僕は
父さまに呼ばれてまたテントまで戻って来た。前までなら僕らが通ろうとすれば馬鹿が絡んで来ることがあったが今回は遠巻きに見ているだけで特に何かされることはなかった。
この数日の間に僕が預けた武器は戻ってきている。残念ながら認識阻害の仮面は一度完全に壊れてしまっているため形こそ元に戻ったが認識阻害の力は無くなってしまっていた。
また新しく作り直せば効果を付与し直せるらしいがこれまでずっと使って来て愛着もある。そのためそのまま使い続けることにした。
それに仮面で顔の半分は隠れているため顔を隠すことは出来ているため問題も無い。印象には残り易いだろうが…。
ユミルもこの数日で持ち直してある程度精神的安定してきていた。わざわざヒラヒラのドレスを着て見せた甲斐があったというものだ。その後着せ替え人形にされたが…。いつの間に持って来てたんだか…。
テント前で門番役をしている騎士さんに確認をとってもらい中に入る。いちいち確認するのが面倒なんだがこれは必要なんだろうか…。中の父さまは僕が来たことに気づくはずだしそのまま入ればいいのに…。
そんなことを考えながらテントに入る。前に来た時と内装に特に変化はなかった。前と違うのは父さまの側にはメイドではなくセシルさんが居ること位だ…。
(なんでセシルいるんだよ…!向こうを任せて来たのに!)
叫びたいが堪える。父さまがどこまで知っているのかわならないため、下手なこと言ってセシルさんの立場を悪くしてしまっては申し訳ない。
「やぁよく来てくれたね、どうぞ座っておくれ。今お茶を入れてもらうからね。」
父さまはいつものように微笑みを浮かべて出迎えてくれる。セシルさんは特に何か言うことはせず静々とお茶を出してくれる。
「さて、来てもらった用件だがシルフィとユミルに渡される恩賞がだいたい決まってね。そのチェックのようなものだ。
今回のスタンピードで君達は軍内でも非常に高い功績を挙げている。陛下としてもそれなりの品を渡すつもりなんだが…正直なところ今は何かと不足する物が多くてね。
お金にしても渡す品にしても一部価値の近い物で用意し易い物を渡すことになってるんだ。」
そう言って父さまは羊皮紙を渡してくる。それに書いてある内容が今回の恩賞なんだろう。
内容としては
・お金
・宝石やその原石
・王国側の用意した予備の武装
・食糧
・使い捨てのボロ布から高級繊維の使われる布
・リザードマンロードの魔石や鱗
・討伐した魔獣の魔石、その一部
・マジックアイテム
etc.
それなりに項目が多かった。
まずシンプルにお金。これは僕達が討伐した魔獣達の素材の売却金や上位種の討伐報酬だ。正直思ったよりも少なくユミルも貰っているがそう大した差がない。
ユミルは自分に渡される金額や物の多さに涙目でプルプルしているが僕には少し思うことがあった。
「父さま…なんか少なくないですか…。」
正直な感想が口からポロリと出てしまう。そうユミルと大差ないのだ、渡される金額が…。それを聞いた父さまは苦笑いしながら訳を聞かせてくれた。
「確かにシルフィは多くの魔獣を討伐しているよ?だけどそれは素材の売却金と討伐報酬だ。討伐報酬はそれなりに多いだろうが売却出来る素材はほとんど無かった、ということさ。大半が消炭だからね。」
「あー…なるほど…。」
そう、討伐した魔獣の素材などほとんど残っていなかったのだ。一部防御力の高い魔獣は遺体の一部から素材が剥ぎ取れたらしいが大半は燃えない魔石か鉄や魔法金属で出来た武具の一部が回収出来ただけだった。
それに対してユミルは攻撃のほとんどが急所への的確な攻撃が多く、取れる素材の量も多かった。僕程討伐数は多くないがその素材の売却金は僕より遥かに多いのだ。その結果が大差の無い報奨金の正体だった。
「宝石や原石もあるのは硬貨だけじゃ払えないからさ。渡す資金に困ってる訳じゃないけど渡す硬化がないんじゃどうしようもないんだよ。だから価値のある宝石や原石も一緒に渡すことになってるんだ。」
「後、予備の武装や布、魔獣の素材の一部も似たような理由だね。君の倒したロードの鱗なんかはとても丈夫だし魔石もかなり貴重な物だ。飾るもよしオークションに出すもよしさ。
それ以外にもマジックアイテムも宝物庫から出して来たアイテムばかりさ。このテントと同じように内部が拡張されたテントや収納量は多くないが時間停止の能力の付いたマジックバック。離れた者と会話の出来る番のオーブなどだね。」
だがこのリストの中で妙な物が混じっている。
