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神力の少年兵  作者: 夢野楽人
第三章 争乱編

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勝負にならない

「艦橋と機関室を押さえる。各部隊はそれぞれ制圧に向かえ。突撃隊長の指示に従い、訓練通りにやればいい。俺は先行する」

「了解!」


 言うなりアラシの姿は消える。指令官がいなくなっても、兵達に不安はない。

 白兵戦のVRシミュレーションは何度もやってきたし、共和国・帝国艦の内部構造は頭に叩き込んである。

 また機甲羽衣のAIが艦内MAPを推定作成し、ナビゲートしてくれるので迷うことはない。


 強襲艇三隻で敵艦に乗り込んだ女性兵は、総勢六十名。各小隊は無線連絡をとり、それぞれ目標へ向かって行動を開始した。


「おりゃああ! 行くぞ――!」


 先陣を勝手に突っ走るのは、紅美。

 もう定番なので、他の隊員達は笑いながら呆れていた。隊長の弥生は言う。


「――脳筋ゴリラは弾よけでいい」

「了解です‼」

 


 一方、敵旗艦は土竜の体当たりをくらい、何度も船体が大きく揺さぶられた。

 指令官のバルクは大声で叫ぶ。


「何事だ⁈ ミサイルか?」

「いえ、何かが旗艦にぶつかってきたようです……う、敵兵の侵入を確認!」


「強襲艇か! くそ、白兵戦の用意を……」


 バルクはためらい、命令が中途半端になってしまう。その理由は明らか。

 難民のアーロン達に手こずらされ、艦隊は壊滅。残った旗艦の兵士達も、ワームホール通過中に多数が負傷していた。

 虎の子の海兵隊は難民達の始末に回してしまい、艦内に残っている兵はわずか。


 白兵戦などやったこともなく、パワードスーツすら残っていなかった。

 これでは、天女団の精鋭部隊に勝てるわけがない。かといって逃げようもなく、時間稼ぎをするしかなかった。負け確で意味はないが……。


「総員、武器を持って侵入者を排除せよ」

 バルクはそう命令するしかなかった……。


 そして走ってる紅美の前に、敵兵が現れて銃を乱射してくる。


「ようやくおでましか。ふん!」


 紅美も馬鹿ではなく、用意してきた盾を構えて前進していく。

 狭い通路では効果的で、銃弾は全て弾き返された。

 手に持っている「ガルバスの盾」は分捕り品で、それを小さく調整(リサイズ)し、かなり軽くし扱いやすくしている。


 対人用の突撃(アサルト)ライフルでは、豆鉄砲を喰らってるようなものだった。

 装甲の薄い機甲羽衣でも、余裕で防げる。


「うわあああ! くるな!」


 紅美が目の前まで来ると、訓練してない敵兵達はパニックになった。

 弾はとっくに切れている。


 弾倉交換(マガジン・チェンジ)すら忘れ、空になった銃の引き金を必死に引き続けていた。


「おいおい、弾切れじゃん。しかも、アタイら相手に只の軍服? 何やってんだお前ら?」

 と問いかけるも、容赦はしなかった。

「どっせい!」


「ぐえっ!」

「ぎゃあ!」


 紅美の体当たりをまともに食らい、敵兵が数人吹き飛んだ。電磁ナイフを使うまでもない。

 猛スピードの車にぶつかったようなもので、内臓は損傷して打撲と骨折もしていた。

 もう呻くだけで立つことはできず、もしくは失神している。

 そもそも、生身でパワードスーツと戦うのが無謀なのである。


「ちっ! 弱すぎるぞ、お前ら。なめとんのか⁈」


 紅美は呆れて舌打ちし、また通路を駆ける。

 まさに猪武者。立ちはだかる敵兵を蹴散らし、ただひたすら突き進んでいく。

 誰も止めることはできなかった。

 後続の仲間達が追いついた時には、機関室は紅美一人によって制圧されていた。

