総力戦
ここからクライマックスですね!はやくイチャイチャさせろや…。と思っている方々には悪いですが、もう少しお付き合いいただけると幸いです!
「補給はどうなっている!ポーションの残量は⁈」
「おい、武装メンテさせてたやつは何処だ?纏めて持ってくんな!出来たやつから逐一持ってこい!」
「部隊編成はどうなってる⁈戦えるやつは怪我してても引っ張ってこい!手が足りねぇぞ!」
本陣ではハチの巣を突いたような騒ぎになっていた。それはそうだ、スタンピードで発生した魔獣達をやっとのことで大半を処理出来たと思っていた矢先に前よりも更に多い魔獣が発生したのだから。
貴族達も集まり会議を開くがこちらでも対応で荒れることになる。会議には戦死しなかった貴族の全てが集まった。誰一人逃げ出さないのは逃げてもどうにもならないとわかっているからか…。
「あんな数を相手するには兵力が足らんぞ⁈あれでは半包囲することすらままならないではないか⁈」
「今はそんな愚痴よりもこれからどうするか話し合わねばならないのだから案を出せ!」
「戦う以外に選択肢なぞなかろう⁈再招集を陛下がかけていて下さった!もう少しすれば各地から更に戦力が集まる!総力戦をするしかあるまい⁈」
「相手より多少多い戦力ではスタンピードはどうにも出来んぞ⁈それにあの装備はなんだ⁈どうやって用意して来たんだ⁈」
ただ作戦会議と称しているが今ここに居る者達の選択次第でこの国を未来が決まる。数万もの魔獣に包囲されれば王都ですら危ない中十万にも達する軍勢などどうすればいいのか…。
「ひたすら相手の歩に合わせて下がれる所まで後退。その間は弓や投石、魔法で応戦。下がれる限界は王都付近までだ。そこまで後退すれば後は援軍と共に打って出るしかあるまい?」
その発言にまた会議場が騒然とする。だがその荒れ方は驚愕や驚きといった感情による物だ。
「陛下!何故ここへ⁈」
「何故だと?この国一大事におめおめと王都に引っ込んでいられるものか。私もこの戦に参戦させてもらおう。」
討伐軍が布陣している場所は王都からそう離れていない。朝、連絡用マジックアイテムを使い報告を受ければ地龍を走らせるかワイバーンなどの騎獣を使えば今到着出来ないことはないがそれでも国王本人がこんな所に来るとは思わないだろう。
「近衛隊を連れて来たが既に馬で援軍の報せは走らせた。近くの領は全軍出すだろう。戦力の逐次投入など下策だが徐々に人は集まるはずだ。負傷した者達には悪いがここにいる全ての者に戦ってもらう。覚悟してくれ。
更に宝物庫を開き中の物をありったけ持って来た。この国どころか下手をすれば周辺諸国すら存亡の危機だ。有益な物を選び出し、好きに使うといい。
さぁ、わかったら行動に移せ!この戦、必ず勝利を掴んでみせようぞ!」
「「「「御意に!」」」」
貴族達は国王が持って来た数々の国宝を持ちそれぞれその武具、道具を使うに相応しい者達に貸し出していった。
それからは戦と呼ぶにはあまりに弱腰な戦いが始まる。討伐軍は敵の進撃に合わせて後退を開始し、今ある投擲具や矢、魔法を消耗も考えずに放ち続けた。これが人、国家間同士であるなら国の威厳や体裁が地に落ちるような戦い方ではあるが相手は魔獣、とにかく減らすことが優先された。
勿論、魔獣達も黙ってそれを続けるつもりはない。一部足の速い騎獣隊が迫って来たりウィザードやアーチャー隊が遠距離攻撃を開始した。
だがそれだけなら対処するのは容易かった。騎獣隊は矢や魔法で迎撃し、長槍隊による槍衾でまともに機能せず、アーチャーの攻撃では騎士の鎧も冒険者の防御もほぼ突破出来ず、魔法攻撃は同じく魔法による迎撃で大半が無力化された。
勿論全てを無力化することは出来ず、多少の死傷者は出たがそれでも討伐軍の損耗は魔獣軍に比べれば軽微だった。それもそのはず、弓も投擲具も人間が使う物の方が優れているためだ。
魔法に至っては魔術師の数が違った。魔術師の数は確かに互いに少なくはあるが魔獣達には魔法の使える個体は極端に少ないのだ。討伐軍の半分以下しかおらず使える種類も威力もマチマチでこちらの放った魔法も半分以上迎撃出来ない状況だった。
そしてそれ以上に最も戦果を発揮したのは…。
「インフェルノ!」