「父さま?確かにそのアイテムや素材はわかりますけど食糧とは?」
「あぁ、そのことか…。」
楽しげに話していた父さまの雰囲気が少し変わった。目線だけ少し彷徨わせたが、どこか言い辛そうにしながら話し出す。
「なぁ、シルフィ?もし私が国外へ移るように命じたらどうする?」
少しフワッとした質問をされる。
「それがどういう意味なのかわからないけど…期間と理由によるかな?どうしたの?一体…。」
父さまはしばらくただ口を開いては閉じることを繰り返す。父さまらしからぬ行動だ。だが結局意を決したように話始めた。
「シルフィそしてユミル、よく聞いてくれ。現在隣国である帝国がこちらへと侵攻してきている。その数はおよそ20万にも上る大軍勢だ。」
「「へ?」」
「帝国は既に辺境伯が率いた義勇軍およそ5万を敗って我々の領土を侵して来ている。ここ王都まで到着するにはまだ少し時間がかかる。君達にはその間に国外へと逃げてもらいたい。」
僕らは空いた口が塞がらなかった。やっとスタンピードが終息したと思った矢先に今度は帝国が攻めて来た聞かされても青天の霹靂だ。
「この食糧は国外へと逃げるのに必要な量をちゃんと確保してある。マジックバックはそれを運ぶのに最適だから用意してもらったんだ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
僕らを置いて話を進めようとする父さまを遮る。このまま聞いているとそのまま流されてしまいそうに思えた。
「まずなんで帝国がこんなタイミングでしかけて来たんだよ⁈今はスタンピード中で下手に僕らを攻撃すれば他国にすら被害が出るかもしれないんだよ⁈
それに父さまも父さまさ!なんで僕を逃すんだよ!これでも僕はこの軍どころか国でも有数の殲滅魔法が使える人材だよ?なんで迎撃に参加させてくれないんだよ?
ただでさえスタンピードでいっぱい人が死んだし傷ついてる人だって沢山いるんだ!20万なんて軍勢と戦おうとすれば今の国中の騎士集めても厳しいじゃないか!」
そうなのだ。何故今、帝国が攻めたきたのか知らないがこの状況で戦えば負けはほぼ必至だろう。そんな状況で僕を逃せばその負けの確率が更に上がる。そんなことは政治や戦争に疎い僕にだってわかる。
「帝国は前から使者を派遣していたそうだが我々の所に来た者は居ない。おそらくだが最初から出していないだけか魔獣に襲われたんだろう。
攻め込む理由にしてもそのスタンピードの発生の原因は我々にあり、より厳密な管理を行う必要がある。それを帝国が担うと言ってきている。」
「はぁ?なんだよそれ!スタンピードなんて何十年かに一度起こってる大災害じゃないか!ここ以外でだって何度も起きてるよ!」
「帝国にとって攻める口実になるならなんでもいいんだろうよ。いや、タイミングからすれば帝国側が何か仕込んでいたのは明白だね。そんな軍勢1週間や2週間じゃどうにもならないからね。
そしてこちらが疲弊したタイミングで侵略を開始して一気に領土をせしめようという魂胆だろう。
それと君をを逃す理由としては人を撃てると思わないからだよ。シルフィ、君は優し過ぎる。それがダメだとは言わないが人の戦争ではそれじゃダメだ。
戦争では人はだがが外れる。そこに女性なんて近づけようものならどうなるか位わかるだろう?
実際に帝国は侵攻した領土で略奪に精を出している。そんな中に君を置いておくことなんて私には出来ない。」
「甘く見ないでよ!僕だってやろうと思えば人くらい撃てるさ!魔獣にだってらあれだけ出来たんだからそれより弱い人になんて余裕で…!」
「いや無理だね、これは確実に言えるよ。それに魔獣と違って人との戦争はそう甘くないさ。
毒を入れるなり夜に紛れて寝首を掻くこと位平然とやってのける。森に隠れて商隊を襲ったりやれることは沢山あるんだ。人質をとれば我々の国民すら自分達の軍勢に組み込むことも出来る。
だからお願いだ、逃げておくれ。この戦争は勝てないんだ、貴族の令嬢なんて人質として連れて行かれてしまう。人質になれば生きていることしか保証されないんだ。そんなのは死んでいるのと変わらない。
私達は大丈夫だ、魔獣達と違ってこちらを全滅させるようなことはしてこない。そうなれば我々が死に物狂いで抵抗することがわかっているからだ。」
だから頼む、と父さまは僕に頭を下げる。
僕は…。
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