 あまりの強さに、敵兵は何も出来ず逃げるしかなかった。


「あー、つまんねー」


 紅美は物足りなさそうに、腕を振り回していた。

 弥生に待機命令を出されたので、暇で仕方ない。


「こりゃ地上(した)に行った方が、良かったかな? その方がもう少し楽しめ……いや、夏美と獣人達が敵を片付けちまうな」


 紅美の予想は当たっていた。



 天女団の揚陸艇が地上へ降下していく。その数五隻、兵員は約百名。

 天音がドローンからの情報を元に、敵の配置を確認して着陸地点を指示していた。

 揚陸艇が地面に着くと、昇降扉が一斉に開き、女性兵達が飛び出してくる。


「全隊、隊列を組み敵を包囲せよ。難民達の盾となり保護せよ!」

「了解!」


 天音の指示に従い、兵士たちは迷うことなく展開していく。訓練の賜(たまもの)だ。

 包囲陣形を取りながらも、あえて一カ所だけ逃げ道を残した。

 敵を追い詰め過ぎると、死に物狂いで抵抗してくるので、戦意を削ぐためだ。


「く、くそ! 全隊密集隊形」


 敵の現場指揮官は叫んだ。

 海兵隊も上空の揚陸艇に気づいたのだが、対空迎撃をする前に、難民の男達に邪魔されてしまったのだ。


 後ろから射撃をされては、無視するわけにもいかない。

 手間取っているうちに、揚陸艇は地上に降りてしまい、天女団の兵士達に包囲されてしまう。


 兵数も負けていて不利な状況だ。海兵隊は後退しながら、密集隊形を取る。

 こうなると自分達の揚陸艇や、周囲の遮蔽物を盾にして応戦するしかなかった。

 しかし彼方此方(あちこち)から弾が飛んでくるので、身を低くしていても危険だった。

 パワードスーツを着ていても、当たり所が悪ければやられてしまう。機甲羽衣の重機関砲の威力は凄まじく、ドンドン装甲が削られていく。


 女達は圧倒的な攻撃で、敵の反撃を許さなかった。

 ただ優勢にもかかわらず、天音は攻勢に出ようとはしなかった。敵の注意を引くように動いている。


「…………そろそろか。準備はいいか? 夏美」


『配置についたニャ!』


「よし、赤外線煙幕弾、発射!」

「了解!」


 大型の擲弾発射器(グレネードランチャー)が一斉に火を噴いた。

 すると敵陣は煙に包まれてしまう。特殊煙幕は赤外線も遮断するので、センサーが役に立たなくなる。

 しばらくは敵味方ともに、目暗(めくら)状態で何もできない。


「ちっ! 何も見えん!」

「一体何が狙いだ――ぐわっ!」

「ぎゃあああ!」

「どうした? 何が起きてる⁈」


 煙の向こうから、叫び声だけが聞こえてくる。

 海兵隊員の悲鳴が森に響いては倒れていった。断末魔は途切れない。

 攻撃したのは、夏美と獣人兵。鋼の爪で高い木々を登り、枝から枝へと飛び移りながら、敵のすぐ近くまで来ていたのである。


 煙幕弾の発射後、上から襲いかかったのだ。天音の奇襲作戦だった。


「死ねニャアアア!」

「うわあああああ!」


 煙で視界を奪われても、獣人達には関係ない。

 耳で音を拾い、鼻で臭いを嗅ぎ分け、敵の位置を探り当てる。

 そして密かに近づき、高周波振動爪(ソニック・クロー)を敵兵に突き刺していく。


「どこだ? 敵はどこにいる⁈」 


 海兵隊員達は煙幕で何も見えず、混乱したまま連携もままならない。

 密林で暮らしていた獣人にとって、森林も庭のようなもので、縦横無尽に駆け回る。

 自然と一体となった夏美達に勝てるわけもない。海兵達は為す術もなく倒されていった。


 煙幕が晴れた後、立っている敵はいなかった。

この作品がお気に召しましたら、ご感想などお寄せいただけましたら幸いです。

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