閑話 現在の裏事情
「──電圧チェック……油圧チェック……温度チェック……離脱シートチェック……」
城山棺奈はそう呟きながら、淡々と地球制圧に使うパワースーツの最終確認を行っていた。
「魔力圧チェック……次元誘導拡散シールドチェック……」
スーツの中で、さらに複数の起動確認を終了させると、私はそれを、腕に取り付けている簡易デバイスに収納した。
(後は、これを複製してそれから……)
それから、魔界の人型兵士に普及して、操作訓練。
翌々月に、ここ月面基地から地球へと強襲をかける。
死んだ魚のような目をしながら、私は無言で、着々と仕事をこなす。
──慣れって、本当に怖いものだと私は思う。
今まで散々抗って抗って抗いまくって。
その度に心臓の鼓動を早められるという刑罰を食らって。
死にそうになって、無力感を味あわされて。
抗っても無意味だと、恐怖と共に学習させられた。
そしてそれがいつしか普通になってしまった。
慣れてしまった。
本当に、生物の順応というものには、畏怖を感じるくらい恐ろしい。
今はもういない、私を唯一助けに来た彼を想いながら、私はその首についた枷に手を触れた。
いつからだろうか。
これが鬱陶しいと感じなくなったのは。
魔王直属の奴隷であることから、周囲の貴族らから悪い対応は受けなくなった。
受けなくなった、というのは、あの魔王が私を指揮官に任命したその後の話だ。
それまではただの汚い、ちょっと珍しい色をしている人間の奴隷という扱いだけだった。
かといって、奴隷という身分が変わるということはないのだが。
私は、ヴァールを発動させると、そのデバイスを複製した。
いつか、誰かが自分を助けに来てくれるのではないかという望みさえ、全てを棄てて。
砂埃さえ舞うことのない荒野。
そこに道と呼べるものは、辛うじて建っている道案内の看板と、申し訳程度の整地によるものだけ。
もう何日経っただろうか。
こんな荒れた土地では馬さえ走ることはない道を、ただひたすらに、まっすぐと歩くだけ。
エクサクムは痛い足首を擦りながら、必死に目の前を行くレイジーを追いかけた。
「エクサクム、もうすぐ次の村が見えるはずだ。そこで少し休憩をとろう」
ふと聞こえてくる主人の提案に、こくこくと首肯する。
暫くすると、道が二つに別れている地点があった。
そしてそこには、一人の老人が腰を下ろしている。
(ディンゴリアンだ……)
獣人の村にも数人いたけど、こんな風に間近で見るのは初めてだ。
「じいさん、『磨耗の花園』へは、どっちに向かえばいいか聞いてもいいかな?」
ご主人様は彼に近づくと、にこりと微笑みながらそう質問する。
すると、それを聞いた老爺は、長くボサボサな白髪に埋もれている狼のような犬耳をピクリと動かした。
長い前髪に隠れたその血走ったギョロ目が、彼の顔をまじまじと見つめる。
「ワシに勝てたら教えてやろう。丁度食べるものに飢えていてな……。そこの女はとても旨そうだ」
彼はそう言うと、いつの間にか地面に置かれていた大斧を手に取った。




