決断の時
僕は歩きながら自分を拘束しているアイテムを鑑定する。
符呪の鎖:この鎖で拘束する物は呪いの効果で身体能力を低下させられる。鎖は絶えず相手を縛り上げ継続ダメージを与える。
隷属の首飾り:契約の魔法とは関係なく相手を隷属させる。ただし主に対して命令に背いたところで罰則は与えられない。精神的に首飾りの主を君主と仰ぐ効果がある。
愚者の足枷:通常の状態では多少邪魔な程度の足枷でしかない。ただし逃走を図ろうとすると対象の魔力を吸い重さが増す。尚且つAGIを下げる効果もある。
対魔の手錠:拘束した相手の魔力を乱し魔法の使用を妨げる働きがある。手錠としての効果もある。
ガッチガチに拘束されていた。捕獲されたレアモンスターのような気分になる。それにしても一部継続ダメージが入る物もあるみたいだが僕のVITを突破出来ておらず苦しくも何ともない。他の隷属効果も認識出来る範囲では特に違和感もない。
担架で運ばれているユミルの方も鑑定を使ってみたが体力は減っておらずただ睡眠状態になっているだけだった。一安心だ…。魔法は使えなさそうだが技能そのものは妨害出来ないらしい。
本陣の中を何人もの騎士達に囲まれながら歩く。遠巻きから貴族や騎士、一部冒険者が見ている。もしかすれば誰も絡まなかったのは周りにはこの事を話しておいたのかもしれない。
中には馬鹿なことを考えそうな者も居そうだがそれらも近寄って来ない。僕の周りを囲っている騎士達が視線を向けて威嚇してくれている。
よく見れば他の騎士達も特に僕を拘束した以外は無理矢理引きずって行こうともせず、僕のペースで歩いている。少し早めればその分早く、ペースを落としてもそれに合わせる。
どうやら僕以外の者達は仕込み済みのようだ。途中試しに動きを止めて歩くのを嫌がってみたが騎士の一人が僕を抱き上げて運び出した。しかもお姫様抱っこだ…。
最初は男に抱き上げてられたと思い不快に感じたが騎士の胸部装甲が盛り上がっていることに気付く。
他の者もそうだ。皆フルフェイスをしているため分かり辛かったが女性のようだ。そう言えば話している者達の声はフルフェイスで聞き取り辛かったが高かった気がする。どうやらそんなところまで配慮されているようだ。
結局このまま降りて歩くとも言えずぼーっと僕を運ぶ騎士のフルフェイスの中を覗いていた。こんな状況でも中の人がわりと美人だったことに嬉しく思ってしまう僕はどうかしてるんだろう。
そのままより大きなテントへと運ばれて中へと通される。
中には何人もの貴族が待ち受けており、上座中央には大きな玉座のような物に座る男が一人、微妙な顔をして座っていた。他の貴族も珍妙な物を見る目で見ている。
「来たか…。」
玉座のような物に座る男は小さく呟くと姿勢を正す。それと同時に僕らを連れてきた騎士達は僕らを下ろし、ユミルを着付け薬で起こした。
ユミルは起きようとして自分が拘束されていることに気付く。顔を忙しなく動かし、僕を見つけて安堵し、僕の拘束具合を見て切なそうな顔をした。だが、周りの状況からか声を上げようとはしないようだ。
騎士達はそのまま脇に逸れると跪き、僕らを連行しに来た騎士だけが前に出た。その騎士すら女性である。男の子騎士だと動けない僕らに何をするかわからない、その為の配慮なのかもしれないがここまで気を遣わせ過ぎるとむしろ申し訳なく思えて来る。
「陛下、容疑者2名お連れいたしました。」
「うむ。」
玉座に座る男はどうやらこの国の王だったようだ。一度も見たことがなかったため分かり辛かったが確かに王者のような風格がある。そして、僕の父さまともとても似ている。
父さまより少し歳を取っているようで、綺麗だっただろう金髪には少し銀色が混じりつつあるがその佇まいと言い太々しさと言い、僕のこと以外では冷静沈着な父さまと違い、悪戯小僧がそのまま大人になったような印象を受ける。それでもこの国を絶えず繁栄させ続けているだけあり、印象よりとても有能な人なんだろう。
「容疑者2名はこのスタンピード発生の予兆を察知しそれに乗じて帝国を手引きし、国家に対して不利益を被る行動をとった。よって、この2名には国家反逆罪の適応が妥当だと考える。皆はどうか?」
陛下の声に何名もの貴族が賛成的な声を上げる。
「い、異議あり!我々はそんなことはしていません!それどころか身体を張りロードの討伐に貢献し、このスタンピードの終息に努めました!これは何かの間違いです!」
起きていた僕と違いユミルはこれが父さま達によって行われている茶番であることを知らない。ユミルの記憶は僕が捕らえられ、騎士に斬られたところで止まっているんだろう。よってこのように異論を唱えた。
「ふん…貴様らと懇意にしている大店の店員、その一人が自供したぞ?スタンピードの予兆を察知したためとある冒険者と共にその情報を帝国に売ったとな?
