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転生幼女、教団はじめました。 ~新しい家族とのんびり暮らしたいのに、最強の聖女様と崇める信者たちが放っておいてくれません。世界を救うとか本気ですか?~  作者: 有郷 葉
アフターエピソード

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44 参謀


 私自身はあまり聖霊に好かれている実感がないし。

 と本音を口にした私をセレノアさんは抱き上げる。


「私が見るに、聖霊からの一方通行になってる。もしルーシャ様が気付けたら、聖霊魔法だけじゃなく色んな面で力を得られるはず」


 いやいや、私はそんな力なんて必要……、ないとは今は言えないか。巨大鹿と戦って私はかつてないほど自分の無力さを痛感しているし、かつてないほど力を欲している。


 セレノアさんは頭を一通り撫で回した私を床に下ろした。


「全てはルーシャ様次第。聖霊はべったりだから。じゃあ、私はレイエルともふもふ達から特訓をつけてほしいと頼まれてるから、残念だけどもう行く。レイエルも私達ほどじゃないけど水霊に好かれてるからまだまだ強くなれる」

「あ、もしかしてレイエルが水霊魔法を選んだのは」

「一番適してるって私が教えた。聖母の風霊くらいには適してる」


 それは相当な使い手になれるということじゃない。だからあの子、私に相談もなしで決めたのか。この精霊と交信できる無双の超人からお墨付きを貰っていたら疑いはないよね。


 超人はもう一度私の頭を撫でて、名残惜しそうに去っていった。

 私の方は引き続きこっそりとトレイシーさんとミーティアさんの執務室を目指すことに。セレノアさんをやり過ごしたので(全然やり過ごせてないけど)、もう私の隠密行動を感知できる者はいないはずだった。思った通り、頭上を幼女が浮遊していても本部職員の誰一人気付かない。

 やがて目的の部屋の前に到達。かけられた看板には手書きで参謀室と。


 扉を少しだけ開けて中を覗きこむと、参謀の二人は大机に突っ伏してどんよりした空気を発していた。


「ああ、昨日の鹿さえ聖獣になっていれば……」

「ええ、教団最強の手駒になっていたのに……」


 まだ引きずっているのか……。相変わらず欲望に取り憑かれているし、司教さんは私に何を見せたかったんだろう。

 と思っているとトレイシーさんが「本当に教団最大の危機にして最大のチャンスでした」と呟きつつ体を起こした。これにミーティアさんも頷きを返して同じく椅子に体を預ける。


「まったくです。ルーシャ様を失うかもしれないというあの恐怖感は忘れられません」

「空に花火が上がった時の喜びといったらありませんでしたね。これでルーシャ様をお守りする最強の盾ができると」


 二人の周囲に再びどんよりした雰囲気が漂いはじめたが、ここはシンクロして、揃って首を横に振って吹き飛ばす。

 まずトレイシーさんが拳を握り締めて椅子から立ち上がった。


「いつまでも悔やんでいても仕方ありません! あんな魔獣が存在すると分かったのですから!」

「そうです! ルーシャ様をお守りする手立てを考えないと!」


 呼応してミーティアさんも勢いよく立っていた。二人で手を取り合って互いに力強く頷く。


「私達が参謀になったのはこういう時のためです。再び黒い悪魔が襲来しても大丈夫な態勢を整えますよ、ミーティア!」

「はい、トレイシー! 今こそあの日の誓いを果たす時です!」


 あの日の誓い……? あ、魔力を通して二人の思念と記憶が流れこんでくる。

 それはまだ教団ができる前、トレイシーさんとミーティアさんが他の神官達と一緒に古びた教会に身を寄せていた頃の話。魔獣と遭遇した絶体絶命の危機を私に助けられた。未来の見えない絶望の淵にいた二人には、あの出来事は私が思っている以上に大きなことだったみたいだ。

 それからエルフィリス国に辿り着いたその日、二人で誓い合ったらしい。今後の人生は全て、私を守り、私を幸せにするために使おうと。


 かつての約束を確認するように、トレイシーさんとミーティアさんは結んだ手を一層強く握り合う。


「最優先すべきはルーシャ様の生存と幸福!」

「すなわち教団をより強大にすることこそ最重要命題!」


 ……私、一度も教団を大きくしたいなんて言ったことない。確かに、教団がもっと戦力を持てば私は安全になるかもしれないけど、それが幸せにつながるとは限らないでしょ……。

 駄目だ、あの二人は教団を成長させることが私への恩返しになると頑なに信じている。うーん、私のためを思ってくれているのが分かるだけに複雑な気分だ……。

 と私は覗いていた参謀室の扉を静かに閉めた。


 ふと視線を逸らせると、十歳前後の子供達が食材を抱えてこちらに歩いてくるのが見えた。気になったので浮遊して尾行すると彼らは本部のキッチンへ。

 中を覗くとここでも沢山の子供が作業をしている。


 え……、これが教団の調理スタッフ? あとは女性も多いかな。本職っぽい男性の料理人もいるけどずいぶんと少ない気が……、あ、顔見知りの人がいた。

 いつも自宅前での鍋パーティーを手伝いにきてくれる男性を見つけ、ススーと彼の背後に回りこんだ。


「ル、ルーシャ様! びっくりさせないでください……」

「ごめんごめん。それより、調理スタッフってどうしてこんなに子供が多いんですか? あと大人でも素人が結構いますよね?」

「ああ、他ではなかなか働き口のない人達を教団で受け入れているんです。経済的に苦しい家庭を助けるためらしく、私達経験者が仕事を教えています。子供達も普段は学校終わりの数時間だけですが、今日は休みなので朝から来てくれていますね。彼らはここで働くことで自分や兄弟の学費を得ています」

「そっか、スタッフとして雇用すればそれが支援になる……。すごくいい、いったい誰の発案なんですか? 司教さんとか?」

「いいえ、トレイシーさんとミーティアさんです。こうすることがきっとルーシャ様のご意思に適うからって言ってましたね」

「…………、本当ですか?」


 どうやらこの本部だけじゃなく、各支部でも同様の施策が取られているらしい。

 エルフィリス国は経済的に発展しているとはいえ、社会的弱者に対してはまだまだ配慮が行き届いていない。だからこそ、私達聖女ルーシャ教団はそこに光を当てる活動をしている。

 トレイシーさんとミーティアさんはその意義をしっかりと理解してくれていたようだ。


 ……ずれている部分もあるけど、彼女達はちゃんと私の参謀なんだね。





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