親の心子知らず
最近、執筆に必要な時間が少し増えてきました。更新が遅れてます…。申し訳ないです。
そのうちですが、更新ペースを少し落とそうと思います。無理して更新しても自分も読者さんも楽しくありませんしね。
僕は父さまの提案にすぐ答えを出すことが出来なかった。確かに今の状況では戦争に勝つことは出来ない、それだけ今騎士達は疲弊しているのだ。
だが、だからといって、はいそうですかと他国に逃げられるのか?それは否だ。
このスタンピードで戦ったのは守りたい者達がいたからだ。スタンピードで全員殺されるような事態は阻止出来たが帝国が彼女らを傷付けない保証などないのだ。
僕が居れば必ず勝てると言える程僕は自惚れていない。父さまの言う通り商隊を襲って兵糧攻めにしたり難民等に混じって都市内でテロを起こしたり重要人物を殺したり攫ったりすることは想像に難くない。
戦争とはただ戦場で兵士が殺し合うだけではないのだ。それ位僕にだってわかっている。そして僕自身もそのターゲットにされる可能性も高い。公爵家の令嬢など良い的だろう。
だが自分の身位守れる程には強くなったつもりだしいざとなればきっと人を撃つことも出来るだろう。だから何もせずただ逃げるのが嫌だった。
だが、それと同時にこれはチャンスだとも思ってしまった。これなら貴族の柵から解放されてユミルと共に一般人に紛れて生活出来るかもしれないからだ。
僕もユミルも世に出ても問題ない程には技能を磨いている。そうでなくても今、大金と生活物資、換金アイテムを大量に手に入れられることになったのだ。
これだけあれば生活が安定するまでに尽きることはないし何かの為の貯蓄としても充分だろう。冒険者としてひっそりと活動するのも悪くないかもしれない。
「父さま…友好国からは?」
僕が絞り出すように言った質問に
「友好国はほとんどが小国。この王国の戦力を当てにしている国がほとんどだ。帝国があれだけの軍勢を動かしても大した動きを見せていないのが現状だね。
おそらく多少非難することはあれど本格的に行動する所は無い。こちらに味方して多少便宜を図って貰おうと思う所も少ないだろうね。
他の大国に関しては静観の一択だろう。下手に突いて帝国や我々の反感を買いたくないだろうしね。終わってから何かしら口出ししてあわよくばおこぼれに与ろうとする方が賢いさ。」
父さまは表情を変えることなく淡々と語る。
「なら援軍は…。」
「期待出来ないね。」
嬉しくもないことを当たり前のように答えてくれる。少しは僕に配慮する気はないんだろうか…。
「なら…なら…。」
こんなことすぐ答えを出せと言われても難しいだろう。貴族の責務から逃げたいとは思っていても別にこの国が嫌いな訳ではないのだから。
僕の様子を見ていた父さまはどこか安心したような、ホッとした顔をしている。
「うん、シルフィならそうなるよね。わかっていた、わかっていたよ。優しい君がすぐに見捨てるような判断を下すとは思っていなかった。だけど時間がないんだよ、すぐに決めてくれ。」
父さまもわかってはいたんだ。迷うことを、だけど時間が無く選択肢の少ない中子供を逃してやりたいと思うのが親心だろう。
「父さま?これでお別れ?」
「私はそう簡単に死ぬ気はないよ。」
「また会える?」
「いつかきっと。」
「外国に逃げてもいつか帰って来れる?」
「しばらくは無理だろうね。だけど一生じゃないさ。」
「僕が人を撃てるって言ったら使ってくれる?」
「シルフィ…。」
それでも僕には踏ん切りがつかなかった。脳裏には何人もの知り合いの顔が現れては消える。
「僕は…僕は!」
しばらく問答を続けても答えは出ない。
「ユミル、ユミルならどうする?戦う?それとも逃げる?」
だからユミルに頼った。彼女が言ってくれれば僕はきっとその通りに動ける気がした。だから…。
「私はシルフィ様の騎士です。シルフィ様が戦うと言うのならお供します。逃げると言うのなら何処まででも共に逃げます。」
ユミルが考えることを拒否したのがショックだった。ただ従うのではなく、せめてどうしたいとか言って欲しかった。
顔をしわくちゃにしながら自分のしたいことを隠されるのが嫌だった。
父さまはそんな僕らを見て小さく息を吐く。
「やっぱり答えは出ないか…。そうだね、君達には酷なことをさせていたね。」
父さまの方が折れた、そう思えた。
その瞬間、テントに何人もの騎士が雪崩れ込んで来た。皆武装を解除していない。
「冒険者シルフィだな!我々と共に来てもらおう!」
「な⁈」
突然のことにフリーズしかけるが咄嗟に手を伸ばして来た騎士を回避してユミルを回収しようとする。だがそれは叶わなかった。
セシルさんが既にユミルを捕縛していたのだ。ナイフを首筋に当てて腕を後ろで抑えている。
「ユミル⁈」
ユミルだって近衛侍女としての訓練はちゃんと積んでいた。それもこのスタンピードで格は前とは比べ物にならない程上がっている。簡単に捕まるはずがないのだ。
咄嗟に鑑定を使用すると。
名前:セシル
種族:人種
職業:近衛侍女筆頭
状態:なし
格:43
スキル:剣術5、槍術3、棒術4、格闘術5、捕縛術5、気配感知6、悪意感知5、気配遮断5、指揮5、身体強化6、奉仕7、礼儀作法7、裁縫7、料理5、掃除5
ステータス
HP:430 MP:200 STA:B VIT:B AGI:B INT:C MID:C
称号:公爵家近衛侍女筆頭
とんでもない手練だ、戦闘スキルだけならユミルよりも上だった。それも隠密行動すら出来る、これでは相当の実力差がなければ捕まってしまうだろう。冒険者としてはBランク相当の実力だ。
その鑑定結果に動きが鈍り騎士達に捕まってしまう。振り払おうとするが思ったよりも力が強く組み伏せられる。
「がぁ⁈」
「おい!速く鎖と足枷持ってこい!魔術阻害の者も速く!」
たった数名で僕の動きを止めた騎士達に鑑定をかけると全員が近衛騎士だった。なんでこんな所に陛下直轄の騎士が!
