敵は降伏、こっちは後始末
「海兵隊との連絡途絶! 地上の状況は全くわかりません!」
「機関室が奪われました! 本艦は操艦不能です!!」
「敵パワードスーツ部隊、監視カメラを破壊しつつ艦内を進撃中! 阻止できません! まもなく艦橋に到達すると思われます!」
ここまで、自分達がやられるとは思っていなかった。天女団の介入も想定外で、こんなは悪夢としか言い様がない。
ほんの少し前には大勢の仲間がいて、皆で笑いあっていたのに……もう誰もいない。
しかし彼らはただの悪党、軍閥海賊なのだ。被害者面をする資格などない。
今まで弱者を散々甚振ってきたので、そのツケを払う時がきたのだ。
オペレーターの報告に、バルクは目を閉じて静かに応えた。
「……そうか。全隔壁を閉鎖、艦橋への出入口も封鎖だ」
「はい」
もはやこれまで、バルクは覚悟を決める。
戦況は覆らず、このままだと捕まるか、殺されるかのどちらかだ。
たとえ生き残ったとしても、軍閥海賊の自分がタダで済むはずがない。
方々から恨まれており、拷問された末に酷たらしい最期を迎えるだろう。
上官達の悲惨な末路は見てきたので、そんなのはまっぴら御免。
バルクは腰の拳銃を抜いて、副官に告げる。
「俺が死んだら降伏しろ。悪いのは全部この俺だ」
「司令!」
バルクは頭に銃口を当てる。全隔壁を閉じたのは、死ぬ時間が欲しかったからだ。
そして拳銃の引き金が引かれ……なかった。
「神影縛。おっと、勝手に死なれたら困るな」
「き、貴様! 一体どこから⁈」
バルクは声を上げることはできたが、指一本動かせなかった。その隙にアラシは拳銃を取り上げる。
突然の出来事に、艦橋乗員は驚いたまま固まってしまう。
アラシは神影走を使い、隔壁が閉まる前に、艦橋に駆け込んできたのだ。
目にもとまらぬ走りを、見た者はいない。エスパーと気づいた時には手遅れ。
「降伏して、停戦命令をだせ。さもなくば、艦内の兵士を皆殺しにする!」
「止めろ! …………分かった。言うとおりにする」
アラシの脅しにバルクは屈した。残った部下の命は、何よりも重い。
だからこそ、全ての責任を負って死のうとしたのだ。
『全軍降伏し、停戦せよ……』
艦内放送が流れると、銃声は徐々に止み、戦闘は終結した。
◇◇◇
しばらくすると、静香が後続艦隊を引き連れてやってきた。
戦闘は終了したので、事後処理が始まる。これが結構めんどくさい。
『武装解除を確認後、敵兵は陸番艦、および漆番艦へ移送せよ。なお敵負傷兵は動かさず、その場で治療に当たれ。敵旗艦の接収作業は、エルフ部隊とノーム部隊に任せる』
『地上に逃げた難民達を捜索して、保護しなさい。残敵には十分注意するように。各部隊長は、タルボット星の代表と相談して対応するように』
『了解!』
まあ、志乃と静香がいるので、俺は見てるだけで良かった。
一足先に天嵐に戻って、偵察ドローンから送られてくる映像を、つぶさにマルチモニターで見ていた。
何かあれば直ぐに動いて対処するつもりだ。もっとも部下達が優秀なので、安心して見ていられる。応用力もある。
追っ手から逃げるために、難民達は森の中に散らばって隠れたらしく、捜すのに苦労していた。
「もう安全だー! みんな出てきてくれー!」
と難民の代表が拡声器で大声を張り上げるも、なかなか出てこない。
まだ警戒してるのだろう。殺されそうになってたから、仲間の声を聞いたくらいでは信用しない。
そこで椿の炊事部隊が動いた。森林を動き回るのを止め、かまどを組んで、調理の準備を始めてしまう。
炭火をおこし、金網の上で肉や野菜を焼き始める。バーベキューだ。
そして、送風機をぶん回す。
「天女団名物、焼き肉作戦であります!」
肉の焼ける香ばしい匂いが、森の中に充満していく。この匂い攻撃に耐えられた者はいない。
腹が減っていれば尚更。
身の危険も顧みず、難民達は匂いに吸い寄せられて姿を現した。
全員ヨダレを垂らしている。逃亡生活でろくに食べていなかったようで、腹の虫もグーグーと鳴っていた。
「我ら天女団は、皆さんを助けに来たであります。まずは腹一杯、肉を食べてくだされ!」
「うおおおお!」
椿が食事を勧めると、難民達は一斉にかけよってきた。もう我慢できなかったのだろう。
炊事部隊が焼いた肉を皿に盛って渡し、防水布の上に座るよう案内した。
立って食うのは、落ち着かないからな。ペットボトル水も配られ、ガツガツと肉を食べていた。
「……うまい」
誰かがそう呟くと、難民達は肯いて涙をこぼしていた。
天女団は飢える辛さを知ってるので、その気持ちは痛いほど分かる。
甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
そして隠れていた難民達が、続々と集まってきた。風に乗って匂いはどこまでも漂い、人の食欲をそそる。
遠くで仲間達が食ってる姿を見れば、安心して近寄っていける。
「もっと、焼くであります!」
「了解です!」
炊事部隊は大忙し。もっとも椿達は慣れたもので、手早く肉を焼いて配っていく。
料理が尽きる頃、難民達全員が集まっていた。防水布の上で寝転がって休んでいる。
満腹になって至福の表情を浮かべ、もうすっかり寛いでいる。
張り詰めた生活だったようで、疲れもピークに達していたようだ。
少し休ませてから、艦に移送しよう。ひとまず俺達の惑星に連れて行く。
難民達の輸送船は調べた所、もうボロボロで使えない。このまま放置することにした。
さて、敵戦艦の状態はどうかな?
こっちも俺達の攻撃を受けて酷い有様だが、まだ航行はできるようだった。
捕虜と入れ替わるように、エルフとノームの部隊が中に入っていく。
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