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4話 仮想空間


 VRヴァーチャルリアリティ

 それは、仮想世界を電子の海に構築し、その中に人間の精神を入れる事を可能とする技術である。


 更に、VRではとあるソフトが人気らしい。

 その名を『世界作る君』。キャッチーなネーミングセンスな気もするが、このソフトは要するに『ゲームを作るゲーム』を代表するソフトである。


 その性能は凄まじく、全くプログラミングを知らない素人でもこのソフトを使えば一ヵ月程でゲーム世界を構築できるのだ。

 本当に、この世界は現実と全く遜色ない。


「という事で、既にアルの世界の魔法をスキルとして再現した世界を構築済みだ」


 声と顔だけの存在。

 僕にとって、いや相手にとっても、そうだった筈だ。

 けれど今、僕らは確かに同じ世界に存在している。


「やっと会えたな、アル」


「うん、初めて話した時から半年以上掛かったね。トモエ」


 失敗回数三十回以上。

 ネジを作るよりも、金属を魔法でそのまま結合させた方が早いと気が付くまで結構な試行回数が必要だった。

 プラチックや幾つかの合成金属を作成する時も、失敗した回数は片手の指では足りない程だ。

 けれど、満を持してVRマシンは完成し、仮想空間内に僕は居る。


「さて、試験まであと一週間。みっちりここで鍛えてけ」


 結論的に、僕等が出した答えは魔力量で差があるのなら『経験値』で差を埋めろという物になった。

 つまり、仮想エルクス(カンザキトモエ)とここで何度も戦う事で、相手の使う魔法や戦術への対策を万全な物にして試験に挑むという事だ。


「相手は所詮学生だ。模擬戦つったって本気の奴は月に一度の試験だけ、その回数だってトーナメントなら人数的に20回程度だろ。だったら、お前はここで戦闘訓練を100回以上積めばいい」


 学校のテストで行われる試合には特殊な遺物が使われる。

 それは、肉体を魔力を使った複製体にする遺物で、死ぬ程のダメージを受けても元の身体に戻るだけで済むという物だ。

 元の身体に戻った時点で試合は終了する。


 しかし、この遺物は使用コストに使用者の三倍の魔力を要求する。

 だから、使用は学校側で規制されていて学生が簡単に使える様な代物ではない。

 しかし、この世界でならそれとほぼ同じ条件で真剣(ガチ)の試合を何度も行う事ができるという訳だ。


「さて、エルクスの魔力等級は24だったな?」


「うん、そうだよ」


 トモエが手元に現れた『うぃんどう』を操作する事で、その頭上に『24』の文字が現れる。

 トモエの世界の文字はまだ無理だけど、数字くらいは読める様になった。


「もう時間もねぇ、一つづつレベルを上げてってのは無理だ。だから行き成りこのレベルから始めさせて貰うぜ」


 そう、VRマシンの作成によって僕がエルクスと戦う日まで残り一週間、いや六日しか存在しない。

 その時間で、どこまで僕が強くなれるか。


「お前のレベルは3だ。目指せよアル、ジャイアントキリングをよ」


「うん!」


 僕の頭上に『3』の文字が表示される。


「アルが使える戦闘魔法は全て使えるようになってる。お前のスキルに合わせて二重詠唱と無詠唱も入ってるし、発動速度もそっちのアバターの方が俺より速い。対して俺は魔力量が多く、エルクスが使える魔法全てと、基本的な魔法全てを網羅してる」


