53 革命
すみません、前回一話とばして投稿しました。
前回投稿直後にお読みになった方はお手数ですが前話を……。
テルミラお母さんは力なく聖霊水が入った水甕を指差す。
「あれ、返すわ……。高級霊薬だと思ったのに、とんでもない欠点があった……」
「欠点じゃないって。そもそも使い方が間違っているんだよ」
とお母さんの向かいに座っていたオーゼスさんが聖霊水をすくって一口飲んだ。
「俺はとても気に入ったがな。これは間違いなく体にいいし、毎日飲めば日々の鍛錬も効果が上がるはずだ。聖霊は基本的に他の精霊との相性もいいからな」
「本当ですか? あ、じゃあ、合宿中の皆のために何甕か持って帰ってください」
聖霊水が傍にあれば皆が訓練で怪我してもすぐに治療できるし、おまけにレイエルも健康になるし、いいことずくめだね。
……レイエルの合宿を認めたわけじゃないけど、強くなりたいというあの子の気持ちも分かる。私に応援できることがあるならやってあげたい。
本当はすぐにでも戻ってきてほしいんだけど、とりあえずは応援する……。
私が振り向くとキアはビクッと体を震えさせた。
「……だから、悪かったって何度も謝ってるだろ」
「いや、レイエルの件はもういいよ。キアに残ってもらったのにはもう一つ理由があったんだ。ご飯を作ってあげる」
「え、ほんとに晩飯を食わせてくれるのか? どんなご馳走だ!」
「これだよ」
私が取り出したキューブ型の物体にキアは眉をひそめる。
包み紙の中にいくつかあるそれを見たトレイシーさんとミーティアさんの目が鋭く光った。
「チョコレートですね! 一つください!」
「私達の大好物をお持ちとは! いただきます!」
「あ、ちょっと」
止める間もなく二人は摘まみ上げたそれを口に放りこんでいた。
この直後、私には彼女達の髪が逆立ったように見えた。それから揃って止めどなく涙を流す。
「こ、このチョコレートは……」
「とってもスパイシー……」
「……チョコじゃないって。参謀にあるまじき浅はかさだな」
とりあえず二人は聖霊水を飲んだことで事なきをえた。今のところ、この霊薬はろくな使い方がされていない。
改めて私はキューブ型の物体を皆の前で掲げる。
「これはカレールウ(甘口)だよ。カレーライスという料理の元になる調味料の塊」
説明を聞いたトレイシーさんとミーティアさんは「「なんて物を食べさせるんですか……」」と口を揃えた。勝手に先走っておいてどの口が言うか。
一方で、キアからは嬉しさを堪えきれずにうずうずしているのが伝わってきた。
「ルーシャ、作ってくれたんだな……!」
「約束したからね。本当は私の誕生日の明日に作って、レイエルにも食べさせてあげたかったんだけど……」
「レイエルの件はもういいって言っただろ……。頼むから切り換えてくれ」
「はいはい、じゃあ今からカレーライスを調理するよ」
台所に入った私は、拠点の調理スタッフ達と一緒に晩ご飯の準備に取りかかった。
作るのはオーソドックスな家庭のカレーライスだ。牛肉、ジャガイモ、タマネギ、人参を炒めてから煮込んでいく。そして、私が調合したルウを投入してさらに煮込むと懐かしい前世の香りが漂いはじめた。
うーん、自分で色々トッピングできた方が楽しいか。と思って、トンカツやゆでたまご、ゆでブロッコリーなど思いついた物を適当に用意する。おっと、チーズは外せない。
そうそう、口がさっぱりする野菜のピクルスも添えたらいいね。これで完成っと。
教団関係者も含めた全員で実食となった。
やはり一番反応がよかったのは、この日を待ちに待っていたキアだ。
「完璧だ……! 完璧に日本のカレーライスだ! すごいなルーシャ!」
幸せそうにすごい勢いで食べている。いっぱい作ったから好きなだけおかわりどうぞ。
もちろん調理スタッフの子供達にも大好評だった。どの子も初めて食べるカレーライスに顔を輝かせている。
「皆も頑張ってくれたからね。お腹いっぱい食べて」
「「「ありがとうございます! 聖女様!」」」
色々な人が一堂に会してカレーを食べている光景に、前世のイベントごとが思い出された。本当に色々な人が……、と隣国の教祖の女性も一緒になってカレーを頬張っているのに気付く。
「あなた、まだいたんですか……」
「帰るのに数日要しますので、力を蓄えないとと思いまして……。あ、聖女様がお作りになった聖霊水、飲ませていただきました! あれこそまさに奇跡の水です!」
「ああ、あれはあなたからヒントを貰ったんですよ」
「でしたら私に聖霊水をお分けいただけないでしょうか? あの水があれば私が抱える信者の数を今の十倍、いえ、百倍にしてご覧に入れます!」
「ええー……、そんなにうまくはいかないでしょ……」
この時の私は想像もしていなかった。のちに西の隣国で伝染病が蔓延した際、私を襲撃に来たこの教祖の女性が聖霊水を使って災禍を平癒。それを機に信者数百万人を集めることになるなんて――。
トレイシーさんとミーティアさんもカレーを食べつつ、私の所にやって来る。
「ルーシャ様、聖霊水と一緒にルウやカレーライスのレシピも全国の支部に配りませんか?」
「きっとこの美味しさに魅かれてさらに信者が増えますよ」
「ええー……、そんなにうまくはいかないでしょ……」
この時の私は想像もしていなかった。配布したルウとレシピが引き金になって、各支部で次々にご当地カレーが誕生。王国内で全国カレー行脚が一大ブームとなって信者が爆増することになるなんて――。
カレーを食べていたテルミラお母さんがふとその手を止めた。
「……ルーシャ、あんたが今日作った聖霊水とカレー、革命を起こす気がする」
「何言ってんの、そんなことあるわけないじゃん」




