50 吸収
うなだれる教祖の女性をミーティアさんが立たせ、後ろ手に紐で縛りながら笑みを浮かべる。
「聖霊を宿すなんて上位の聖職者でも簡単ではありません。あなたごときには無理ですよ」
そうなんだ。まあ、適性Dのミーティアさんには言われたくないだろうけど。とにかくこれで一段落したし、早く皆の治療に行かないと。
そう思いつつ振り向くと、こちらに歩いてくるトレイシーさんの姿が目に入った。
「なかなかいらっしゃらないので迎えにきたのですが、それは誰ですか?」
「ルーシャ様を妬む隣国の小物教祖です」
とミーティアさんが答えた後に、参謀二人で大きなため息をついた。
「またですか……。仕方ありません、いつも通りにしましょう」
「ですね、残酷ですが仕方ありません」
……ど、どうするつもりなんだろう。やけに手慣れた感じだけど。私が知らないだけで、まさかこれまでも敵対する教団をことごとく闇に葬って……?
訝しむ私の視線に参謀達は、「「ご心配なく。さあ、治療に参りましょう」」と笑顔で声を揃える。この上なく気になったものの、結局私達は教祖の女性を連れたまま人々の待つ広間へ。
やはりその部屋の空気は今日もとても重かった。
総勢百人以上はいるだろうか。運びこまれた怪我人や病人があちこちで辛そうな声を上げていた。
広間の状況に、教祖の女性が呆然と呟く。
「こ、この全員を治すの……? 無理よ、こんな瀕死の人達、奇跡の水でも一人だって助けられないわ……」
だから、あなたのはただの古い水ですって。とにかく見ていてください。
私が目線で合図を送ると、頷いたトレイシーさんとミーティアさんが進み出る。
「皆さん、お待たせいたしました!」
「聖女ルーシャ様が治療を始められます!」
紹介されると同時に私は魔力で空中に浮かび上がる。広間に寝かされている人々からは「おお……」という感嘆の声が聞こえてきた。
まず最初にこの仰々しい聖女服で浮遊してみせる、という演出が恒例になっている。私は必要ないように思うけど、幼女だけに威厳を出すのが大事らしい。
場の全員の注目が集まる中、私は両手を大きく広げた。
「ここまでよく頑張りました。あなた方の苦難の日々は、この時をもって終わりを迎えます」
このセリフも威厳を保つために必要なんだとか。参謀達に言われるがままなのが気に入らないけど、教団の品位にも関わるので仕方ない。
えーと、もったいぶる感じで少し間を空けて……。はい、お待たせしました、〈ヒールワイド〉。
広間を眩い光が駆け巡り、いつものように人々は瀕死だったのが嘘のように完治した。そして、これもいつものように、絶望の淵から帰還した彼らは私に向かって涙を流しながら手を合わせる。
トレイシーさんとミーティアさんがススッと進み出た。
「皆さん、健康になったらお腹が空いたでしょう」
「奥に温かい食事を用意してありますので、どうぞ」
(このタイミングで胃袋を掴めば!)
(信者になるのは確定的です!)
おい、腹黒い思考が魔力を伝って漏れているよ……。
ここで治療の様子を眺めていた教祖の女性がガクッと膝をつくのが見えた。
「……ありえない。こんな力、聖女どころかもう神の域よ……」
彼女もそこそこ聖霊魔法の修練はしているのだろう。だからこそ余計に堪えたらしい。
あまりにもショックを受けているので心配して見つめていると、教祖の女性は突然私の前でひれ伏した。
「おみそれいたしました、聖女様! どうかこの私に、あなたにお任えすることをお許しください! 配下の神官達共々、誠心誠意お任えいたします!」
……えー、急にそんなことを言われても。
戸惑う私にトレイシーさんとミーティアさんがこそっと「「お受けしてください」」と耳打ちしてきた。
「うーん……、じゃあまず、奇跡の水で奪ったお金を信者達に返してあげてください。話はそれからです」
手の縛りをほどいてもらった教祖の女性は喜々として広間の出口へと駆けていく。
「分かりました、すぐにでも! では私も温かい食事をいただいて帰国します!」
あつかましいな……、さすが教祖をやっているだけはある。
でも、あんな怪しげな教団を吸収して大丈夫かな。
私の不安を察した参謀の二人は陽気な笑い声を上げていた。
「毎回やっていることなのでご心配なく。少し残酷ですがこうやって格の違いを見せつければ大抵はあのように改心するのです」
「きちんと聖女ルーシャ教団の教義も守るように管理しますのでご心配なく。これはいよいよ国外にも支部ができそうですね」
……つまり、これまでも私が治療する様子を密かに他所の教団に見せつけて、そっくりそのまま吸収していたということだね。道理で神官も信者もどんどん増えるわけだ……。私の教団は宗教界の怪物か!
「勝手に敵対教団を次々に潰して! ちゃんと私に報告してよ!」
「すみません、いずれも取るに足らない教団だったもので」
「わざわざお耳を煩わせることもないかと」
しれっとそう述べた参謀達に思わずため息が出た。やっぱり彼女達には言っても無駄だ……。