その店員に関しては調べてみれば親類を人質に取られていたため厳重注意と多少の罰金で許したがお前達は違うであろう?」
たとえ家族親類が人質になっていようが国家に背く行動を取ればそれは国家反逆罪等に問われ、一族郎党残らず首が飛ぶだろう。注意と罰金で済むわけがない。だが、焦っているユミルはそんなことには気付かない。
「そ、それが間違いだと言うんです!私達はそんな情報を察知していなかった!召集がかかったことで初めてスタンピードを知ったんです!私達は無実です!」
「ふん、もう事実の追求は終わっている。お前たちに言い逃れの余地はない。よって、冒険者シルフィ、並びに冒険者ユミルを国家反逆罪の罪により国外追放の刑に処する。明日には荷物を纏めて、出て行くことだ。」
「な⁈」
国家反逆罪は基本死刑だ。これは例え僕らが高位の貴族であろうと必ず施行される。国外追放にすらならないだろう。僕もユミルも現状は貴族籍を持っていない冒険者としてここに居ることになっている。やはり刑が軽過ぎる。
「ところで公爵?其方の子供の中に銀髪で背の低いシルフィとか言う娘は居らなんだかな?」
陛下はいつのまにかこの茶番席に参加していた父さまにニヤニヤしながら話しかける。
「いいえ、知りませんね。私には残念ながら娘も息子もおりません。妻に先立たれてからは特に女性とも関係を持っておりませんので、この歳の子供など居りませんね。」
つまり僕の戸籍は既に公爵家から抹消されているんだろう。国家反逆罪で共に処刑されたくなければそうやって存在を抹消することで罪をかわそうとする者もいるそうだ。
「ほぉ…。そうなのか、なら早く次を娶って子供を作れよ。こちとらお前の子供が早く仕えてくれないか首長くしてんだぞ?」
「知りませんね、私が愛するのは後にも先にも我妻1人だけです。」
「つれないねぇ…。おっと、無駄話してる場合じゃねぇや。うぉっほん。今回のスタンピードで出した恩賞の返却は要求しない。罪人とは言えこの国の未来を一時的にでも守ったお前たちへの唯一の配慮だ。連れて行け。」
「ハッ!」
端で待機していた騎士達がまた集まり僕らを連行する。ユミルは担架を下され自分の足で歩いている、僕はと言うとまた頼んでもないのにお姫様抱っこで運ばれた。
次に移動させられたのは物資の集積場だった。そこには数名の騎士達が小箱をいくつも用意しては中に様々な物を詰めていた。
「たくよー、何だって俺らが罪人の荷物整理しなきゃなんねぇんだよぉ。」
「しゃーねぇだろ?俺ら下っ端なんだからよぉ。こんな雑用も何でもやらなきゃなんねぇんだよ!ほら、サボってないで早くやらないと日が暮れるぞ!」
「もうてきとうでよくないか?」
下っ端騎士なんだろう、愚痴を言い合いながらテキパキ作業していた。だが、口が悪い割には随分丁寧に必要な物を詰め込んでいっている。
「なぁ、こいつらって確か何本も魔剣やらなんやら持ってるて言ってたし武器とか必要なくね?替わりに石でも入れとくか?」
「それありー。じゃあ、この長剣の替わりにこれいれとけよ。」
彼らはわざと周りに聞こえる声で作業している。騎士は僕らが予備の武装を持っていることを知っているのか要らない武器よりポケットから取り出した宝石の原石などを詰めている。
「あーあ、なんで国外追放されるやつにこんなに物資を回すんだろうねぇ、俺には理解出来んわ。」
「そんな奴らでも俺らの国一時的に救った英雄なんだろう?だったらこうやって太っ腹な所見せないとダメなんだろ。」
騎士達は軽口を叩くも全ての物資に不備がないか確認して回っている。彼らの装備は見習いのためか随分緩めのボロそうな服装をしていたがよく見れば彼らはロード戦で共に戦った騎士団の団員の人だった。服装はそういうアレンジなんだろう。
周りを見渡しても何人もの見知った人達が近くで作業している風を装いながら周りを警戒している。
「シルフィ様、これは一体?私達は国家反逆罪で国外追放なんかに?」
ユミルは未だに状況が飲み込めていないようだ。
「父さま達が用意した茶番なんだろうね…。ここまでして僕らを国外に流したいみたい。」
「え?ではさっきの裁判は…。」
「最初から全部決まってたんだろうね。でも刑の効力は本物だよ、これには従わないと僕らは王国に追われちゃうね…。それでも僕が従うのかは微妙な気がするけど…。」
騎士さんに未だに抱っこされたままユミルの質問に答える。騎士さんは何故か僕を下さない、もしかしたら符呪の鎖の影響で弱っていると思ってるんじゃないだろうか…。
ユミルは僕の疲れたような笑み…というか実際疲れたし随分苦い笑みを浮かべているだろう笑みを見て顔を曇らせる。僕が結局答えを出さずにいた結果が陛下すら巻き込んでのこの騒動。正直、色々疲れた。
日が暮れる頃にはマジックバックに荷物を仕舞い終えてテントへと連行された。
結局僕らは皆を救った気になって大人達に守られていただけだった。僕らの旅立ちは近い。
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