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2話 不登校

「クズ……」


「嫌ならいいんだぜ、俺はな」


「分かったわよ……」


 耳の先まで赤くして、不愉快な顔を隠そうともせず、ミカは服を脱いでいく。

 ボタンを外し、リボンを解き、ファスナーを開く。


 僕は――


「やめっ……」


 小さく、そう呟く。

 拳を握り込み、足が前に出た。


 それはきっと、――諦めたからだ。


「やめろ!」


 大きな声を出すと、二人の視線が僕に向く。


「ミカ、やめてくれ」


「アル……」


「なんだよゴミ野郎、お前が退学するしかねぇ程弱えぇからこんな事になってんだろうが」


 僕を見て少し驚いたエルクスだったが、直ぐにその表情は薄ら笑いに代わって、僕にそう言った。


「つか、寧ろ感謝したらどうだ?」


「黙れ。ミカ、帰るよ。僕はそんな事は頼んでない」


「黙れだ? てめぇ何勘違いしてんだよ」


 そう言ってエルクスは、僕を一撃で倒したあの火球を掌に浮かべた。


「校内での許可のない私闘は一発で退学の筈だ」


「じゃあ校長にでも言ってみろよ。最下位のお前と第五位の俺、どっちが優先されるのか馬鹿でも分かる話だがな」


「今、僕はお前に付き合ってる暇は無い」


 ミカの手を引いて、僕はその場を去ろうとする。


「なめてんじゃねえぞ最弱」


 本当にエルクスは火球を発射しやがった。

 僕へ向けて、魔力量によって約束された高威力と高速の魔法が迫る。


「アルっ!」


 僕が全力で魔力を練り上げる。

 何が第五位だ。大した努力もしていないクセに。


 僕は……


 高速詠唱、二列詠唱ダブルキャスト


「【【アクアウォール】】」


 確かに、僕の魔法はエルクスの魔法に対して貫通される様な威力しか出ない。

 しかしそれは、発動された魔法の個数が同じだった場合だ。


「これがアルの魔法……」


 ミカはそう呟きながら、僕の魔法を凝視していた。


「俺の魔法を止めやがっただと? お前調子に乗るのもいい加減に……」


 これ以上こいつとここに居ると、本当の戦闘になりかねないな。

 僕は魔法使いに一番必要な『魔力量』の面で、他の誰よりも劣っている。

 けれど、僕にだって自慢はある。


「悪いけど、君に付き合うほど僕は暇じゃないんだ」


 水霧(アクアミスト)の魔法が白い霧を発生させる。


 魔力の操作能力、そして扱える魔法の種類。

 この二項目で、僕よりも優れる人は学生の中には多分居ない。

 けれど、そんな自慢は模擬戦で魔力量が高い相手に勝てる理由にはならなかった。


 僕はミカの手を引いて、その場を後にした。



 ◆



「ごめんなさい」


 ミカが僕にそう言う。

 家に帰り着くまでの道中、僕たちの間に会話は一切なく、帰り着いて初めてミカの発した言葉がそれだった。


「あいつの言う通り僕が弱いからだ。別に謝らなくてもいいよ」


 正直、どんな言葉をミカに言えばいいのか分からない。


 なんであんなことをしたんだ。

 なんで僕を信じてくれないんだ。

 僕じゃ勝てる可能性が無いと思ってるのか。


 そんな疑問は、全て自答できる。

 現実を見れば、僕が期待されていないことなど、僕の才能や努力が足りていない事など、明白だ。


「今日は夕食要らないから」


「はい……」


 そう言い残して、僕は自分の部屋の扉を閉めた。


 ……


 あぁ、僕はどうすればいいんだよ……

 上着を脱げば、右腕に大きな火傷の痕ができていた。

 エルクスの火球によって負った傷だ。あの時、アクアウォールを二枚展開したが結局火球の一部はその二枚の壁を貫通し僕へ迫っていた。

