54 贈物
首都の拠点で一日過ごし、いよいよ七勢力による首脳会議の日を迎えた。
本日の私の同行者は、セレノアさんが不在なので必然的にテルミラお母さんに。いつも通り二日酔いでだるそうにしていたので聖霊水を飲ませてみた。
すると途端にシャキッと覚醒。やっぱりこの水はとても便利だ。
会議の部屋には、もう顔なじみと言ってもいい各代表者とその同行者が集っていた。
私は用意された専用の幼児椅子に座る。
「では、全員揃いましたので会議を始めます」
今回もヨルンシスさんが進行を務める形でスタート。彼女は「最初に重大な発表があります」と前置きをした。
え、何だろ、昨日の打ち合わせではこんなの聞いてないよ? ケイトリンさんは一番最後の予定だから違うよね?
戸惑っているうちに私以外の六人の代表者全員が立ち上がる。
「ルーシャ(さん)、三歳のお誕生日おめでとう!」×6
皆でそう声を合わせた後に、それぞれが机の下に隠していたプレゼントを出してきた。
突然の展開に面食らいながらも、私はどうにか言葉を絞り出す。
「まさか、こんなサプライズを用意してくれていたなんて。皆さん、ありがとうございます……!」
たどたどしくお礼の気持ちを伝えると、キアが腕組みしながら微笑んだ。
「昨日の打ち合わせの時も秘密にしておくの大変だったんだぞ。うまくいってよかったよ」
六人がそれぞれのプレゼントを持って私の所へ。
まず、キアが自分の贈り物の封を解いてみせる。
「私が自ら彫った木彫りの熊だ。なんか前世で見た記憶があって、ルーシャなら絶対に喜ぶと思った」
う、ありがとう……、貰ったら結構置き場所に困るお土産のやつだね、嬉しいよ……。
続いてヨルンシスさんからの贈り物を開けてみる。
「私達が暮らす地方の伝統工芸品、陶器の絵皿です。ルーシャさんは窯にご興味があるようなので」
いや、これまで巨大鹿を焼いたことがあるだけで、窯自体にそこまでの興味は……。あ、でもすごく繊細な絵付けがされた綺麗な皿だ。これは普通に嬉しいかも。
そして、バロノーザさんが私の前の机にズシッと大きな箱を置いた。
「俺からは各種ダンベルの詰め合わせだ。その日の気分で選んで鍛えてくれ」
幼児にダンベル……? けど、レイエルは喜ぶかもしれないか。
なお、残りのおじさん三人からのプレゼントは、一流の職人が鍛え上げた包丁、鍋、フライパンだった。このおじさん達が一番私の好みを理解しているかもしれない。
「皆さん、素敵なプレゼントを本当にありがとうございます!(一部微妙なのもあるけど)とても嬉しいです!」
最後に私がお礼を述べて、首脳会議の場とは思えないほど和やかな雰囲気に包まれた。
ここで、一度退室していたキアがロウソクを立てたケーキを持って現れる。
「さあ、火を吹き消せ。皆で食おう」
大きなケーキは切り分けると同行者達の分もあり、全員で食べながらお茶を片手に談笑。私にとって思いがけず楽しい誕生日となった。
テルミラお母さんも皆と同じようにケーキを食べていたが、不意に我に返る。
「え、何この孫娘のお誕生日会みたいな空気。……首脳会議っていつもこんな感じなの?」
もっともな疑問にヨルンシスさんが苦笑いで応える。
「そういえばテルミラは初めての出席でしたね。大体こんな感じですよ。ルーシャさんが加わってからというもの、一気に雰囲気が和んで、たまにホームパーティーのようにもなります。まさに幼女おそるべしですね」
……なんか申し訳ない、私のせいで。ていうか、私はいたって真面目にやってるんだけど。
とりあえずケーキを食べ終えたテルミラお母さんはお茶を飲んで一息。それから突然叫んだ。
「これは国の行く末を決める最高峰の会議でしょ! もっとちゃんとやって!」
全くその通りだけど、お母さんには言われたくない……。
全員が同じことを思ったが、食器類を片付けて所定の席や位置に戻る。
私のお誕生日会から通常の会議へと場の空気は切り換わった。昨日のうちにしっかり準備を整えておいた甲斐もあり、会議はさくさくと進む。
二時間ほどで予定していた全ての審議を終えた。
テルミラお母さんが感心した様子で。
「なんだ、やればちゃんとできるじゃないの」
いつもちゃんとやってるって……。だから、お母さんには言われたくない。
さて、全ての審議が終わったということは、いよいよナザネシア王国の新女王ケイトリンさんの出番ということだ。
一人ヨルンシスさんが席を立ち、別室にいる彼女を迎えに会議室を出ていった。
「ったく、こんなのは異例中の異例だぞ」
キアが椅子の背もたれに体を預けながらそうこぼす。
外交の場は別できちんと用意されている。外国の使者、それも国主自らがこの七勢力会議に乗りこんでくるなんて本当に異例の事態だった。まあ、かつて私も直接乗りこんできたんだけど……。
しばらくして、まずヨルンシスさんが部屋に戻ってきた。それから扉に向かって「どうぞ、お入りください」と声をかける。
扉が開いて一人の女性が静かな歩みで入ってきた。
「エルフィリス国の皆様、初めてお目にかかります。ナザネシア王国女王、ケイトリンと申します」
こう挨拶した彼女は、情報によれば年齢は十八歳らしい。外遊用の衣装に身を包み、派手な装飾品などは付けていない。こうして女王と告げられなければ分からないほどだ。
そうした外見よりも、私はケイトリンさんの魔力が気になった。抑えてはいるものの、結構な実力を備えていることが伝わってくる。纏っている精霊達の雰囲気からおそらく風霊使い。同じテーブルではキアも「へぇ」と小声で関心を示した。
あれ、テルミラお母さんはあまり驚いた様子じゃないな? 同じ風霊使いなのに。まあ、別にいいんだけど。
私の隣に用意された椅子を勧められるも、ケイトリンさんは動こうとしない。代わりに、私に視線を向けてきた。
「聖女ルーシャ様、本日がお誕生日だそうで。おめでとうございます」
「え、ありがとうございます」
「僭越ながら、私も贈り物を用意して参りました。お受け取りいただけますか?」
「それはわざわざすみません。いったい何でしょう?」
尋ねるとケイトリンさんは微笑みを湛え、こちらに両手を差し出す。
「我がナザネシア王国を差し上げます。ぜひルーシャ様の勢力圏にしてください」
…………。
……わぁ、私、お誕生日に王国貰っちゃった。




