救難信号の先へ
『我らはタルボット星の難民船団。共和国の艦隊に追われ、命の危険にさらされている。もし、この通信を受信したのなら、どうか俺達を助けてほしい。頼む!』
――数日前。
宇宙を巡回している哨戒艦スレイプニルが、救難信号をキャッチし、基地本部に連絡が入った。
俺は緊急会議を開いて、皆と対応を協議する。
「信号が発信された宙域は、わずか二光年先。お隣ですね、どうしますか? 司令」
「うふふふ、どうするの? アラシ」
二人は笑顔で聞いてくる。もう、言わなくても分かっているようだ。
「義を見てせざるは勇無きなり……もちろん助けにいくぞ、捨てはおけん。共和国は怨敵だしな。志乃、船は出せるか?」
「五隻なら、すぐに発進可能です。兵達の乗艦と発艦準備を急がせます!」
「よし、俺と志乃が先行する。静香は後詰めを率いて、後からきてくれ」
「分かったわ」
こうして、緊急出撃が決まった。俺は全軍に通達する。
『タルボット船団より救難要請が入った。難民達は共和国艦隊に追われ、危険な状態にある。天女団は彼らを助けに行くぞ! 各員出撃準備を急げ!』
「おう!」「やったるぜ!」「いてこましたれ!」
敵との戦いともなれば、士気は嫌でも上がる。
緊急時の作戦メンバーは予め決めてあるので、人選で揉めることはない。
ただ予備兵力は早い者勝ちにしてるので、艦に向かう女達の争いは激しかった。
「おらおら、どけどけ! 今度はあたいも参加するぞ!」
「負けないニャ!」
誰もが我先にと艦へ駆け出していく。俺は苦笑するしかない。
しっかし、紅美達は血の気が多いな。
俺も旗艦の天嵐へと急ぐ。現在保有している船は計二十隻。
ホークブルク家から供与されて、かなり増えた。ただ全て駆逐艦である。
小型艦の身軽さを生かし、偵察や奇襲をする運用思想があるので、大型戦艦はいらない。
表立って戦うのは新生惑星機構軍で、天女団は陰から支援するのが役目だ。
俺が敵をおちょく……撹乱するのが好きなのは、皆もよく知っている。
「嫌がらせは、司令の十八番」
「そうね。あははは!」
慌ただしく発進準備が進み、俺達は出撃した。
時空転移も急いで済ませ、救難信号が出された宙域にやってきた。
「全周囲を警戒。状況を調べろ」
「はい……付近に船の残骸が多数あります。恐らく自爆したものと思われます。他には見当たりません」
「遅かったか……いや、まだ生き残りがいるかもしれん。捜索範囲を星系内に広げろ! 何としても見つけるんだ!」
「はい、司令!」
俺自身も目を閉じ、思念探知を使って探してみる。
念話がどこまでも届くように、人の思いはかなり強いものだ。
切なる願いを捕らえる。
…………、……………………、…………………………………………いた!
俺がその方向を指差すと、レーダー担当が叫んだ。
「司令、大気と水のある惑星を発見しました!」
「そこだ、そこに人がいる! 間違いない! 急げ! 全軍、白兵戦用意!」
『いつでもいけるぜ、大将!』
『絶対助けるニャ!』
俺達が緑の惑星に急行すると、一隻の戦艦が降下を始めたところだった。
艦種を照合すると、共和国軍の艦艇で間違いない。敵の追っ手だ。俺達も後を追う。
大気圏を通過してる間に、俺は作戦指示を出しておく。
「志乃、敵艦の相手は任せた。頭上を押さえてしまえば、まともな攻撃はできまい。その間に俺が乗り込んで制圧する。撃沈するのはダメだ。墜落したら大惨事になる」
「了解しました、司令。攻撃を最低限にとどめ、地上に当てないようにします」
「問題は地上にいると思われる難民達だ。彼らの保護を最優先に、うまく部隊を動かしてくれ、天音。敵はおそらく海兵隊、強いから十分注意しろ」
「お任せください、司令。静香様に成り代わって、やってみせます! あとで褒めてもらいまーす!」
「お、おう……」
思惑はどうあれ、やる気があるのは良いことだ。うんうん。
オペレーターが知らせてくる。
「大気圏を抜けました。状況確認をします、湖に輸送船が二隻、敵艦は我が艦隊の下にいます。揚陸艇を発進させたようです」
「よし、俺もいくぞ!」
後の指揮は志乃に任せ、俺は格納庫で機会をうかがう。
志乃は指揮杖を振るう。
「旗艦天嵐と壱番艦は、司令達の露払いだ! 艦首を下げて垂直になり、ビーム砲撃だ。地表には絶対当てるなよ! 狙うのは敵艦の対空砲のみ!」
「了解です! 大尉」
「弐番艦から伍番艦は、迂回して高度を下げ、こちらも揚陸艇を出せ。地上戦だ。敵海兵隊との戦闘になるぞ。現場の指揮は、天羽中尉に一任する」
「任務承りました」
敵も俺達に気づいており、時を置かず戦闘が始まる。
俺は戦況モニターで外の様子を見ていた。
偵察ドローン「丸見え君」はすでに展開済み。敵味方を識別し、センサーで敵の位置を知らせてくれるので大助かりだ。情報はリアルタイムで各機甲羽衣へと送られる。
これもホセリアを通じて、ホークブルク家から供与された兵器だ。
補給面でも世話になりっぱなしなので、同盟を結んで本当に良かったと思う。
「撃て、撃てえ!」
旗艦と壱番艦が逆さまの態勢から、砲撃を加えていた。
真上を取られた敵戦艦は逃げ回るだけ。対空砲の射程外にいるため、こちらを攻撃する手段がない。
戦艦のほとんどが固定式砲塔なので、艦首を向けなければ主砲は撃てないのだ。
副砲は旋回砲塔だが、流石に仰角を九十度に上げることはできなかった。
船体がでかくて動きが遅いので、近距離戦には不利で戦闘艇にも弱い。
だから護衛艦が旗艦を守るのだが、今は一隻しかいなかった。
難民を追いかけてるうちに、他の艦は沈んだのだろう。たぶん自爆攻撃にやられてる。
志乃は敵艦の対空砲を、正確に潰してくれた。もう残ってはいない。今が好機!
「よし、発進だ!」
「了解です!」
旗艦の後部甲板から、俺達は出撃する。
高速強襲艇「土竜」――敵艦に乗り込むための輸送艇。
船体は流線型で、先端は鋭く尖っている。もちろん装甲をぶち抜くためだ。
「いくぞ、全員衝撃に備えろ!」
あっという間に土竜は敵艦に接近し、その横腹に体当たりした。これで終わりではない。
モグラの鼻先はドリルだった。高速回転して突入孔を広げ、内部へと突き進む。
そして艦首のハッチが開き、俺と部下達が敵艦内へとなだれ込む。
機甲羽衣を纏ってココにいるのは、天女団の中でも精鋭中の精鋭。はっきり言おう、強いぞ。
さあ、白兵戦の始まりだ。
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