 威力が大幅に削れていたからこそ、この程度の傷で済んでいるが直撃していたら大怪我だっただろう。


「クソ……」


 自己治癒魔法を自分の腕に発動させ、少しづつ傷を癒していく。

 僕の魔力量ではこの程度の傷を治すのにも、何度も魔法を使わなくてはならない。


 僕は弱い。

 僕は無力だ。


 自室で何度も自分に治癒の魔法を掛け続ける。

 そんな僕自身が嫌で嫌でしょうがなかった。



「そうだ。トモエに謝らなきゃ」


 いつも同じ時間にトモエとは話をしている。

 けれど、今日はもう約束の時間を過ぎている。


 ブラウン管モニターに魔力を流して、通信を開始する。

 そこには、いつもと同じ様にトモエが映っていた。


「ごめんトモエ、遅れちゃって」


『あぁ、別にいいけど……なんかあったのか?』


 僕の顔を覗き込みながら、不思議そうにトモエはそう聞いてくる。


『なんか、絶望的な顔してるんだが……』


「なんだよそれ……僕は、別に何も……」


『嘘吐くの下手くそなんだから無理すんなよ。俺は異世界人だぜ、お前の悩みを知ったところで何をしてやれる訳でもねぇが話してみろよ。逆に何もできねぇからこそ話しやすいかもしんねぇぞ?』


「そうだね。じゃあ、今日は少しだけ僕の世界の話じゃ無くて『僕の話』を聞いてくれるかい?」


『あぁ、言ってみろ』


 そうして、僕はトモエに全て話した。

 確かに彼はこっちの世界に干渉できない。だからこそ、寧ろ話しやすい相手だった。


 魔力量が絶望的に少ない事。

 そのせいで学園の試験の結果がずっとビリな事。

 後一度負けると退学させる事。

 それを憐れんで、ミカが相手の選手に八百長を申し出ていた事。


「僕は何でこんなに弱いんだろ」


 魔力量は生まれながらの物だ。

 でも、それ以外は僕は魔法に関する勉強も努力も惜しんだ事は無い。

 なのにどうして、僕は最弱なんて呼ばれているのか。


『なぁ、何が問題なんだ?』


 不思議そうな表情で、トモエは僕にそう言った。


「え?」


『あぁ、いやお前の目的は『魔法使いに成る事』なんだろ?』


「うん……」


『だったら八百長でも何でもして、卒業を目指せばいいんじゃねぇか? 対戦相手に一服盛って棄権させてもいいし、闇討ちしてもいいし、金で釣ってもいいはずだ。お前の目的が本当に魔法使いに成る事なら、それでいいはずじゃねぇか』


「でもそれはっ……!」


『あぁ、分かってる。いつだってそうだ、俺がこう言う事を言うと周りの奴は口を揃えて『人の心は無いのか』とか『人間性を疑う』とかそういう感情論をぶつけて来る。だが、大抵の奴らの願いは実際叶わない。何故なら、目的の達成よりも感情を優先するからだ』


 トモエは賢い。

 だからこそ、相手の感情に疎い。

 でも今、多分トモエは僕の境遇を自分に重ねて考えてくれている。

 自分ならどうするか。その答えが、今トモエが言った『何をしてでも卒業を目指す』という物なのだろう。


「でも僕は、トモエのような『割り切った賢者』にはなれないよ」


『いいや違うね。お前が何でそうしないか俺には分かるぞ』


「一体、何だって言うんだよ?」


『簡単だ。アルデノート・スペルディア、お前の本当の目的が魔法使いに成る事じゃ無いからだ』


「なっ、それは無いよ。僕はその為にこの街に来たんだから」


『いや、今の説明は少し足りてないな。アルが掲げてる目的は目的の中の一つだったり、あるいは通過点だったりするんじゃねぇのかって事だ? お前の願いは、魔法使いに成る事じゃ無くて、魔法使いに成って何をするかにあるんじゃねぇのか?』


