モノローグ アーロン3
「……ここはどこだ?」
「調べましたが、基準恒星が見当たらず航路情報はありません。完全な未開宙域です……」
レーダー担当兼、観測員が教えてくれた。まあ予想通りなので動揺はない。
いずれ追っ手もやってくるだろう。
なのでリーダーである俺は、直ぐに決断せねばならなかった。やれることは何でもやって、最後まであがく。
「気休めだが、救難信号を出してくれ。あと、残った船の状況はどうなってる?」
「はい、確認します」
通信士が各輸送船と連絡をとった。
「残った船は五隻、乗員は男女含めて五百人ほど。代表の操船とリンクしたので助かりましたが、ワームホールでの損傷は激しく、一部の船は航行不能になりつつあります」
「そうか、ならば船を接舷して避難させよう。もう脱出艇は残ってないからな」
「了解しました」
残った船が寄り添うように並んで接舷し、繋げた移乗通路で人の移動が始まった。
「こっち、こっち」
「ありがとう」
皆が声を掛け合いながら、隣の船へと移っていく。
渡し綱を使ったので、無重力空間での人の移動は、思いのほか早かった。
ついでに水食料も移送した。
「移動は順調だな……だが焦る」
「ええ、今は耐えるしかありませんね」
いつ敵がやってくるか分からないので、俺達は不安だった。
半日が過ぎる頃、全ての移動作業は完了した。
その間の時間を無駄にはせず、動けなくなった船から部品を取り外し、他の船の修理をしていた。
共食い整備をして、動かせる船は二隻だけになる。
「これで、なんとか航行できます」
「みんな、よくやってくれた」
「レーダーに反応! 追っ手です!」
「きたか! 発進だ!」
追っ手艦隊は、たったの三隻まで減っていた。しかも全艦がボロボロの状態。
時空回廊内で損傷を受けたのだろう。俺達の船よりひどい有様だ。
俺達は急いで離舷し、一目散に逃げ出す。
残された三隻の輸送船は制御を失い、船体がひっくり返りながら漂う。
まるで死にかけの魚のようである。
だが追っ手艦隊がその脇を通り過ぎようとした時、補助エンジンが点火し、敵艦へと向かって行く。
油断していたのもあるだろう。最後の罠には、完全に無警戒だった。
無人の輸送船は爆発して、敵艦を巻き込む。爆雷代わりに使ったのだ。
戦果を確認してる余裕はなく、俺達は前進を続けた。
「おのれえー! よくもやってくれたな、難民どもめ!」
バルクは旗艦で激怒していた。
輸送船の特攻に始まり、ワームホールに入り込んだせいで、追撃艦隊はほぼ壊滅。
さらに最後の自爆に巻き込まれて、残ったのは旗艦一隻だけ。
仲間も部下もほとんどいなくなった。この恨み晴らさでおくべきか!
しかし、バルクは心を落ち着かせて命令する。
「救難艇をだして、生存者を捜索しろ! 一人でも多く助けるんだ!」
「了解!」
「その間に艦の修理を急げ! 逃げた難民船を見失うな、捜索隊をだせ!」
バルクは的確な指示を出していく。難民達の覚悟を見誤り、手痛い目に遭ったものの、やはり有能な指揮官である。
惜しむらくは、海賊に身を落としてしまったことだろう。
もう人生のやり直しはできず、どこまでも堕ちるしかなかった……。
――それから数日が過ぎた。
「アーロン代表、居住可能惑星を発見しました。探査したところ人類の痕跡は、見当たりません。無人です。ただこちらの探知能力は低いので、正確なところは分かりません」
「そこに行くしかあるまい。吶喊修理では船も限界だ。着陸して身を隠そう」
「了解です」
俺達は進路をその惑星へ向けた。
追っ手から逃げるには、船の状態が悪すぎる。いつ止まってもおかしくはない。
やがて前方に緑の惑星が見えてきた。海と大気がある。
少なくとも人が生きられる環境だ。ここが俺達の終着点になるかもしれんな。
みんなよくやってくれた。俺は心の中で感謝を捧げる。
二隻の船は惑星の重力に引かれ、大気圏に突入した。
シールドが完全ではないため、断熱圧縮の熱に耐えられず、船体が高温になり悲鳴を上げている。
「もってくれよ」
俺達は祈るしかない。船は激しく揺れ、警報が鳴り響いていた。
やがて揺れは収まり景色が変わった。青い空と白い雲が見える。
「大気圏突破!」
「おおっ!」
安堵の声が上がるも、オペレーターが凶報を伝えてくる。
「反重力装置に異常発生! このままでは墜落します!」
「大気圏突入で完全に壊れたな。なんとか海か湖に着水してくれ!」
「了解しました!」
操縦士は必死に船を操舵していた。ふらふらと下に落ちていて、地面に叩きつけられたら終わりだ。
「湖を発見、着水します!」
「全員衝撃に備えろ! 南無三!」
輸送船は水面に激突し、水しぶきが跳ね上がる。
凄まじい衝撃が船内を襲って、体が振り回され、あちこちから悲鳴が上がった。
やがて船の動きが止まる。
「……もう一隻は?」
「無事です! しかし浸水が始まっています!」
「隔壁を閉鎖だ! なるだけ岸に近づいてくれ。乗り上げてもかまわん」
船は直ぐには沈まない。内部はいくつもの区画に分かれてるので、浸水しても被害を最小限に抑えられる。
とはいえ動けるうちに、陸地につく必要はあった。
船体後部の推進ノズルを低出力で使い、湖を航行していく。
船は浅瀬に乗り上げて止まり、もう動かない。よくここまで保ってくれた。
「総員退艦! 荷物を持てるだけ持って、船外へ脱出だ!」
「分かりました!」
いつでも逃げられるように、各自荷物はまとめてある。
リュックを背負い、船の脱出口から一人ずつ外へ降りていく。
俺はその様子を見守り、最後に船から出た。
「さて、これからどうするか――⁈」
地上から空を見上げると、一隻の敵艦が近くに浮かんでいた。他に艦は見当たらないので、たぶんあれが最後。
敵艦から数隻の揚陸艇が発進し、こっちに向かってくる。中には海兵隊が乗っているだろう。
俺達を追い詰め、始末するつもりだ。
軍人相手に勝てるはずもないが、一泡吹かせてやる。
「みんな逃げろ‼」
「はい!」
俺が大声で叫ぶと、大半は森に逃げ込んだが、銃を手にした男達が残った。
俺は笑いながら声をかける。
「おいおい、逃げろと言ったろ?」
「最後までお供しますよ。アーロン代表」
「そうか、悪いな」
俺達は物陰に移動して銃を構えた。敵が射程に入ったら撃つだけ。
ここまで逃げ延びられただけでも、マシかもしれないが、恨み事の一つも言いたくなる。
理不尽で悲惨な人生を送ってきたからな。
「布教にきた坊主や聖職者は、偉そうに説教していたが、神や仏とやらは俺達を救っちゃくれなかった。祈ったところで何の意味もない。手を差し伸べてくれたのは三姉妹だけだ」
感謝しつつ、覚悟を決める。
「あれはなんだ?」
誰かが上を指して叫ぶ。見上げれば上空に何かが見えた。決して神仏ではない。
――天女が助けにやってきた。
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