スタンピード先鋒軍
最近暑くないですか?作者は急激な気温の差に弱いです、皆さんは体調大丈夫でしょうか…_:(´ཀ`」 ∠):
魑魅魍魎、いや百鬼夜行だろうか?正しい表現などわからない。ただ迫ってくる魔獣達を見ているとそんな表現が似合うんだろう。そんなことをぼんやり考えながら地平線を埋め尽くす程の数で迫ってくる魔獣達を眺めていた。
これはゲームじゃなく現実だ。生まれ変わってからおよそ十三年、このファンタジー世界でそんなことは嫌というほど学んできた。
魔法に貴族に魔獣に、そんな前世ではフィクションか過去にあった制度でしかない物がむしろありふれたこの世界、最初はただ興奮した。
ファンタジー小説など読んでいれば誰でも憧れるような状況だったろう。前世ではろくなことも出来ずただ病弱だった僕は特に魔法でなんでも出来る世界に憧れた。
女に生まれたことは少しガッカリしたが、この歳まで生きればもう馴染んだ。トイレだったり、下着だったり前世と違う部分は今でも少し不慣れだが…。
色んなことをした、色んな人に出会った。魔法を使ったり剣に触れた。調理実習以外で初めて料理をした。前世では出来ない程走ったり動いたりしたし野営も経験した。守りたいと思える人達にも出会ったし、初めて恋もした。
ここから逃げ出せず、貴族としての義務を果たす時が来るんだとしても幸せな日々が続くのなら我慢出来るかもしれないと考える時もあった。だからそんな幸せな日々を壊そうとする存在が許せなかった。だから今僕はここに居るんだ。
今回は本陣の他に右翼と左翼の三つで陣を敷いて半包囲する形で迎え撃つことになっている。本陣には精鋭の重装歩兵やタンク役が多く、交代や回復要員が最も多い。ここが敵の突撃を受け止めるのだから当然だろう。
右翼と左翼は足の早い者や冒険者などの自己判断の出来る者が多く配置されている。敵に逃げられれば半包囲する意味がないからだ。出来るなら完全に囲みたいがそんなことをすれば薄くなった場所から食い破られるだろう。数では勝っていても侮れる相手ではない。
死を恐れず猛進して来る魔獣達に多少の恐怖を感じないこともないが、後ろに好きな人がいる以上は情けない姿など見せられない。置いて行こうとしてもついて来るんだろうし仕方ない。
それにもっとも怖いのは最前列の人達だろう。受け止めきれなければその場で殺されるのだから。体制を崩せばそこから押し切られるし地面に倒れればあっという間に踏み潰される。
多少覚悟を決めている僕でも最前列で敵を受け止めるような胆力などありはしない。そんなこと出来るのは物語の勇者か今最前列に居る国や家族の為に命を張れる人達だけだろう。
観てみても精鋭と呼ばれる人達でも格は二十後半が最高で三十過ぎているのは叩き上げであろう将軍クラスとBランク以上の冒険者位だった。ざっと観た限り僕よりステータスや格が上の者が居ない。
本当なら僕が最前線で戦う方が犠牲を少なく出来るんだろうがそんな踏ん切りはつかない。だけどただ犠牲を許容出来る程僕の心は弱くない。
「ユミル、少し行って来るよ。」
「へ?シルフィ様どこへ…ちょっ!」
僕は靴に魔力を込めてまた空へと上がる。何人もの人から視線を感じるが気にしていられない。それにそこまで上に上がる気もない。高台に上がりたかったが無いからやっただけだ。うん、スカート履いてなくて正解だね。
後方では弓隊や魔法隊が忙しなく準備しているだろうがここからでも見えない。一体どれ程遠いんだろう。それに凄い人数だ。
(でも…一体何人位帰れるんだろうね?)
