30 トーナメント予選を経過した後の話。
午前のトーナメント戦を無事通過したケイトは、腹ごしらえのために学園内の食堂にやって来ていた。
腹の虫が音をあげる。
午前のトーナメントで結構体力を使ったし、そりゃ、お腹も空くよなぁ……。
そう思いながら、とりあえず購買で買ってきた弁当を片手に、私は空席を探すために目を走らせる。
すると、そんな食堂の片隅にウィルの姿を見つけた。
「お~い、ウィル!」
ウィリアム・マーキュライトは、片手に弁当箱を提げているケイトの方を見てそれに答えるように返事をした。
「お前の試合見たぞ。まさか、最後に物理攻撃するとは思わなかった」
俺はそう言いながら、こっちに走ってくるケイトを手招きする。
丁度四人席の内一席が空いていたところだ。
みんなで話しながらでも昼食をとろう。
そんなことを思いながらそんなコメントを口にすると、彼女は照れたように笑った。
「それで……そこの二人は誰?」
「こっちの小人族は、依然図書館で出会ったマフユ。で、このちっこいのは……」
あ、やべ。何て説明しようか。
まさか、拾ったなんてありのまま言ったらちょっとアレだし、かといって召し使いなんていっても、それもアレだからな……。
次第に目から光が消えていくケイトを見ながら動揺していると、ケイが助け船を出してくれた。
「ハトコのケイです。あと『お兄様』、ちっこいのって言わないでください!」
「お──!?ま、ぁ……まぁ、いいや(ボソリ」
まさか、自らをハトコという設定に落ち着けたあげく、俺の存在をお兄様にジョブチェンジさせるとは……。
(この娘、なんて恐ろしい娘なの!?)
──という茶番は置いておこう。
慌てるとボロが出る。
「へぇ?お兄様かぁ……?」
……なぁ、さっきのって助け船でよかったよな?
チラリと隣を見ると、ケイが口パクで『やっちまったー!けど、ま、いっか』といっているのが見えた。
あの幼女天使め!
今でなければ超かわいい!次はおにーちゃんって呼んで!とか言うところを、こいつはよりによっておそらくヤンデレと化しているケイトの目の前でピタゴラスイッチ爆弾を投下してくるとか!
これは、後で解決策を考える必要があるな。
ケイトのお祝いも、ちょっと考え直した方がいいか?
……あ、今浮気してる男性の気持ちが、何となくわかった気がする。
(いや浮気じゃねぇし!!)
そんなよくわからない言い訳を胸中で叫びながら、今にも口からか炎放射でも出しそうなケイトを見上げて、俺は冷や汗を流す。
「なぁウィル?お前の趣味に私はどうこう言うつもりはないけどさ……。後で体育館裏来いや変態」
「まーくんはヘンタイだったデスか!?ワタシ、そんなタイソーなヒトだったとは露知らず……!」
「俺は変態じゃねぇよ!?」
真に受けているのか受けていないのか。果たして想像もつかない名演技を見せるマフユに呆れながら、俺は天井を見上げた。
「ま、茶番は置いておこうぜ。腹へった……」
「発端がそれを言うか……」
対面する座席につく彼女に呆笑をうかべた。
『──それで、魔界の動きはどうかえ?』
「今のところ目立った動きはありそうにないっすね~。ところでエヴュラさん、リオンちゃんの様子はどうっすか?」
隣でニヤニヤと惚けている彼女の頬をつついているエヴュラ・バーンハルトに流し目を送ると、彼は手を頭の後ろに持っていきながらこう応えた。
「ダメだ。完全にイカれてやがる。ホント、昨日まで俺に一直線だったっつうのによ……。この、尻軽女め」
「あんまりいじめてやらないでください。二代目との接触材料なんですから、変に弄られると──」
「わ~ってるよ、んなこと。姐さん怒らせたら怖ぇからな」
『よくわかってるやないか。で、わっちの指示通り種植えは終わったかや?』
リオンの待機部屋に流れる女性の声に、しゃがれた男声がもちろんと胸に拳を当てて応えた。
それを聞くと『姐さん』と呼ばれた彼女はそうかと一言呟くと通信を切った。
「にしてもさ、ずっと不思議だったんすけど、なんでリオンちゃん本気出さなかったんすかね?」
私は切れた通信を確認するなり、ベンチの上に転がっているリオン・クルスの寝顔を覗き込んだ。
端正な顔立ちが寝息を奏で、そのリズムに合わせて大きすぎず小さすぎずの双丘が上下する。
「そういう命令だったからだろ?万が一予選でケイト・ハートフィリアとぶつかることがあったら、ハートフィリアの方を優先しろっていう」
「まぁそうなんすけどさぁ。ちょっと、あの会長様があの程度で止めるなんて、意外だなって。ほら、今回鎧脱ぐのはやっかったっすよね?」
それに、あの程度の火炎放射なら、水系統の防御魔法で水蒸気爆発を起こした上で相手にダメージを与える、なんて策も捻れたはずだ。
いくらレベル1だからといって、あのModを持っているならそう大した傷にはならないと思うんだよなぁ。
そんなことを考えていると、リオンはニヤニヤ笑いを一層深めて、その疑問に答えた。
「だって彼女、いい匂いがしたんだも~ん。待ちきれないよー?あんなの間近で嗅いじゃったらさ」
原初狼人間族ゆえの嗅覚がために、そうなったと言うのだろうか?
無敗とかいう異名はどこぞへ消え去ったのだろう?
そんな風に苦笑しながら、それから二人はリオンの惚け話に付き合わされることになった。




