1話 無才の魔法使い
『私はね、夢を叶える為に必要な物は絶対に諦めない意思だと思うの』
『魔法使いに成りたい』
……そんな夢を語った僕を肯定してくれたたった一人の人。
いつからか、魔法使いに成りたいという夢には文言が追加されていた。
『君に相応しくなる為に、僕は魔法使いに成りたい』
と。
「お前みたいな落ち零れが、一体どうやって魔法使いに成るってんだぁ!?」
エルクスが僕に魔法を放つ。
巨大な火炎球が僕に迫り、それに対して僕は水球の魔法を撃つ。
属性的には僕が有利な筈の魔法同士のぶつかり合いは、水球の敗北で決着する。
理由は単純。
魔力量の差から成る、魔法の規模の差だ。
「ここはお前のいるべき場所じゃねぇ。お前だっていい加減分かってんだろ?」
火炎に包まれた僕はそのまま地面に倒れ伏す。
身体が動かず、地面から誰かがこっちに歩いて来ている振動が伝わった。
「なぁお前、さっさと俺の前から消えてくれよ」
顔に足が乗せられる。
葉巻の火を消すみたいに、エルクスは僕の顔を執拗に踏みつける。
「参った」
「ッチ……」
これは死闘では無い。
授業の一幕、ただの模擬戦だ。
僕の降参の声を聴き、彼は舌打ちを残して離れて行った。
彼は魔法学園の1年で学年5位の実力者。
名をエルクス・ヴァラディ。
対して僕は、1年の学年最下位。
アルデノート・スペルディア。
勝てるはずもない勝負だった。
この学園では定期的に実戦形式のテストが行われる。
所謂一対一のトーナメント戦で、その成績によって学園からの扱いが変わるのだ。
逆に、トーナメントで全く結果を残せない生徒は速ければ入学から半年も経たずに、退学する事になる。
そして、僕が入学して5ヵ月間で行われた実戦テストの結果、僕の戦績は零勝。
次のトーナメントでも一回戦で負ければ、僕はこの学園から除名される。
更に、僕の次の対戦相手は学年5位、今しがた惨敗したエルクスに決まっていた。
◆
家に帰り着いて、部屋の明かりを付ける。
この貸家の料金は、僕の両親が出してくれている。ただの農民でしか無いのに、父さんは冒険者の手伝いなんかをしてお金を作ってくれた。
僕が魔法使いに成ると、信じてくれたから。
「何してるんだろ……」
ぽつりと、言葉が零れる。
ベットに横になると、耳に発条式の時計の音が心地よく入って来る。
「そろそろ時間だね」
黒い箱が僕の部屋にはある。
それは結構大きくて、頑張れば僕一人くらい入れそうなサイズがあった。
骨董品屋の店主が言うには、用途不明の遺物らしい。
要らないからと捨て値で譲ってもらったのだ。
何となく気になっただけで、僕もそれの用途が分かって居た訳じゃ無い。
しかしそれは、家で魔力を流すと簡単に使う事ができた。
この黒い箱はとある人が言うには『ブラウン管モニター』というらしい。
そのとある人と話せる事が、この遺物の能力でもある。
『よっ』
魔力を流すと、彼の姿が映し出された。
黒い上着に金色のボタンが付いた服を着た彼は、僕へ気さくに話しかける。
僕もそれに返す様に手を上げた。
『元気かアル』
「あぁ、トモエも元気そうだね」
彼の名前は神崎巴、僕が唯一なんでも話す事ができる友人だ。
「今日は君がハマってるVRゲームに付いて教えてくれるんでしょ?」
『あぁ、そっちもホワイトドラゴンの生態について教えてくれよ?』
「分かってるよ」
彼は僕が住むこの世界とは異なる世界の住人だ。
魔法が存在しない科学の世界。
まぁ、彼曰く『魔法も科学の一部』らしいが、僕からすれば彼の言う科学の発明の方がよっぽど魔法的に思えた。
毎日、帰宅してから二時間程、僕と彼は談笑する。
こっちの世界の話を彼にして、彼の世界の話を僕が聞く。
その時間は楽しい。彼と気が合うというのも勿論だが、何より彼の語る知識は僕にとって未知の物ばかりで、それを聞くのは面白い。
『VR空間でそっちの魔法を再現してみたんだが、やっぱ魔力量で力量が完全に決まっちまうから面白くなかったよ』
こういう、彼のズバズバと物を言う性格も好きだ。
変に気を使わないし、だからって嫌味で言ってない事は良く分かる。
「そっか。まぁ、そうだと思ってたよ」
魔法使いの力量は『魔力量』が最も重要とされる。
魔力量は、魔法を使える回数と『威力』に関係するのだ。
つまり、同じ魔法でも魔力量が1の奴と100の奴が使うと単純計算で100倍の威力差が出てしまう。
僕の魔力は人よりも少なく、それが第五位のエルクスの魔法とぶつかれば属性的な相性有利でも撃ち負ける。
それが事実だ。
『けどよ、これって魔法の方に問題が無いか?』
彼は頭が良い。
知識が多いと言うよりは、問題を見つける感性に優れるとでも言えようか。
「それは僕も思ってる事だよ。けど魔法式を書き換えて色々と試してるけど……結局、費用対効果を良くしても純粋な魔力量が多い相手にはあんまり効果が薄かったね」
撃ち合いになれば確実に負ける。
それが僕が一度もテストで勝てない理由だ。
『なるほどな。じゃあ根本的なバトルスタイルを弄った方がいいのか?』
「そっちも考えてるけどね、でもやっぱり回避や防御の魔法を使っても魔力差で圧し潰されるまでの時間が少し伸びるだけだった」
『じゃあ、魔力量によって威力が上下するって部分を固定値にするのはどうだ?』
「うーん、それだと僕の魔力量的に直ぐに魔力切れになっちゃうだろうね」
『短期で決着させればいい』
「相手が魔力量のゴリ押しで結界魔法を展開するだけで勝てなくなるよ」
『あぁ、そうなるのか……魔法戦闘ってのも難いんだな……』
その後、いつもと同じように彼と談笑し、終わった頃には空は暗くなっていた。
……
僕の身の上を知って、それでも僕を馬鹿にするでも無く力になろうとアイデアを出してくれる。
彼は真剣に僕がテストで勝てる様にと考えてくれている。それが伝わって来る。
なのに、僕はどうだ?