 僕では魔力が少なすぎて使えない魔法も、エルクスの魔力量なら使える。

 そして、高等学校の一年生が覚える様な魔法は全て使えると想定するべきだろう。


「エルクスが本来使えない魔法も使えるから、本物よりちと強いかもしれないが勘弁しろよ」


「あぁ、それくらいじゃ無いと多分本物には勝てないから」


『FIGHT!!』


 そんな文字が僕の視界に表示されると同時に、チリンチリンと鈴の音が鳴った。


火球ファイアボール


 トモエが手を翳すと、エルクスの者と全く遜色ない火球が顕現する。

 当然だ。魔法式に入っている数式を元にこの世界の魔法を再現しているのだか。


「【【アクアウォール】】」


 水の防壁二枚の展開と同時に、横へ飛ぶ。

 この二枚の結界が破られる事を知って居るからだ。


 しかし、二枚の壁があれば着弾までの時間は少し遅くなる。

 その時間があれば、肉体運動で回避できる。

 僕の魔力操作能力なら、逆立ちしながらでも魔法は発動できるから回避しながら魔法を二つ買う程度は簡単だ。


火球ファイアボール火球ファイアーボール


 当然こうなる。

 相手は魔力量で勝っている。

 なら、僕の魔力が無くなるまで撃ち続ければいい。


 僕には防御手段も無く、回避方法もギリギリだ。

 いつも通りの展開。


 何れ火球にぶち当たり、僕の敗北。


『YOU LOSE』


 僕の画面にそんな文字が浮かぶ。


「まだだ」


 痛みは無く、疲れも無く、魔力量はリセットされる。

 だったら、立ち上がれない理由は何もない。


「ウグッ……!」


 火球が僕の全身を包む。


『YOU LOSE』


「あ……」


 炎の鞭が、僕の身体を切裂く。


『YOU LOSE』


「なん……!?」


 僕の逃走ルートを潰す様に展開された炎の壁を前に足を止めると、やはり火球で燃やされる。




『YOU LOSE』




『YOU LOSE』


『YOU LOSE』


『YOU LOSE』


『YOU LOSE』


『YOU LOSE』


『YOU LOSE』


『YOU LOSE』


『YOU LOSE』


『YOU LOSE』


『YOU LOSE』


『YOU LOSE』『YOU LOSE』『YOU LOSE』『YOU LOSE』『YOU LOSE』『YOU LOSE』『YOU LOSE』『YOU LOSE』『YOU LOSE』『YOU LOSE』『YOU LOSE』



 ……

 ――

 ◆◆



 何度、敗北しただろうか。


「もう一回」


「おう」


 何度、この身が炎の中に沈んだだろうか。


「まだまだ」


「おう」


 何度、死んだか。


「行くぞ」


「おう」


 いつまで続く。

 いつまでやればいい。

 どこまで負ければ勝てる。


 ――勝てないだろ。


 勝てる訳ないだろ。

 魔力量が違い過ぎる。魔法の威力も、魔法を使える回数も、全ての能力が僕よりも上。

 そんな相手にどうやったって勝てる訳無い。

 そんなのとっくの昔から分かってたはずなのに。


 だから諦めていた。

 どうせ勝てないなら、熱くなっても仕方ないと。

 ずっと冷めた態度で試験に臨んでいた。


 僕は無力で、僕は無能で、僕は魔力が少ないから。


 ――魔法使いには成れない。


 ――あの人(ミカ)に相応しい人間になんてなれない。


 諦めておけば良かったんだ。こんなに無力を痛感するくらいなら。

 もっと早く諦めて、もっと早く退学になって、もっと早く終わりにしておけば。


 ――あぁ、僕はなんでこんなに弱いんだろうか。



『テメェ! 何消化試合みたいな顔してやがる! 勝つ気でやんなきゃ、意味なんかねぇぞ!』



 トモエの言葉が僕を刺激する。

 同時に、火球が僕を包んだ。


「なぁお前、何調子に乗ってんだ? テメェの願いを叶えるのはそんなに簡単な事か? 叶えようとせずに叶うほど、願ってるだけで叶うほど簡単な話か?」


 負ける度に嫌になるんだ。

 恥ずかしくなるんだ。

 嫌なんだ。もう、自分の無力を痛感したくないんだ。


「雑魚なんだから、死ぬ気で勝とうとしろよ!」


「うるさいなぁあああああ!!」


 黙れよ。死んじまえ。お前もそうやって、結局僕を馬鹿にするのか!


 【水弾丸アクアバレット


 いつかトモエに聞いたトモエの世界の武器の名前。

 銃と弾丸。そこから着想を得た僕のオリジナル魔法。相手を殺す事に特化した、高速回転する弾丸の魔法。

 僕の殺意が、新たな魔法を創り上げた。


 音速に達する螺旋の水は、トモエの頭を貫いた。


『YOU WIN』


「やればできるじゃねぇかよ馬鹿野郎」


「え……?」


 しばらく、僕が勝ったことに僕自身が気が付かなかった。


「僕が勝った……?」


「そうだな」


「あ、ごめんさっきのは……」


「それはいいが、お前どうやって登録されてない魔法を使いやがった?」


 魔法式を構築し魔法を発動させるのは、こっちの世界特有の法則だ。

 VR世界と言っても、魔法を数値パラメータ的に模倣しているだけで魔法式の構築なんて真似はできない。


 この世界はトモエの世界の物理法則が基本になってて、トモエの世界には魔法式を構築するって『法則』自体が存在しない筈だから。


 でも僕は……


「いつもと同じように魔法式を組み上げて魔法を放っただけなんだけど……」


「っ……こいつはまさか……」


「え? 僕なんか間違えた?」


「いや、それはこっちの話だからお前は気にしなくていい。だがそうだな。ちょっと明日までにプログラムを書き換えとくから、取り合えず今日は寝とけ」


 ゲーム内の時計を見れば、僕らが戦い始めてから既に15時間以上経っている。

 流石に眠気が凄い。


「飯と水分は取ってから寝ろよ」


「あ、あぁ分かったよ。それとトモエ……」


「なんだ?」


「ありがとう。僕のためになると思ったから、あんな事言ってくれたんでしょ?」


「普通に、お前を馬鹿にしただけかもしれねぇぞ?」


「トモエはそんな事は言わない。そんな非合理的な事はしないよ。僕は君を知っているから、それが分かるんだ」


「そうか。まぁ、礼なら有難く貰っとく」


「うん」


 そして、僕はログアウトボタンを押した。

「面白そう!」

と思って頂けましたらブックマークと【評価】の方よろしくお願いします。


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1から5までもちろん正直な気持ちで構いませんので是非。

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