閑話 地球の現状
また閑話です。
災害規模の豪雪。
もう、こんな大雪が降ったのは、どれくらい前だっただろうか。
……今日で三日。
三日間ずっと、日本全域──いや、世界中がこんな感じだ。
テレビでは、間氷期が終わり、氷河期が再来したとか言っていたけど。
私は煩わしいプロペラの音を聞き流しながら、低空飛行を続けるヘリコプターから下界を見下ろした。
「──氷河期の再来なんて報道で、この現状を隠し通せるとでも思ったのかしら?」
呟く声は、しかしプロペラの音に阻まれて、搭乗員には一切聞こえることはなく掻き消される。
靡く風に、銀色に染めた長髪が波を打つ。
最近新しく開発された、小型望遠鏡カメラアイコンタクトレンズの電子光が、網膜にその情景を繊細に映し出した。
その雪と髪の隙間に、ちらりと巨大な四足歩行の災害指定に認定された、大型の獣──通称スノーと呼ばれる魔物が、雪を被った変電所を攻撃している様が見えた。
……この世界は、電気を作り出すことは最早不可能に近い。
発電所がこの豪雪で動かなくなっているのだ。
なので、今電気を使うとしたら、手持ちの発電機か、まだ生きている発電所くらいなものだ。
私はヘリの奥から、そこそこ大きなスナイパーライフルを持ち出してくると、弾倉に対スノー専用の弾丸を込めた。
レバーを引き、弾丸を装填する。
──ッターン!
引き金を引くと同時に、耳をつんざくような発射音が、分厚い耳当て越しに聞こえてくる。
横に転がった空薬莢に一瞥もせず、次の弾丸を装填するべくレバーを後ろに引く。
──ガチャ、ガチャ。
コンタクトレンズから得られる情報を元に、弾道を修正。
──ッターン!
また外れた。
機体が吹雪の影響で安定しないためか、それとも──。
──ガチャ、ガチャ。ッターン!
次は少し掠めた。
しかし、弱い。
標的のスノーはさっきのでこちらに気づいたようだ。
プロペラの轟音と耳当てのせいでよく聞こえないが、口の動きを見れば、威嚇しているのか、唸っている様子が伝わってくる。
「高度を上げて!」
無線を使ってパイロットに指示を出す。
近づいてくれるなら当たりやすくなるものだが、スノーというのは痛覚に鈍感で、そうそう一撃で遣られてはくれない。
それに、こんな揺れじゃまた外れることだって考えられる。
そうなったら、一貫の終わりだ。
一層高度を増す度に煩くなるプロペラの音の隙間に、私は銀色の世界を見下ろした。
密着型の小型パワースーツの下の心臓の早鐘を聞きながら、これまでの情報を全て計算する。
この距離なら当たるか?
「止まって。この地点から狙撃します」
『了解』
無線の奥から聞こえるブレた音声を聞き流し、私は再び弾丸を装填した。
大型の狼のような姿をしたスノーが、こちらへと飛びかからんと疾駆するのが、スコープ越しに見えた。
──ッターン!
どさり、と私はホテルのソファーに腰を下ろした。
従妹の城山棺奈が失踪してから、約三ヶ月。
私──白金沙織は、スノー対策組織、通称アンチに所属して、棺奈の行方を探していた。
アンチの仕事は、基本的にスノーの駆除がメインになっている。
アイツらはスノー(雪)なんてコードネームがつけられてはいるが、やつらはそんな生ぬるい存在ではない。
やつらの毛皮や皮膚は、猛獣猟用の拳銃やライフルごときでは傷すらつけられないほど硬い。
いっそのこと、名前をブリザードと改変した方がしっくり来る。
この名前の由来は、奴らがこの氷河期の始まり、その雪の日に姿を表したことによる。
やつらは一様に白い体毛で覆われているか、もしくは銀色の皮膚、又は鱗で覆われている。
形状は巨大な狼だったり、蛇だったり。はたまた鳥だったり魚だったりする。
今や液体の水なんて深海からひいてきているものくらいしか存在しないのだが、例の魚型はそこにいるからなお質が悪い。
「今週でもう38件か……いったい、この星はどうなってしまうのだろう」
そんな不安感を胸に抱きながら、沙織は端末のホーム画面を開いた。
そこには、まだ目が青かった頃の棺奈と私が、親が貸しきりにした海辺で遊んでいる姿が写っていた。
『──続いて、次のニュースです。昨日、日露対災害指定猛獣課アンチスノーは、今後増大するであろう被害に対して、支援を打ち切る方針を見せました。えー、この判断に対して、保護国の方からは大量のクレームが寄せ付けられております──』
「え、支援打ち切ったの?」
突如聞こえてきたその話に、私は状態を起こした。
……まぁ、それもそうか。
今は経済的に結構危ないし、こっちだって、支援する余裕があるなら自国を護りたいだろうさ。
私はテレビの電源を消すと、夕食を摂りに部屋をあとにした。




