ニアミス
「破孔壁を、溶接して塞ぐぞ」
「補修材を持ってこい。気密性を保持しろ!!」
「ふう、忙しい忙しい」
ノームの整備部隊が、一生懸命修理に取り組んでいた。
敵旗艦を調べたところ、直せばまだ動くらしい。船体が使えるなら持って帰りたいとこだ。
使い道は俺に考えがある。
敵から分捕った物を使うのは、なんとも言えない気分の良さがあり、天女団全員が癖になっていた。狩猟本能の名残なのかもしれない。
戦利品は各部隊が争うように、味方艦に移送していた。
「酒みっけ。へっへへへ」
「……がめるなよ、紅美」
だんだん海賊団と化してるな……。
艦橋でも略奪が行われていた。ただし物ではない。
まずはノームの電子戦部隊が、旗艦の艦内システムを完全に掌握した。
艦長や指揮官さえも知らない秘匿データがあり、それをアクセスできるようにしたのだ。
やったのはノームの天才ハッカー、美奈子。自作のハッキング装置を使って、複雑なセキュリティをあっという間に破ってしまう。
「はい、完了」
「ありがとう、美奈子。さて、少し見て見ましょう…………おほほほほほ! これは宝の山ですわ。知らない情報が一杯ありますね!」
端末を見ながら、狂ったように笑って喜ぶ琴音に、美奈子は引き気味だった。
「リーダーは本当に情報が好きですね……」
「ええ、知る、識る、脳汁ですよ! 知識を得ると脳汁がドバドバ出てくるので、この快感はたまらない。そして情報をまとめて伝えれば、アラシさんと天女団のみんなから、褒めてもらえますから二度美味しい。みんなのお陰ですわ」
「人の役に立ってこそ、生き甲斐がありますからね」
「その通りですわ!」
琴音は笑みを浮かべながら、さらにデータを掘り進めていく。
もちろん全てのデータはコピーするが、速読と超記憶力によって、琴音は全ての情報を頭に入れてしまうのである。
まさに人間コンピューター、エルフの頭脳は半端なかった。
一段落つき準備ができたところで、基地に戻ることにした。近い宙域だったので、帰りも早く着くだろう。
「よし、帰還する」
「了解しました! 司令」
全艦隊は時空転移を開始する。着くまでの間、俺達は会議を開いた。
人が住めそうな惑星を見つけたので、どうするか静香と志乃から意見を聞いた。
「折角良い惑星を見つけたんだから、利用しない手はないわね。ただ今は自惑星の開拓で手一杯。残念だけど手を出してる、余裕なんてないわ」
「静香の言うとおりですね。今は人手が足りなすぎる。無理に手を広げることはないでしょう。ただ将来に備えて、無人探査機を送りましょう。惑星データを収集しておくのが良いかと」
「確かに余裕はないからな。これ以上仕事を増やしたら、みんなぶっ倒れちまう。志乃の案を採用して、しばらくこの惑星は放置する」
「はい」
「あと、分捕った戦艦だが戦力としては使わない。やはり損傷が大きいようで使えん。なので地上に係留保管して操縦シミュレーターや、……にして再利用しよう」
「それは良いわね! アラシ」
「流石です! 司令」
これで会議は終わり、俺はタルボット星の代表を呼んだ。
詳しい事情を聞くので、二人にはそのまま残ってもらう。
しばらくすると大男が部屋に入ってくる。見た感じがっしりした体格だ。
身長は一八〇センチ前後、日に焼けた浅黒い肌で、無精髭を生やしていた。
服がかなりくたびれてるのは、追っ手から逃げ回っていたせいだろう。
身だしなみを整えてる暇などないわな。
大男は俺達を見て、不安そうな顔をしていた。俺は椅子をすすめる。
「俺の名はアラシ・テンマ。天女団の総司令だ。ちなみに共和国とは敵対していて、ホークブルク家と同盟を結んでる軍隊だ。まずは事情を聞かせてくれ」
「俺はアーロン・アンソニー。タルボット星難民団の代表だ。まずは命を救ってくれたことに感謝する。あと、肉を食わしてくれたことにも……美味かった」
アーロンが頭を下げてくる。俺達が別の軍隊と分かり、少しは安心したようだ。
そして、今までの経緯を簡単に話し始める。ただ口調はかなり乱暴だった。
「俺達はマルクスの野郎の奴隷だった。さらに税金と食料を徴収しようとしやがったので、みんなで反乱を起こして、大脱出したんだ。タルボット星を離れ辺境惑星同盟領へ向かっていたが、別な難民船が後をつけられ、追っ手に見つかっちまった。そこで俺達は囮となって、大半の難民を脱出艇で逃がした。逃げてるうちにワームホールに飛び込んじまい、気がついたらあそこに出ちまったってわけさ」
「……そうか。大変だったようだな」
話を聞いた静香と志乃は、深く感じ入ってるようだった。
仲間を逃がすために自ら囮となって、しかも体当たりしようとしたのだから、並大抵の覚悟ではない。
それだけ生活が苦しかったのだろう。やっぱり、人から搾取しかしない共和国はクソだな!
俺はアーロンに、今後について話をした。
「取りあえず、うちの惑星に全員来てもらう。落ち着いてから身の振り方を決めてくれ。俺達も訳ありでな、色んな奴が集まって暮らしている。詳しいことは、他の者に話を聞いてくれ」
「分かった。お言葉に甘えさせて貰おう。しばらく厄介になる」
「ああ」
これで会談は終わった。後は志乃と静香が、受け入れの手配をしてくれるだろう。
今は乱世で行き場のない者達が、これからもやってくるかもしれないな。
俺は自室に戻る途中、あることを思い出して首をかしげる。
思念探知をした際に、別の思いが聞こえたような気がしたのだ。
「あれ何だっけかな? …………気のせいか」
そう思って部屋に入った。
◇◇◇
アラシ達が去った後、誰もいない惑星の海から、宇宙クルーザーが浮かび上がってきた。
全長120㍍の豪華宇宙船、動くホテルと言ってもいい。
大勢の乗客が乗れるのに、乗っているのはたった一人。あとは身の回りの世話をするロボットがいるだけ。
彼は艦橋でレーダーを確認した後、甲板に出てのびをする。
ロボットにデッキチェアと、そして高級酒とつまみを運ばせた。
椅子に座り、海を眺めながら優雅にグラスを傾ける。
「ふう、まさかこんな所に、戦艦が来るとは思わなかったな」
アロハシャツ姿で、サングラスをかけて寝そべってる男は、共和国の元最高評議長アカスリだった。
妻子を捨てて首星から逃げだした後、アカスリは宇宙クルーザーに乗り込み、私有惑星を転々としながら、逃亡の旅を続けていた。
「AI任せの旅も考えものだな。行き先がランダム過ぎて、こんな辺鄙な宙域まで来ちまった。愛人のバービーは置いてきちまったし、他の女を手に入れんとな。ナニが我慢できん。仕方ない、多少危険だが人のいる場所へ行くか」
宇宙を破壊しておきながら、アカスリは反省などしていなかった。
サイコパスで良心が欠如していれば当然だ。己の欲望のままに生きている。
ニアミスである。
もし出くわしていたら、アラシは戸惑ったかもしれないが、天女団の全員が許さなかっただろう。宇宙の敵である。
アカスリは悪運も強かった。酒を飲んだ後、この惑星から去って行った。
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