決断
「これから私は王命に従い騎士団と冒険者を率いて王都へ向かう。ユミル、シルフィのことを頼んだよ?」
父様はそう言い残して部隊の編成のため出かけていった。
「スタンピードか…まさか本当に起こるとはね…。」
「旦那様は大丈夫でしょうか?」
「どうなんだろうね…。王都からそこまで離れてないとはいえ父様…かなりの兵力を動員するみたいだし。もしかしたら今回のはかなり大きいのかもしれないね。」
「かなり動員と言っても兵農分離の進んでいる今では動員できる兵数はかなり限られると思うんですが…。それも、守りのために半数近く置いていくと…。」
「一応Dランク以上の冒険者も募集するみたいだしその分多少数は増えると思うけど…。」
僕らは今回のスタンピードの規模を知らない。過去の規模だと多い時は2〜3万近い魔獣が発生したらしいがそれよりも多いのか否か…。
「少し情報が欲しいところだね」
「旦那様はシルフィ様に動いて欲しくはなさそうでしたが…。」
「ユミル、僕と父様は貴族だ。民から税を取りその税で生きている。そのかわり貴族は争いの最前線に立つ義務がある。僕もみんなからの税で生かされてきた。僕にも戦う義務がある。」
「シ、シルフィ様…ですが…。」
「ふふ、そんなに心配しないでよ。別に最前線で戦うような気はないし。もしかしたらどさくさに紛れて脱出できるかもしれない。ね?悪いことだけじゃないのさ。」
王命により戦力を集める命令が出ている以上、戦う力の有る者は参加すべきだ。王都や周辺都市は常駐騎士や冒険者を集めれば万に届く兵力を出せる筈なのだ。それでも他都市から援軍を要請している以上何かあるんだろう。
Dランク冒険者であり学園に通いながらも魔術の勉強を続けて来た僕達はある程度戦力になる。救護班に周り回復魔法を使うだけでも役に立つ筈だ。
僕にだって守りたいと思う者は出来た。この街や王都では孤児院のちみっ子達と遊んだことがある。あの子達は僕をいつも笑顔にしてくれた。
王都ギルドの受付嬢さんにはそれなりに良くしてもらった。より経験を積みやすくそれでいてより安全なクエストをわざわざ探してくれたりしたのだ。
後輩ちゃん達も居るし、死ぬ必要があるとは思っていないやつらもクラスにはそれなりに居る。優しくしてくれた人達の場所を壊される訳にはいかないんだ。
勿論、そのどさくさに紛れて逃げられるのならそれに越したことはないしね。後付けのようだがこれも大事なことだ。
「ユミルは別に付き合わなくてもいいんだよ?あくまで僕がやる必要があると思うからやるだけ、もし僕が脱出できたのなら後から合流すればいいんだしね。」
「いえ、シルフィ様が行かれるのなら私も付いて行きます。私はシルフィ様を守る騎士ですから。」
「君は相変わらず嬉しいことを言ってくれるなぁ。」
僕はユミルを巻き込んでベットへと倒れる。別に致す訳ではないただ甘えるだけだ。致せたことなんてまだ無いけど…。
ベットに二人で寝転びながら今後について話し合う。時々頬ずりしたりと甘えながらではあったが。ユミルは相変わらず可愛いなぁ。(現実逃避気味。)
どうすればスタンピード対策軍(勝手に命名)に参加出来るかについてはお屋敷から抜け出してしまえばどうにでもなる。
その後は従軍しながら情報収集する。相手の規模によっては流石にどうするのか考える必要はあるしね。貴族の務めだとか言いはしたが僕だって命は惜しいしユミルの命も大切だ。やれることはやるだけどやれないことはやらない。
「まずはお屋敷から脱出する必要がありますが…。」
それが最初の問題だろう。父様は守備軍の指揮に関しては他の信用できる者に託しはしたが、父様の居ない間の最高責任者は僕になる。
勿論僕に軍を指揮するような能力など前世の戦略ゲームかボードゲームでやった程度で素人同然。指揮は他人に任せるしかない。僕、居る意味あるのかわからない。
だが、お飾りでも必要な役職なのだ。どうしたものかね…。
「ねぇ、セシルさん。どうしたらいいと思う?」
僕はお屋敷に帰って来てからただ無言で背景に溶け込んでいたセシルさんに問いかける。イチャイチャ中は消えるのにいつの間にか居るのだ。最早近衛じゃなくてくノ一では…?
