3話 設計図
「それで?」
VRゲームというのがトモエの世界では流行っている様だが、僕からしてみれば今は魔法学園でのテストが重要なのであって、遊戯での息抜きは必要ない。
だから、トモエが急に何を言っているのか全く分からなかった。
『よし、一から説明してやろう。そしてアル、お前は俺の完璧な作戦を聞いた後にこう言うだろう。天才だ!……とな』
「はぁ……」
取り合えず、僕はトモエの話を聞いてみる事にした。
……
「天才だ!」
『そうだろう、そうだろう』
僕はトモエから話を聞き終わると同時に、そう言ってしまった。
悔しい。
トモエの考えた作戦、いや開発した作戦はこの異世界と繋がる魔道具を使っての『訓練』だった。
トモエから聞いた話だが、トモエの方の魔道具は『鏡』の形状をしているらしい。
かなり大きな姿鏡で、裏面から一本の電源コードが飛び出ていると。
僕の方の魔道具の形状は『ブラウン管モニター』で、魔力を注入する為の水晶は上部に付いている。
で、トモエはその鏡を一度分解した事があるらしい。それで繋がらなくなったらどうするんだと思ったが、直せているのでここは目を瞑ろう。
中を見た結果、その中身は電化製品特有の基板が見受けられたそうだ。
それを解析した結果、未知の部分はあれど基本的な部分は理解する事に成功し、VRデバイス特融のコードを接続する事も可能との事。
これによってネット通信は無理でも、この魔道具を介して『ローカル通信』を行う事は可能という結論に至ったらしい。
つまり、僕の仕事は簡単だ。
VRマシンをこっちの世界で作成し、それを『ブラウン管モニター』型魔道具に接続する事。
ついでとばかりに、電源となる電気を魔法で発電する必要がある。電圧を規格合わせて、更に僕がダイブ中でも機能するように、専用の発電機を作れと。
「って、簡単な訳あるかい」
『けど、ほら言ってただろ? 土や樹を操って家を建てる魔法とかもあるって、それを使えば大幅に時間を短縮できる筈だ』
「それでもこんな繊細な造形物を作るなんて……」
『自慢なんだろ? 魔力の操作性。ここで使わないでいつ使うんだよ』
「僕をたきつけようとしてるでしょ?」
『あぁ、してる』
全く、賢いクセに馬鹿なんだから。
「トモエの方の学校は良いの?」
『あ、あぁ。こっちは……秋休みだからな……』
あぁ、そう言えば日本の学校は長期休みの期間が結構あるとか言ってたな。
「分かった。やるよ。他に方法も思いつかないしね」
『よし、よく言ったじゃねぇか』
そうして、僕のVRマシン作成計画が実行に移されたのだった。
◆
『まずは金が要る』
「僕は仕送りで生活している身で金なんて持ってないよ?」
『心配するな。金の稼ぎ方は考えてる』
そう言うと、トモエはまたVRマシンとは別の設計図を画面越しに見せて来た。
「これは?」
『これは【カメラ】だ』
……
カメラの原理はトモエとの今までの会話から、割と理解できる状態だった。
原理が分かって居るのなら、パーツ毎の意味も理解できる。その状態での魔術発動は容易だった。
トモエが用意してくれた設計図もかなり、単純な作りの物を選んでくれたらしく金属を操る土魔法での作成は一日で終わった。
「でも、これ作るのに持ち金の殆どを使っちゃったんだけど、これでお金稼げなかったら終わりだよ」
『心配すんな。適当に風景でも取って商会にでも持ち込めばいい。ある程度写真を売りつけて、最後にカメラを渡せばローリスクハイリターンで金を手に入れられる』
トモエの指示通り、僕は適当な写真を何枚か商会に持ち込んだ。
こちらの世界では、今のところカメラに類する魔道具は無く、ダンジョンから得られる『遺物』とでも思ってもらえるだろう。
「これは、絵ですかな? やけに精巧ですな」
写真を店員に見せ、それを商会に売りたいと申し出ると商会長の元まで通された。
あの店員も結構な目利きらしい。いや写真の凄さなんて、写真を見たことが無い人が見れば一発で分かるか。
僕が住んでいる家から一番近い位置に本店がある商会を選んだ。
そこは、魔法都市では中堅といった商会だが、寧ろ中堅だからこそ王柄な態度を取られる事も無く、商談は簡単に進んだ。
「それで、幾ら位で買い取って頂けますか?」
僕に商売の技能など無い。
足元を見られようが構わないから、取り合えず即金が欲しかった。
「これほどの絵なら、金貨5枚はお約束できますね」
金貨は一枚で一月の食費になる。
それが五枚だ。幸先は良いと言えるだろう。
「じゃあそれで構いません。他に五枚程写真がありますが、買い取って頂けますか?」
「畏まりました。それにしても、この様な精密な絵を描く画家が居たとは。名前をお伺いしても?」
