モノローグ サラ6
群像劇ですので、しばらくアラシの話から離れます。
「ランボー星の従属惑星から艦隊が出撃しました! 同盟領への侵攻の兆しあり! かなりの規模です!」
作戦情報部から報告が上がってきました。偵察隊が何度も確認してるので、欺瞞行動ではないでしょう。
私は妹達と参謀達を集めて、対策会議を開きます。一刻の猶予もありません。
「マルクスが本気を出してきたようね、お姉ちゃん」
「アタイらが難民を保護してるから、キレたんだろうぜ。アイツはがめついらしいからな。これ以上、自分の奴隷が減るのが嫌なんだろ」
「そうね、リジー。国の根幹をなすのは人、決してロボットではないわ。確かに私達は難民達を助けてきた。だけど囮になった人達もいる。その犠牲を無駄にしてはいけないわ」
あの時、何隻かは逃げたようでしたが、もう生きてはいないでしょう。
私達と同じように、嵐隊長が現れて助けてくれたりはしない……冥福を祈ります。
おっと、感傷に浸ってる場合ではありませんね。目の前に迫ってる敵をなんとかしないと。
まずは参謀に状況報告してもらいます。かなり険しい表情をしていました。
「敵は補給艦や輸送艦も含めて、およそ三千隻を集めるようです。戦略AIの予想では、こちらの星門と二つの主要惑星を奪いにくると思われます。それに対して我が軍は、かき集めても千隻足らず、圧倒的に不利な状況です」
「三千隻……」
参謀達は息を飲み、暗くなってしまいました。これに対抗する手段がないので、無理もありません。
大軍であれば奇策を弄することもなく、圧倒的な数で押し潰せますからね。
沈黙の中、平然としていたのは私達姉妹だけでしょう。
「マルクスにこちらの要衝を奪われてしまえば、あとは好き放題にされてしまいます。恐らく同盟領に侵攻して略奪し、直ぐに逃げることを繰り返すでしょう。海賊が使う掠奪戦法です。そうなれば私達は終わりです」
「そう……ですね、サラ司令」
「かといって、兵力を分散させるのは愚の骨頂。これだけ戦力差があるので、三カ所に分けたら、その全てで敗北します。ルナの力を持ってしても限界があります」
「そうね、お姉ちゃん。恐らく敵は間合いをとって、長距離戦をしかけてくるわ。私が近づかないと、艦の制御を奪う『電脳支配』は使えないもの」
「…………」
参謀達は黙りこんでしまいました。両手で頭を抱えてる者もいます。
彼らの優秀な頭脳を持ってしても、打つ手がありません。
ちなみに、AIに対策を聞いたところ……
【降参しましょう】
「できるか! みんな奴隷にされるわ!」
絶対に飲める話ではないですね。辺境惑星同盟を結成したのも、共和国の支配から逃れるためだったので、これまでの苦労の意味がなくなる。
私は皆に防衛作戦案を提示します。
「まともに戦う気はありません。星門は放棄、アルファ星とベータ星は、可能なかぎり星民を避難させてください」
「戦わずに、逃げるのですか⁈ 司令! だったら玉砕した方がマシだ!」
参謀の一人が、いきり立ちました。その熱い思いは好感が持てます。
こうした人物がいる限り、同盟はまだまだ続くでしょう。
リジーが笑いながら窘めました。
「待て待て、姉貴の話は終わっちゃいないぞ。最後まで聞いてくれ」
「……失礼しました」
「確かに三千隻は脅威ですが、その中身は地方からの徴兵で、艦船は老朽艦で補給体制も万全ではありません。ましてや実戦経験もない烏合の衆。ならばこちらは進路上に機雷などの罠を張り、補給艦を狙ったゲリラ戦を展開します。これが第一段階です」
「おおっ!」
「そしてこれだけの軍を展開すれば、敵の防衛力は無いに等しい。だったら私達は、敵の要衝を逆に攻めに行きましょう。ただ、これは陽動です。強制的に動員された兵達の故郷が、攻められたら、彼らはどう思うでしょうか?」
「それはもちろん、同盟領を攻めてる場合じゃなくなります。家族や友人が心配になり、帰りたくなる。となれば正規軍の指揮官と揉めることになり、下手をすれば反乱が起きる」
「なるほど! マルクスは兵士も戦費も地方に負担させてますから、士気は低く戦う気もない。難民達と同じく共和国を相当恨んでいる。ならば工作部隊を送り、頃合いを見て寝返らせましょう。これは上手くいくかもしれない」
「うんうん。司令の作戦は素晴らしい」
参謀達は顔を見合わせて、笑顔に変わりました。お通夜から一転です。
もっとも、直ぐに険しい顔に戻るでしょう。
「これが、第二段階です。情報によれば敵軍の七割が動員兵。全員でなくとも、一部でも命令を拒否すれば、軍は立ちゆかなくなるはず。また妨害行為でもしてくれれば、それで時間は稼げます。そして最終作戦は…………」
「お止めください、司令!」
「それは、あまりにも危険過ぎます!」
聞いた途端、参謀達は全員立ち上がって猛反対してきます。
確かに私達の身が危険になりますからね。それでもやるしかありません。
私は一応説得します。
「私達の身を案じてくださり、ありがとうございます。ですが、この時間稼ぎの策が上手くいくとは限りません。仮に成功しても、マルクスは意地でも退くことはないでしょう。戦争が長引き、もっと過激な手段に出てくるかもしれません」
「アタイも姉貴と話したけど、このまま消耗戦になればジリ貧だ。お互いに損なのにな。それでボロボロになった所を、他の上級評議員に攻められたら、同盟は一溜まりもない」
「今は他の勢力が台頭してるので、共和国はそれぞれの対応に追われています。ですが、均衡が崩れれば、一致団結して同盟に侵攻してくるでしょう。その前に手を打たないとダメなんです!」
「しかし、それでは……」
参謀は口を濁しました。理屈では私達が正しいのを分かっているからです。
私に司令職を懇願しておいて、命の危険にさらしてしまうのは、とても容認できないのでしょう。
しかも、私達に報酬すらまともに支払ってませんから、男としても恥でしょう。
まあ、気にしてませんが。分かっていたことなので……うふふふ。
「この作戦は絶対に行います。最終作戦開始と同時に、私は辺境惑星同盟の司令官を辞任。妹達も抜けます。後のことは、参謀本部に一任します。そして共和国に対抗できるだけの、力を蓄えてください。勝つ必要はありません。手強い相手だと思わせればいいんです。そして他の独立勢力と手を組んでください。帝国を味方につけるのもいいでしょう」
「なんと!」
「伝手はありますので、連絡をとれるようにしておきます。この戦争の目的は、何が何でも生きることです。ならば利用できるものは、なんでも使いましょう」
「何から何まで、お力添えいただき感謝の言葉もありません。今は貴女方に何もお返しできませんが、いつか必ずこの御恩に報いるつもりです」
「ええ」
参謀達は深々と頭を下げてきました。せめてもの感謝の気持ちでしょう。
さあ、あとは伸るか反るか。いよいよ作戦開始です!
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