情報では既に他の都市から追加で援軍が出発しているそうだがもう間に合わないだろう。たとえ到着出来ても大体のことが終わっている筈だ。
僕は一度頭の中を真っ白にすると魔術の構築を開始する。勿論使うのは僕の十八番であるインフェルノ。正確な魔力の消費量や格の上昇による魔力最大量の増加はだいたいしかわからないが一発なら余裕で放てる。
敵はまだまだ先に居るが射程重視にしなくてもなんとか届く距離だ。味方の支援攻撃が始まるのはまたまだ先だが相手の勢いを挫いたり士気に多少影響を与えることは出来るだろう。
独断専行な気がするがまだ防御も何も考えていない状態なら被害は確実に増えるだろう。それに派手な攻撃を見れば味方も鼓舞出来る筈だ。たぶん、きっと…。
「さてさて、それじゃあ景気良くいこうか!インフェルノ!」
一昨日と同じ、いやそれ以上の威力の魔法が発動した。人や動物は太陽が落ちてきたら一体何を思うんだろうか。突然何を言うんだって?いや、僕が聞きたいよ…。
轟音と共にその場へと出現した小さな太陽は容赦なくそこにある全てを焼いていく。前回と違い、すぐ近くに居た魔獣達は燃えない物を残して灰へと姿を変えて断末魔すらあげずに生き絶えた。
効果範囲より外に居てもそこは灼熱地獄、すぐ肌と内臓を焼かれて死んでいく。上位個体の中にはメイジやプリーストも混じっており、そのクラスになると多少魔法に対する抵抗力が上がっている。
だが、インフェルノのはそんなことは知らないとばかりに次々と生きとし生ける者を焼いていった。前回より範囲と威力は格段に上がっておりその被害は倍以上に及んだ。
インフェルノ自体長々と力を発揮する魔法がではなく発動していた時間は十秒もなかっただろう。だがそれだけの時間に死滅した魔獣の数はおよそ二千にも上った。熱による被害も含めれば更に千は数が増えるだろう。たった一人によって出した被害としては歴史に名を残すかもしれないような戦果だった。
魔獣達はその行軍によって出していた騒音を止め、味方側も前回より更に威力の高い魔法に呆けてしまった。魔法を使った張本人も唖然としていたが…。
だが流石は将軍クラス、すぐに兵を掌握して作業を再開させる者が現れる。それに伴い至る所から歓声が上がった。
あれを敵が使ったなら士気は立て直すことが困難な程に落ちてしまっただろうが味方が放ったとなればそれは希望になるだろう。勿論中にはそんな人間が居るのかと畏怖の念を向ける者も居たが。
「あれー、随分と威力が上がったなぁ…。それにやっぱり身体に違和感…。」
前回よりも更に被害を出したインフェルノによってもたらされる経験値によって格が上がったんだろう、前回程ではないにしても内側から作り変えられるような感覚に襲われる。
魔力は配給として配られたポーションを飲んで回復させる。残念ながら一本飲んだ程度では大した量が回復しなかったが。
僕はすぐに地面へと下りる。変な気を起こす馬鹿が居るかもしれないためずっと姿を晒している気はない。ユミルの元へと戻った。
「シルフィ様、あれは一体…。それにお身体は大丈夫でしょうか?」
地上に居たユミルからでも見えたのか少し震えながらユミルが聞いてくる。
「僕が聞きたい位だね。まさかあそこまで威力が上がってるとは思わなかったよ。あ、身体の方は問題ないよ。ポーションも飲んだし魔力も回復するさ。」
「わからないのですか…。ですがシルフィ様に何もないなら良いのですが…。」
将軍達は大声で兵に声をかけて統制を取り戻しつつある。更に兵士達も敵が減り勢いもなくなった魔獣達に対して恐怖心が少し減ったのか士気が上がりつつあった。
「うん、これで少しは被害が少なくなるかな。」
「えぇ、あれだけ被害が出れば味方の死者は減るでしょうね。ですが、シルフィ様を狙う輩が増えてしまったかと…。」
「まぁ、こんな非常時に馬鹿なことしでかすようなやつはいないでしょ?居たとしても無視するしね。今は戦争中なんだから。」
実際、魔獣達は一度動きを止めてしまったようだが既に行軍を再開したようだ。重装歩兵隊の動きが変わってきた。まぁ、インフェルノを撃った地点は焦土と化しているためそこは迂回しなければ通れない。そのため相手の動き先程よりも緩やかになっている。
それでも所詮は魔獣。あれを撃たれても警戒すらしていないのかまた地響きが聞こえてくる。また撃たれると思わないんだろうか。それともただキングクラスの頭が悪いのか…。
それでも勢いよく突っ込まれるより遥かにマシな状況で戦闘を始められる。もう一発撃とうと思えば撃てるが流石次は魔力が枯渇するだろうし敵も近くなってきている。撃つとしても次は敵が撤退していった時だろう。
周りの冒険者や兵士から称賛と共に勧誘の言葉を貰いながら次の作戦を待つ。すると将軍の声が聞こえ始める。
「重装歩兵隊!盾を構えろ!声を出せ!敵は目と鼻の先だ!我らは先陣を切る名誉を与えられた!魔獣ごときにおくれをとるなよ!先程の魔法で敵は大きく疲弊している!叩き潰してやれ!全軍前進!」
「オオォォォー!」
遂に本隊の重装歩兵隊が動き出した。それと同時に後方から弓と魔法が降り注ぎ魔獣達にダメージを与えていく。前回と同じく火魔法と風魔法が中心のようだ。
後方からの支援を受けて重装歩兵隊は敵と接触する。
軽いゴブリン達の攻撃は盾と鎧の前には意味をなさず俊敏性が高いコボルト達は走り回れるスペースが無く歩兵達に切り倒される。敵前衛は明らかに勢いがなく僕のインフェルノによる先制攻撃は効果があったようだ。
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