シルフィの攻撃魔法だった。敵はこの攻撃をモロに受け続けその数を減らしていった。シルフィ一人の戦果とそれ以外による戦果がほぼ同等なのだからその戦術的価値は計り知れない。
だが後退出来たのは僅か一日間だけだった。それ以上下がれば王都へと到達しかねない。シルフィも撃てたインフェルノの数は三発だけだった。だがそれによっておよそ一万にも及ぶ魔獣が蒸発した。遠距離攻撃隊と合わせて二万近い魔獣の討伐に成功し、尚且つ援軍が到着した討伐軍の兵力は十万を超える兵力を有した。
side.討伐軍内
「やつら、随分長々と行軍続けるが…食糧やら物資やらどうしてるのかねぇ…。俺らみたいな輜重隊はいなさそうだが…。まさか、他の場所から略奪なんて…。」
魔獣達と睨み合いながら後退を続けている冒険者の一人が嫌そうに呟いた。
「いや、それは無いだろう。包囲こそ出来てないがまだ遊撃隊は出てるみたいだし、多少離反するようなやつらがいたとしても彼らが討伐してくれる。」
近くで話を聞いていた騎士の一人が同じく魔獣達を睨みながら呟きに答える。
「なら奴らは飲まず食わずで追いすがって来てんのか?」
「いや、よく見てみろよあいつら。食ってやがる。」
「は?」
騎士が今も尚定期的に放たれる魔法や矢で傷付き死んでいく魔獣達を指差す。冒険者はその方向をじっと見ると妙な声を出した。そう、食っているのだ、死んだ仲間たちを…。
「おいおい、まさかやつらああやって食糧補充してやがんのか?なら、もしかして度々夜に死体が消えたってのは…。」
それを見て嫌そうな顔を隠しもしない冒険者が声を上げると。
「やつらの仕業だろうな。夜は光魔法や松明の光だけではちゃんと見えないからな。放置した死体を夜に回収して食ってやがったんだろうな…。」
ゴブリンは夜目が効くしコボルトやオークは鼻が効く。キングやロードが統率してるのならそれ位のことはやってのけるだろう。
実際、最初に集められた四万にも及ぶ魔獣達は彼らにとっては食糧程度にしか考えられていない、例えるなら奴隷のような存在だった。
彼らは統率者達からすれば捨て駒程度の存在であり最初から全滅させられることを前提に送り込まれていた。そのためまともな武器や防具も付けず、撤退するタイミングもかなり遅かった。
食糧として殺すのなら敵にぶつけて殺された方が疲れないし多少相手からも食糧を集められないかと思われた結果がただの突撃と別働隊による街の襲撃だった。連れ去られた女性達は食糧以外の使い方もされたが…。
唯一、魔獣達にとっての誤算だったのは特に肉の美味いオークや多少食べられる所の多いリザードマンを先に回収され、人の遺体に至っては最後の突撃の時位しか回収できなかったことだ…。
「死体の見張りなんてしてなかったからな…。無いならないで困る訳でもなかったし…。だが、俺たちが放置した仲間の死体もやつらの腹に収まったなんて考えるとやるせないな…。」
「くそっ!こうやってる間もやつらむしろ腹が満たされてご満悦ってか!」
魔獣達の異常ともとれる行動を見ている前線の冒険者や騎士達はこうして士気を上げていった。開戦されるそのときをじっと待ちながら。
side.シルフィ達
シルフィはその間もお気に入りの娼婦達の元へと通い彼女らの保護に努めていた。軍が下がる決定を下した時に置いていかれそうになったためだ。これから国の存亡すら賭ける戦いがあるのに勝手に集まった彼女らをいちいち気にしていられなかったのだ。
シルフィの父からも人手を借りて彼女らを保護し、近づく馬鹿共と魔獣を蹴散らし続けたシルフィは徐々に限界に達しつつあった。
守りたい者達がいる元男として、そしてこの国の貴族の一人として戦いに参加したがそれでも疲労と心労は彼(彼女)を蝕んでいた。軍の訓練など受けていないのだから仕方ない。
またこのスタンピードに乗じてここから逃げ出そうとも考えていたため、それが出来ず、見捨てる決断も出来ないことも心労の原因になっていた。
そして後退するのも限界に達するとシルフィは彼女らを王都へと逃すと行動に出た。
討伐軍を悩ませた死体消失の謎はこうだった!まぁ、予想してた方は多かったのではないでしょうか…。
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