 魔法使いに成って何をするか……


 僕はその言葉を聞いて、少しだけ『確かに』と思ってしまった。

 魔法使いに憧れた。それは間違いない。けれど、それが僕の人生の命題になったのは……


【君に相応しくなる為に、僕は魔法使いに成りたい】


 思い出した。

 僕は、その為に魔法使いを目指したんだ。


「確かにそうだった……ありがとうトモエ、僕は確かに魔法使いになりたかった訳じゃ無かったんだ」


『そうかよ。だったらもう一度言ってやる。自分の感情より目的の達成を優先しろ、それがお前の感情を優先する事にもなってる。そうすればお前の願いは叶うって、俺が約束してやるよ』


「トモエに何が分かるのさ…… けどありがとう」


『あぁ。それでアルの目的は結局のところなんだったんだよ?』


「それは……あぁっと……」


『おい、流石にそれは教えて貰わないと相談になんねぇだろ』


「確かに……えっと、僕はミカに相応しい人になりたかったんだ」


『あぁ、つまりそのミカって女とヤリたいって事か』


「ち、ちょっ、違うよ!」


『違うのかよ?』


「いや、違くは、無い……けど。その結婚とかなんないかな普通」


『だけど、それなら簡単だと思うぞ。学園を辞めたところでその女に惚れられるかは関係ねぇんだ。別に退学してから別の道で偉くなってプロポーズでも何でもしたらいいじゃねぇか』


「それは確かに良い案かもだけど、やっぱり僕は魔法使いとそれ以外は違うと思うんだ。魔法使いに相応しいのはやっぱり魔法使いだと思うから」


『二頭を追う物一頭も得ず、ってことわざが俺の世界にあるぜ?』


「それでも……ごめん。魔法使いとして、僕はミカに相応しくなりたい」


『ま、アルが決めたんならそれでいいけどよ。けどそれならアルは今からそのエルクズとかいう奴に勝たなきゃなんねぇ訳だ。しかもズルして勝っても認められないだろうから、正攻法でやんなきゃならないと……』


 エルク『ス』だけどね。

 いや、多分態とだな。


 しかし、トモエの言う事は尤もだ。

 結局、僕の目標が再確認できたからと言って、僕の魔力が増えた訳でも何でもない。

 エルクスに勝つには、それだけの何かが必要になるという事だ。


『その大会まであと何日だ?』


「そうだね、一月に一回の試験で一週間前が試験だったから……」


『あと三週間か……』


 少しだけ俯いた表情をトモエが浮かべる。

 トモエには僕の身の上話も結構してて、魔法戦における戦力差もなんとなくは理解してくれているだろう。

 だからこそ、今の僕の状況が最悪な事も分かるのだと思う。


『よしアル、明日から学校休め』


「学校を休めって、紛いなりにも僕が学園に居られてるのは皆勤賞ってのと筆記の方のテストの結果があるからだよ。学校を休んだらもっと……」


 もっと退学に近づくじゃないか、とそう言おうとして僕は気が付いた。


『もう次の試合で負けたら退学ってのは決まってるんだろ? じゃあ逆に次の試合までは退学しなくて済むって事じゃねぇかよ』


「確かに……」


『だったら学校なんて行く必要ねぇよ。そんな時間があるなら少しでも作戦を練った方が良いに決まってる。心配するな。実は方法は考えてある』


 トモエは嬉しそうに笑いながらそう言って、画面の外に消えて行った。

 あれ? と思っていると、直ぐにトモエは戻って来て一枚の大きな紙を広げる。


『これが何か分かるか?』


 図形がたくさん書いてある。

 文字も大量にあるけど、日本語は読めないしな。

 多分この魔道具の効果に【言語翻訳】が入ってるからトモエと僕は会話できているけど、文字に関しては適応外らしい。


「全然分かんないんだけど」


『これはな、VRデバイスの設計図だ!』


 ドヤ顔という表情で、トモエは僕にそう言った。

「面白そう!」

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1から5までもちろん正直な気持ちで構いませんので是非。

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