力が集まらないまま、期日が迫る……。
三馬鹿大将がマルクスに報告に来るも、案の定怒鳴りつけられる。
もはや言い訳は通用しなかった。
「ふざけるな! 時間も金も使っておきながら、『出撃できません』だと⁈ 貴様らの怠慢のせいだろうが! 戦わないというなら、家族ごと殺すぞ!」
「ひっ!」
「そ、それだけはご勘弁を!」
「だったら、やれ‼」
大将達は平謝りするしかなかった。もはやこれまで、現有戦力をもって同盟領に侵攻する。
艦総数はたったの千五百隻。
予定の半分しか集まらず、しかも補給物資に至っては、三分の一以下だった。
当初の予定を大きく下回る戦力では、長期戦など望めない。
お先真っ暗な中、「三途の川作戦」が開始された。
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