「く!シルフィ様に触れるな!」
ユミルが暴れると奇跡的にセシルさんの拘束が解ける。当てられていたナイフを奪い取ると、近衛騎士達に斬りかかった。
騎士達は咄嗟にナイフを籠手で防ぎ弾き飛ばす。ナイフはそれだけで砕け、ユミルは数名の騎士に取り押さえられる。
「抵抗する者は斬ってよしとのご命令だ。」
騎士は剣を抜きはなった。光を反射し妖しく光る剣を携えユミルへゆっくりと近づいて行く。
「ユミル!くそっ、放せ!」
数名の騎士に肩と足腰を抑えられ上手く身動きの取れない中、剣を抜いた騎士を止めようと足掻く。ユミルも脱出しようともがいているようだが拘束から逃れられない。
ユミルの元まで辿り着いた騎士はゆっくり剣を振り上げるとそのまま振り下ろす。
「ユミル、ユミル!」
僕はその瞬間をただ眺めることしか出来なかった。剣がユミルを通り過ぎ、力の抜けたユミルはそのまま崩れ落ちた。地面へとぶつかる前に騎士達が支え直すがユミルはぴくりとも動かなくなっていた。
「ほら、やっぱり撃てなかった。」
誰かの呟く声が鮮明に聞こえた気がした。
拘束が一時的に解かれユミルの元へと向かう。だがユミルは出血などしておらず、眠っているようだった。
「シルフィ?やっぱり最後まで人が撃てなかったね?」
父さまが近づいて来る。僕は混乱する頭で必死に父さまの言った言葉の意味を考えた。
「父さま?僕を試したのかい?人が撃てるかどうかを見るために…。」
「ああ、そうだね。君が咄嗟に人を撃てるのか試してみた。実際騎士達は君達を捕縛はしても魔法の使用を制限する道具は使用していなかった。その捕縛すら魔法で身体を強化すれば抜け出せるような強さでしかなかったよ?
それにシルフィに至っては腕は自由に出来た。何故撃たかったんだい?ユミルに当たる?それまでに撃つ時間はあったはずだよ?そうじゃなくてもユミルに障壁を張るなり、最悪周りごと制圧する魔法を使えばそれでよかったじゃかいか。
だから言ったじゃないか?君に人は撃てないって。」
「そのためだけにこんなことを?」
「そんなとはなんだい?実際君が駄々をこねるだろうから用意したのに。そして撃てなかった。やっぱりシルフィ?君はこの国にいるべきじゃないんだよ。わかっておくれ?」
「…………。」
僕は何も答えられなかった。父さまがここまでして僕を試したのは僕自身のためもあるだろう。いや、ほとんど僕のためだ。
そして僕は結果を残してしまった。撃てないという結果を…。
「なら…せめて僕達の領で隠れ住めば…。」
僕の最後の足掻きに出た台詞に父さまは眉を上げた。
「シルフィ…まだ言うのかい…。」
父さまは一言小さく、この手は使いたくなかったのに。呟いた。
また数名の騎士がテントへと入って来る。鎧には豪華な装飾がされており、普通の騎士よりも階級が上だと推測出来る。
「冒険者シルフィ及びユミル。貴女らには国家反逆罪の容疑がかけられている。我々と共に来てもらう。」
騎士が出したのは陛下直筆だと思われる書類だった。位置的に細かい文字は読めないが、逮捕令状よような物だろうか…。
ユミルは担架に乗せられてその上からロープのような物で縛られた。
だが僕は特殊な鎖で縛るのと同時に、足には何か魔力の感じる足枷を、首にはフィクションで奴隷がするような何かの皮で出来ていそうな首輪をかけられる。それと同時に手錠も嵌められた。
その状態で僕らは騎士達に連行された。
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