勝負にならない
「艦橋と機関室を押さえる。各部隊はそれぞれ制圧に向かえ。突撃隊長の指示に従い、訓練通りにやればいい。俺は先行する」
「了解!」
言うなりアラシの姿は消える。指令官がいなくなっても、兵達に不安はない。
白兵戦のVRシミュレーションは何度もやってきたし、共和国・帝国艦の内部構造は頭に叩き込んである。
また機甲羽衣のAIが艦内MAPを推定作成し、ナビゲートしてくれるので迷うことはない。
強襲艇三隻で敵艦に乗り込んだ女性兵は、総勢六十名。各小隊は無線連絡をとり、それぞれ目標へ向かって行動を開始した。
「おりゃああ! 行くぞ――!」
先陣を勝手に突っ走るのは、紅美。
もう定番なので、他の隊員達は笑いながら呆れていた。隊長の弥生は言う。
「――脳筋ゴリラは弾よけでいい」
「了解です‼」
一方、敵旗艦は土竜の体当たりをくらい、何度も船体が大きく揺さぶられた。
指令官のバルクは大声で叫ぶ。
「何事だ⁈ ミサイルか?」
「いえ、何かが旗艦にぶつかってきたようです……う、敵兵の侵入を確認!」
「強襲艇か! くそ、白兵戦の用意を……」
バルクはためらい、命令が中途半端になってしまう。その理由は明らか。
難民のアーロン達に手こずらされ、艦隊は壊滅。残った旗艦の兵士達も、ワームホール通過中に多数が負傷していた。
虎の子の海兵隊は難民達の始末に回してしまい、艦内に残っている兵はわずか。
白兵戦などやったこともなく、パワードスーツすら残っていなかった。
これでは、天女団の精鋭部隊に勝てるわけがない。かといって逃げようもなく、時間稼ぎをするしかなかった。負け確で意味はないが……。
「総員、武器を持って侵入者を排除せよ」
バルクはそう命令するしかなかった……。
そして走ってる紅美の前に、敵兵が現れて銃を乱射してくる。
「ようやくおでましか。ふん!」
紅美も馬鹿ではなく、用意してきた盾を構えて前進していく。
狭い通路では効果的で、銃弾は全て弾き返された。
手に持っている「ガルバスの盾」は分捕り品で、それを小さく調整し、かなり軽くし扱いやすくしている。
対人用の突撃ライフルでは、豆鉄砲を喰らってるようなものだった。
装甲の薄い機甲羽衣でも、余裕で防げる。
「うわあああ! くるな!」
紅美が目の前まで来ると、訓練してない敵兵達はパニックになった。
弾はとっくに切れている。
弾倉交換すら忘れ、空になった銃の引き金を必死に引き続けていた。
「おいおい、弾切れじゃん。しかも、アタイら相手に只の軍服? 何やってんだお前ら?」
と問いかけるも、容赦はしなかった。
「どっせい!」
「ぐえっ!」
「ぎゃあ!」
紅美の体当たりをまともに食らい、敵兵が数人吹き飛んだ。電磁ナイフを使うまでもない。
猛スピードの車にぶつかったようなもので、内臓は損傷して打撲と骨折もしていた。
もう呻くだけで立つことはできず、もしくは失神している。
そもそも、生身でパワードスーツと戦うのが無謀なのである。
「ちっ! 弱すぎるぞ、お前ら。なめとんのか⁈」
紅美は呆れて舌打ちし、また通路を駆ける。
まさに猪武者。立ちはだかる敵兵を蹴散らし、ただひたすら突き進んでいく。
誰も止めることはできなかった。
後続の仲間達が追いついた時には、機関室は紅美一人によって制圧されていた。
あまりの強さに、敵兵は何も出来ず逃げるしかなかった。
「あー、つまんねー」
紅美は物足りなさそうに、腕を振り回していた。
弥生に待機命令を出されたので、暇で仕方ない。
「こりゃ地上に行った方が、良かったかな? その方がもう少し楽しめ……いや、夏美と獣人達が敵を片付けちまうな」
紅美の予想は当たっていた。
天女団の揚陸艇が地上へ降下していく。その数五隻、兵員は約百名。
天音がドローンからの情報を元に、敵の配置を確認して着陸地点を指示していた。
揚陸艇が地面に着くと、昇降扉が一斉に開き、女性兵達が飛び出してくる。
「全隊、隊列を組み敵を包囲せよ。難民達の盾となり保護せよ!」
「了解!」
天音の指示に従い、兵士たちは迷うことなく展開していく。訓練の賜だ。
包囲陣形を取りながらも、あえて一カ所だけ逃げ道を残した。
敵を追い詰め過ぎると、死に物狂いで抵抗してくるので、戦意を削ぐためだ。
「く、くそ! 全隊密集隊形」
敵の現場指揮官は叫んだ。
海兵隊も上空の揚陸艇に気づいたのだが、対空迎撃をする前に、難民の男達に邪魔されてしまったのだ。
後ろから射撃をされては、無視するわけにもいかない。
手間取っているうちに、揚陸艇は地上に降りてしまい、天女団の兵士達に包囲されてしまう。
兵数も負けていて不利な状況だ。海兵隊は後退しながら、密集隊形を取る。
こうなると自分達の揚陸艇や、周囲の遮蔽物を盾にして応戦するしかなかった。
しかし彼方此方から弾が飛んでくるので、身を低くしていても危険だった。
パワードスーツを着ていても、当たり所が悪ければやられてしまう。機甲羽衣の重機関砲の威力は凄まじく、ドンドン装甲が削られていく。
女達は圧倒的な攻撃で、敵の反撃を許さなかった。
ただ優勢にもかかわらず、天音は攻勢に出ようとはしなかった。敵の注意を引くように動いている。
「…………そろそろか。準備はいいか? 夏美」
『配置についたニャ!』
「よし、赤外線煙幕弾、発射!」
「了解!」
大型の擲弾発射器が一斉に火を噴いた。
すると敵陣は煙に包まれてしまう。特殊煙幕は赤外線も遮断するので、センサーが役に立たなくなる。
しばらくは敵味方ともに、目暗状態で何もできない。
「ちっ! 何も見えん!」
「一体何が狙いだ――ぐわっ!」
「ぎゃあああ!」
「どうした? 何が起きてる⁈」
煙の向こうから、叫び声だけが聞こえてくる。
海兵隊員の悲鳴が森に響いては倒れていった。断末魔は途切れない。
攻撃したのは、夏美と獣人兵。鋼の爪で高い木々を登り、枝から枝へと飛び移りながら、敵のすぐ近くまで来ていたのである。
煙幕弾の発射後、上から襲いかかったのだ。天音の奇襲作戦だった。
「死ねニャアアア!」
「うわあああああ!」
煙で視界を奪われても、獣人達には関係ない。
耳で音を拾い、鼻で臭いを嗅ぎ分け、敵の位置を探り当てる。
そして密かに近づき、高周波振動爪を敵兵に突き刺していく。
「どこだ? 敵はどこにいる⁈」
海兵隊員達は煙幕で何も見えず、混乱したまま連携もままならない。
密林で暮らしていた獣人にとって、森林も庭のようなもので、縦横無尽に駆け回る。
自然と一体となった夏美達に勝てるわけもない。海兵達は為す術もなく倒されていった。
煙幕が晴れた後、立っている敵はいなかった。
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