58 決断
ケイトリンさんの記憶を見終えた私は何とも言えない気持ちになっていた。
率直に述べるなら、この女王様怖すぎでしょ……。効率を重視するあまり手段を選ばなくなっているじゃない。空気を毒に変えるとか風霊の使い方もやばい……。
だけど、一つだけ私にも理解できることがある。
ケイトリンさんは本気でナザネシア王国の大地と人々を救いたいと思っているということ。その気持ちは記憶を通してしっかりと伝わってきた。
いらなくて押しつけようとしていたわけじゃなかったんだね。
私が視線を送るとケイトリンさんは微笑みを返してきた。
う……、何が何でも私に王国を引き受けてもらうという意思を感じる。
魔力で浮かせていた椅子を元に戻して無言の圧力をかわした。さらに椅子自体からも下り立つ。
「今すぐの返答は無理です。少し時間をください」
「え、ルーシャ様、それはつまりきちんと検討していただけるということですか?」
「その反応、私がこの場で断ると思っていたでしょう?」
「まあ、無理を承知の上でのお願いですので」
「……だったら無言の圧力をかけてこないでください。ちゃんと考えますよ。お昼休憩を伸ばしてくれるようにヨルンシスさんに頼んでおきます。しばらくこの部屋でお待ちください」
そう言い残して私はケイトリンさんの部屋を後にした。
とりあえずだ、事情を知りつつ黙っていたテルミラお母さんに一言文句を言いにいこう。よくもあんな恐ろしい後輩を送りこんでくれたな。
ヨルンシスさんの所にも足を運んで午後の再開時間を遅らせてもらった。彼女は調整には応じてくれたものの、悩んでいる風の私を見て。
「やはりこうなりましたか……。嫌な予感がしたので早めに休憩に入りましたが無駄でしたね」
「どうもすみません……」
「いえ、私のミスでもあります。ナザネシア王国にもあんな怪物がいたなんて。ケイトリン様はずっと留学なさっていたので情報がなかったんですよね」
私に怪物女王を引き合わせてしまったことを一通り後悔したのち、ヨルンシスさんは念押ししてきた。
「断っていただくのが一番ですがね、もし受けるならケイトリン様の能力もしっかり活用してください」
まるでもう私が引き受けるのが分かっているみたいだ……。
私も個室を借りて一人でじっくり考えてみることにした。
そう、ヨルンシスさんにも見透かされていた通り、私の心はケイトリンさんの申し出を受ける方に傾いてしまっている。先ほどの記憶の中で見た、瓦礫と化したルダフトの町の景色が頭から離れない。あそこでいったいどれだけの人が亡くなったのか。そして、現在においてもどれだけの人が苦しんでいるのか。
町の完全な復興には時間が掛かるとしても、私の力をフル活用すれば経済は早期に立て直せるかもしれない。さらに、キアや七勢力会議の皆や聖獣達の力を借りれば外敵もどうにか凌げるかもしれない。
道筋はおぼろげながら見えている。後は私が覚悟を決めるだけだ。
……こんな時、レイエルが傍にいてくれたら。
いや、あの子ならどうするかなんて分かってる。私の心が傾いている方に、そっと背中を押してくれるに違いない。
お昼休憩が終わり、再び全員が会議室に集まった。
最初に私から辿り着いた答を発表することに。
「ナザネシア王国ケイトリン女王様からの申し出を受け入れることにしました。かの王国を聖女ルーシャ教団の勢力圏とします」
宣言すると同時に、ケイトリンさん以外の全員が一斉にため息をついた。
やっぱり皆、予想していたか……。でも、まだ続きがあるから最後まで聞いてね。
「ただし、ナザネシア王国は現状のまま存続させ、私は聖女として守護する形を取ろうと思います。ケイトリンさん、とこれからは呼びますね。あなたには引き続き女王を務めていただきます」
私の提示した案に、普段は淡々としているケイトリンさんも驚いた様子を見せた。
「よろしいのですか? それでは王国を救ってもルーシャ様やエルフィリス国が得るものは少なくなってしまいますが」
「いいえ、両国の結びつきはこれまで以上に強くなるので得られるものは充分にあると思います。それに今は後のことより、どれほど速やかにナザネシア王国を建て直せるかが大事。女王としてのあなたの力が必要です」
ケイトリンさんは常に淡々としていて極端な行動にも出るちょっとやばい人だけど、能力は高くて決断力もある。また、王国内をあちこち旅していたことから国土に詳しく、何よりあの土地と人々を思う気持ちに偽りはない。彼女ほど王国を治めるのに適した人物はいないだろう。
現実的に王国の再建を第一に考えるなら、既存の組織体系をそのまま活用、補強した方がいいに決まっている。
という私の考えを説明すると、突然ケイトリンさんはこちらに向かって深々と頭を下げた。
「あなたは、私が思っていた以上のお方でした。このケイトリン・ナザネシア、女王として聖女ルーシャ様に誠心誠意お仕えいたします」
本日、2巻の原稿を書き上げて編集部に送りました。
現時点では、来年の春先頃に出版予定です。