「シルフィ様のやりたいようにやられるのが一番かと…。旦那様が居ない以上、次の最高責任者はシルフィ様です。今このお屋敷にシルフィ様の行動を止める者も指示を拒否する権利の有る者もおりません。」
「それは一応建前であって意見は言えるし行動を咎める人は居るんだけどね…。まぁ、最終決定権が僕に有るのは変わらないか…。教えてしまっていいのかい?」
「私の忠誠は旦那様ではなくシルフィ様に置いております故。私の応えられる範囲でなら幾らでもお申し付けください。」
数年ぶりなのにセシルさんは相変わらずのようだ。それはそれで助かるんだけどね…。僕はベットから起き上がると行動に出る。
「シルフィ様、少しユミルをお借りしてもよろしいでしょうか?すぐ合流させますので。」
「ん?まぁ、それは構わないけど…。ユミル、後で合流しよう。」
「はい。」
結果から言うとお屋敷からの脱出は上手く行った。指揮を任された騎士さんは確かに渋ったが結局は了承してくれた。
昔から騎士さんやメイドさん達とはそれなりに仲良くしていたためか彼らは僕に強く言えないのだ。それに僕は何か悪いことをしに行く訳ではないのだ。
僕の庶民意識が強かったため傅かれるのに慣れていなかったので愛想良くしていたのが良かったのかもしれない。
僕が騎士さんと交渉している間、ユミルがセシルさんに呼び出されていたのは気になるが上手く行ってよかったよ。
僕はユミルと合流次第冒険者衣装に着替えて街へと繰り出す。早く行かないと募集が締め切られてしまいかねないためだ。
「ありがとう、セシルさんにみんな。行ってきます!」
「はい。シルフィ様、お気をつけて行ってらっしゃいませ。ユミルも、シルフィ様のことは任せましたよ。」
「はい、セシル様。行ってまいります。」
帰宅したときはそこまでゆっくり見ていられなかったが街の様子はさほど変わっていなかった。あえて言うなら父様が冒険者に招集をかけたことが話題になっていること位だ。
「とりあえず今はギルドに行かないとね。本当は少し見て回りたいけど…。」
「随分と慌ただしい帰宅になったものですね。帰宅直後に家出してますが…。」
「ふふ、ユミルも言うようになったね。」
そんな会話をしながら僕らは街のギルドへと到着する。この町のギルドは初めて入ったが王都のギルドと大して差はなかった。街の規模が少し小さいためか少し建物が小さいような印象があった位だ。
僕は早足で受付に並ぶ。依頼が掲載されたのかその話題で冒険者達も持ちきりのようだ。並ぶ冒険者達は名が売れるかもと勇んで受注しているようだ。
受付嬢さん達はてんやわんやでクエストの受付をしている。新人ちゃんなのか若い受付嬢が涙目で受付をしていた。一番列が短いためそこに並ぶ。
「領主様が招集をかけた依頼があると思うんだけど。それを受注したいんですが。」
僕の番になったため他の冒険者が言っていたようなことを真似て言う。
「は、はい!スタンピードに対応するため冒険者の方々に招集がかかっていますです!ランクD以上の冒険者が対象となっておりますが大丈夫でしょうか⁈」
この子はずっとこんな調子なんだろうか…。忙しくなったせいでキャパオーバー気味なのか色々切羽詰まったようになっている。少し可哀想に思えてくる。
「あぁ、大丈夫だよ。これでも二人ともランクDの冒険者だ。元々他の街で活動してたんだけどたまたまこの街に寄ったらこのクエストを見つけてね。この国で活動してる以上は見逃すのは無理な内容だったからね。参加させてもらうよ。」
「は、はい!よろしくお願いしますです!報酬は出陣時から一日銀貨一枚。従軍中の食事や武装のメンテ代は領主様が負担してくれるです!」
「了解。それで構わないよ。」
「はい!登録完了しましたです!後、回復や攻撃魔法の使える方は優遇されるようになってるです!女の子なんですから前に出るより後方で活躍して欲しいです!」
「おや、心配してくれるのかい?ありがとう。じゃあ回復魔法使えるし後方担当に志願しておこうかな。」
「了解いたしましたです!私は戦う力なんてないから…この国をよろしくお願いするです!」
余裕が無いのに女の子二人の僕らに気を使ってくれたようだ。お願いされた以上は任されよう。
「あぁ、そうだね。出来る限り頑張ってくるよ。」
こうして僕らもスタンピードの対応作戦に参加が決まった。
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