5話 水弾丸
15時間も仮想空間で戦っていれば肉体の疲労、主に脳への負担がかなり多い。
「それにしても、僕の部屋にこんなメカメカしい物があるなんて……」
僕はVR用のカプセルボックスを眺めながらそう呟くと同時に、お腹が『グゥゥ……』と鳴った。
「それより何か食べないと……」
喉も乾いてるし、頭も痛い。
ネットワークに繋がってないから時間もバグってて、警告とかも死んでるし。
良かったトイレ漏らさなくて、次からは気を付けよう。
リビングに移動すると、ミカが居た。
「最近、なんで学校に行かないの?」
同じ家に住んで、同じ時間に一緒に登校していたのだから、学校を休んでいる事をミカに隠すのは不可能だ。
「行く意味が無いから」
僕は隠すことなく、自分の考えを直球で口に出す。
「どうせ退学するからって事?」
「違う」
「嘘、じゃあ勝てると思ってるの?」
僕に気を使って、彼女は何も言わずにエルクスに会いに行った。
けれど、それが僕にもうバレたから包み隠さず本心を言っているのだ。
どちらかと言えば、今の方がいい。だって、何も知らないままエルクスに間違って勝って、それに気が付いたら、僕は自分を今以上に嫌いになっていただろうから。
「――勝つよ、絶対。見てて」
ミカは僕の見て、目を見開く。
僕はもう決めたんだ。目的を見失わず、ただそれだけを見据えて頑張るんだって。
「君が僕に言ってくれたんだ。夢を叶える為に必要な物は、絶対に諦めない意思なんだって」
「アル……私……」
ミカが僕に次に言う言葉が分かったから、僕はそれを言わせない。
「謝らないで。僕はちゃんと、前を見ているから」
見据えている。
ミカの隣に居たいから。
トモエの期待に応えたいから。
「分かった、私は謝らない」
そうだ。
僕が弱いのは事実で、ミカに辛い思いをさせたのは僕の責任だ。
謝るとしたら僕の方なんだ。
「アル、ご飯食べるでしょ?」
ミカが少し横に移動すると、机の上に置かれた物が目に入る。
机の上には、ミカが作ってくれた夕食があった。
「ありがとう」
僕が負ければ、こんな毎日も消えてなくなる。
そんなのは嫌だから。
勝つ。勝って、立派な魔法使いに成る。
そう誓って、僕は夕食にがっついた。
◆
「朝早くからごめんね」
朝六時、僕とトモエは既にVR空間の中に居た。
「あぁ、徹夜したからプログラムは完璧だぞ」
「えぇ、あれから寝て無いの!?」
「まぁな。けど心配すんな、俺は三徹までは余裕だから」
凄いな。トモエの世界の技術だと三日も寝ずに活動できるのか。
いや、トモエの特殊な身体能力による物だろうか。まぁ考えても仕方ないけど。
「よし、それじゃあ魔法戦を始めるぞ。って言いてぇとこだが、その前に少し説明と実験だ」
「うん?」
「取り合えず魔法を使って見てくれ、何でもいい」
「じゃあ、水球」
うん、普通に使えた。
エルクスの使う火球に比べれば、サイズも速度も威力も弱いけど、使う分には問題は無い。
「やっぱりか……」
「え? 今ので何か分かったの?」
「あぁ、昨日お前が登録されてない魔法を使っただろ?」
「そうだね」
水弾丸はあの時即興で構築した魔法式で発動した。
それは本来、仮想空間ではあり得ない筈だが、その秘密が分かったのだろう。
「そんな感じで、この世界でも普通に魔法は使えるって事だ」
「え? なんで使えるのって説明をしてくれるんじゃないの?」
「それは分からん。予想はあるが、確実じゃないから何とも言えないんだよ」
まぁ、トモエが言うならそうなんだろう。
取り合えず、エルクスに勝てるかどうかには直接関わってこないし今は気にする事でも無いのかな。
「まぁ、俺の方は昨日と同じ様にレベル24のアバターで昨日と同じ魔法を使うから。で、そっちはレベル3な。魔法は好きな様に使っていいし、オリジナルもガンガン作って試しせ。手札が増えるのは良い事だ」
「分かった」
そして昨日と同じように、魔法戦闘が始まった。
新魔法【水弾丸】を習得し、それを絡めて戦闘を行っているが、やはり二度目以降の相手には利きずらい。
魔法構築の予備動作を気取られて、防御や回避もやって来る。
「これでゲームオタクなんでな。二度も同じ魔法に負けるつもりはねぇぞ!」
水弾丸の特性は、サイズを削って速度を上げた物だ。
しかし、やはり僕の魔力量ではそこまでの速度は確保できない。
おかしいな。昨日使った魔法はもっと速かった筈なのに……
『YOU LOSE』
負けた。
「どうした? 昨日より魔法にキレがねぇぞ」
やっぱり、トモエからもそう見えるのか。
どうすればいいんだろ。
形状は弾丸。
サイズは小指程。
速度を速く、尖らせて、回転させながら射出する。
重力制御は切って、跳ねる様に飛ばす。
そんなイメージの魔法だ。
魔法式が何か間違っているのか?
『YOU LOSE』
分からない。
鋭く尖らせて、高速で回転させる。
僕に出来る限界速度を入力してるはずなのに、やっぱり昨日ほどの速度は出ない。
昨日と今日の違いはなんだ。
僕の一番得意な属性。それが水だ。
水魔法は威力に欠ける分操作性に優れ、僕と相性が良い。
操作性が良いと言うのは、色々な事ができるという事。
イメージしろ。
弾丸を。規模も大きさも要らない。
ただ、速く、真っ直ぐに、剣士の刺突の様に。
魔法式構築。
「水弾丸!」
「炎壁!」
クッ、やっぱり遅い。
ある程度距離があれば、見てから相手の魔法が間に合ってしまう。
「でも、分かった」
『YOU LOSE』
炎球がぶち当たって負けた。
けど、
「次は勝つよ」
僕は魔法式の構築を開始する。
学校では一応、魔法式に関する初歩的な部分の事を習う。
魔法式の基本となっている部分だ。
それは、既存の魔法式の殆ど全てに適応される部分。
つまり『使用者の魔力量によって、魔法の威力と消費魔力が割合的に決定される』という部分である。
これがなければ、使用者の魔力量に合わせて魔法式を作り替えなければならなくなる為、基本的な規格の魔法式には全てこの内容が組み込まれている。
しかし、それゆえに僕の術式は威力を大幅に落としている。
あの時、初めて【水弾丸】を使った時、僕は無意識的にその魔法式を取り除いていたのだ。
だからこそ、あれほどの弾速を有した魔法を作る事ができた。
自分の魔力量を基準に威力部分を再調整。
サイズを少なくし、その分のエネルギーを魔法の速度に当てる。
この場合の速度とは『回転数』だ。秒間の回転数を加速させる事で、魔法の速度と貫通力を向上させる。
「【水弾丸】!」
「おっ」
発射から着弾までの間に、エルクスの魔法構築速度で防御用の魔法を間に合わせる事は不可能。
『YOU WIN』
「完成したな」
勝敗が決まり、立ち上がったトモエが僕にそう言って笑いかけた。
「まぁ、消費魔力も増えたから僕の魔力量だと十発も撃てないけどね」
「それは要調整だな」
「うん」
◆
それから六日、僕とトモエは魔法戦を千回以上行い新たな魔法を幾つか完成させた。
今日は、試験日だ。
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