「あぁ、いや僕が描いた物では無いので」
「では、是非その画家の方を紹介して欲しいのですが?」
「まぁ、可能ですが……画家というか遺物の能力なんですよね」
「遺物! なるほど、そう言う事ですか!」
魔法ですら再現不可能な現象を可能とする遺物。
その能力は千差万別であり、これからもトモエからもたらされるテクノロジーは遺物という事にするつもりだ。
「僕は遺物をその譲っても良いと思っていますが、何分希少な物ですので値段は……」
「勿論です。そうですね、詳細な能力にもよりますが白金貨10枚はお約束致しますよ」
白金貨は一枚で金貨百枚分の価値がある。
もう、殆ど目標金額だな。
「あぁ、でしたら現金ではなく手に入れて欲しい物があるのですが、現物交換で如何でしょう?」
「ほう、内容を教えていただけで可能な限りご用意させていただきたいですな」
必要な金属数種類を書いたメモを渡してみる。
合金は無理だろうから、その原料となる金属の情報だ。
そこから僕が魔法で加工すると考える中々遠い話の様に思えるが、トモエから聞いた合金の作る方的に大抵の物は魔法で特に危険も無く手に入ると思える物ばかりだった。
寧ろなぜこの世界で魔法を使った合金作りが行われていないのか不思議だが、それだけ科学ではなく魔法が重要視された世界という事だろう。
「これで良いのですか? この量ですと白金貨3枚ほどの価値しかありませんが」
「はい構いません」
「それではご用意できましたら、使いの者を向かわせますので」
そんな感じで商会長との取引を終え、僕は家に帰った。
◆
『取り合えず2、3日はやる事ないから勉強会だな。少しでもVRシステムのハードフェア構造を理解してもらうぞ』
トモエは機械類を弄るのが趣味らしく、VRマシンの構造もほぼ理解しているらしい。
「異世界じゃ特許もクソもねぇからな、なんでも作り放題だぜ」なんて言っていた。特許は技術を勝手に真似する事を規制する法律らしい。
三日程後。
あの商会――名前を『ゲンニル商会』というらしい、から使いの人がやって来た。
僕はカメラを以て、商会の本店に足を運んでいた。
「スペルディア様、ようこそおいで下さいました」
「どうも、ゲンニルさん」
「それでお約束した金属類ですが、全て揃っております。量が量ですので倉庫に保管しておりますが、見に行きますか?」
「はい。あ、それと約束の遺物です」
カメラをゲンニルさんに手渡すと、彼は驚いたような表情を浮かべた。
「おぉ、ですが商品の確認もまだですがよろしいので?」
「この商会の信条は『信用第一』と伺いました。これからも何かと付き合いがあるかもしれませんし、これくらいの事ができるくらい僕もこちらの商会を信用しているとう事を示したいので」
「なるほど、それでは有難く頂戴いたします。そして、こちらがお釣りになります」
そう言って、ゲンニルさんは白金貨を七枚差し出して来る。
「え、ですが……」
「我が商会の信条は信用第一でございます。それが顧客の足元を見た取引をする訳には行きませんので」
なるほど。どうやら、偶然にしてもかなり当たりの商会を選べたらしい。
「分かりました。そういう事なら僕も有難く貰っておきます」
倉庫に案内されると、そこには約束の金属類が必要分と少し多めに置かれていた。
後はプラスチックを作る様の石油もある。
「白金貨三枚分でご用意させていただきました。ご迷惑でしたら多い分はこちらで買い取りますが?」
「あぁ、では余ったらお願いするかもです」
「承知致しました」
それから僕は、この倉庫の一角を一月ほど貸して欲しいというお願いをした。
金貨三枚で了承を貰い、カメラを使い方をゲンニルさんに教えてから、一度僕の部屋まで戻る。
『よし、素材調達完了だな』
「うん、でも問題はここからだよね」
『そうだな。一応VRマシンを二つ作れるほどの素材量を用意したが、それでも何回も失敗できないぞ』
「了解」
まず合金作りから始める。
作り方は様々だったが、その全てをトモエは知っていた。
インターネットという物で知識を確保している様だが、その仕組みは僕にはまだ難解だ。
『つってもクロムやニッケルなんてレアメタルがよくそんな安価で買えたな。中世くらいの文明だろうに……』
「まぁ、探知魔法や鉱石採掘用の魔法もあるからね」
『なーる、そりゃ便利だ』
でも、レアメタルから電子機器を作る技術なんて、いや発想自体がこの世界には存在しないだろうな。
魔法が重要視されているから科学系は発展途上もいいとこだ。
トモエの話を聞いた後は、誰でもそう思ってしまうだろう。
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