そりゃ、入学してから必死に勉強した。
魔法式を読み解き再構築できるまで勉強して分かった事は、やはり魔力量で魔法使いの技量は決まるという事だった。
努力もした。魔力量は後天的に伸ばせない。
故に、僕は魔法の操作技術を磨いた。無詠唱魔法、魔法の発動速度向上、魔法の同時詠唱。全てできる様になった。それでも、誰にも勝てなかった。
心のどこかで、とっくに僕は諦めているのだ。
きっと次のテストで僕は負けてこの街を去る事になる。
実家のある村に帰って畑でも手伝っているのは容易に想像できた。
魔法を使えば、両親の仕事が少しは楽になるだろう。そんな生活も良いのかもしれない。
「クソッ……」
布団の中で、そんな声が漏れた。
僕は魔法使いになりたかったはずなのに。
どうして僕は魔法使いでも無い学生の間ですら、『最弱』などと呼ばれているのだろうか……
◆
「アル、起きてる?」
「起きてるよ」
同じ貸家で僕は一人の女の子と共同生活している。
その方が家賃が浮くし食費も色々と浮くから、という理由なのだが、彼女とはこの街に来る以前からの幼馴染というのが大きな理由だ。
勿論部屋は完全に分かれていて、話すのは食事の時くらいだ。
「朝食できたわよ」
料理上手な彼女だが、僕と同じ魔法学園に通っている同級生でもある。
まぁ、最も彼女の成績は僕とは全く違うのだけれど。
魔力量の指標として使われる魔力等級という概念がある。
平均的な魔力量が10等級と言われる中で、僕の魔力量は3等級程しかない。
対して彼女、ミカ・ユーリスの魔力量は15等級。平均の1.5倍の魔力量だ。
それで成績が低くなる事も無いだろう。
「いつもありがと」
「いいのよ、アルは頑張りどころなんだから。次の試験は絶対に勝たないとダメなんでしょ?」
「うん、そうだね」
「頑張りなさいよ。あんたが帰ったら誰が私の家を掃除するのよ」
彼女は掃除が苦手だ。
「はい。分かりました」
「よろしい。本当に……頑張りなさいよ」
真剣な眼差しで彼女は僕にそう言った。
その瞳から、僕は目を逸らした。
彼女を守れるような魔法使いに成りたいと望んだのに。
現実を見れば、僕は彼女を守る力なんて欠片も持っていない。
どうして、こんな事になってしまったのだろうか。
◆
「それじゃあ、また放課後に」
「あぁ、またね」
僕とミカはクラスが違う。
テストの結果によって変化する待遇には、どのクラスに所属するかという部分も含まれるからだ。
ミカは上から二番目の成績の生徒だけが入れるBクラス、僕は最底辺のDクラス。
正直、Dクラスの授業の内容なんて僕にとって旨味のある物は一切ない。
知っている事ばかりだからだ。
教師も真面目とは言い難く、生徒も勤勉とは言い難い。そんな環境で、流れに身を任せてしまえば落ち零れの道を真っ直ぐ進む事になるだろう。
授業の時間を利用して、僕は魔法を作る。
恐らく、既存の魔法でエルクスに勝つのは不可能だ。
新たな、画期的な、魔力量が少ない人間が多い人間に勝つための魔法が必要になる。
(何言ってんだ……そんな世紀の大発明が、ただの魔法学園生にできる訳無いだろ)
そんな事は分かって居る。
けれど、もうそんな事しか僕にはできる事が無い。
……
いつもの様に、授業を終えてミカが来るまで約束の場所で待つ。
しかし、その日はやけにミカが来るのが遅かった。
だから僕は彼女を探しに行ったのだ。
校内の裏庭、誰も通らない様なひっそりとした場所。
そこで誰かの話声が聞こえて来た。僕が間違えるはずもない。ミカの声だった。
一体、誰と話しているのだろうか。
そう思って近づくに連れて、声は読み取れる程大きくなっていく。
「次のテストで俺があのゴミに態と負けろだ? テメェふざけんなよ」
それはエルクスの声だった。
「お願い。約束を守ってくれたら私はなんだってするから……」
ミカがそう言った。
あぁそうか、結局ミカも僕の実力など信じてはいないのだ。
僕は弱い。
女の子に守って貰わないといけないくらい。
僕は誰からも期待なんてされてない。
僕は誰からも認められていない。
何か、最後の糸が切れた様な感覚だ。
僕をこの学園に縛り付けていた。ミカのためにという、最後の糸が引き千切られた。
「へぇ、何でもか……」
品定めするような、不快な声がエルクスから発される。
「だがな、その約束をお前が守ってくれるって保証がねぇだろ」
「それは……約束は守るわよ……」
「じゃあ、取り合えずお前脱げよ。そうしたらお前の言葉が本当だって信じてやる」
「面白そう!」
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