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転生魔王の墜落詩  作者: 忍霧麒麟
失楽園の王子
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25 ある日の一幕

 今日、私はとんでもないものを見ることになった。

 普通、こんな大量の魔導書を買いとつてくれ、なんていう魔術師なんて存在しない。

 居たとすれば、それはとんでもないバカか、それかとんでもない天才かのどちらかだ。


「合計30000点の魔導書なんだけど、買い取ってくれますか?」


 そう言って、目の前の金髪の青年は、目の前に買い取りリストを提示してきた。

 その膨大な量といったら、もうそれだけで一冊辞典ができるんじゃないのか?ってくらいに。


「……あ、あの、お客さん。ホントに言ってます?」


「嘘をつくことで、こちらにはメリットありませんし。それで、買い取ってくれますか?」


 相手側にメリットがなにもないと言いつつ、嫌がらせみたいな量のリストを提示してくる彼。

 私は正直目眩がしそうになった。

 それもそのはず。

 買い取れるだけの資金はここには無いし、かといってこれだけの魔導書だ。

 こちらで売れば、それなりに儲けがつくだろうから、今回の支出は多分プラスに回るだろう。

 いや、だがしかし……。


 私がそう渋っていると、目の前の学生はそうですかとため息をついて、その場を離れようとした。


 不味い、あれはこちらにとっても有益になるかもしれない商品だ。

 逃がしてはもうこの先、こんなチャンスは滅多に来ないだろう。


「あ、あの!リストを渡していただければ、こちらで買い取れる分は買い取ろうと思うのですが……いかがしましょうか!?」


 無理だ。

 こんな言い方じゃ、多分無理だ。

 こんな量の本を売る気でいる魔術師なんて、食う金に困って即使える金を要求しているはず。

 だから、この引き留めはたぶん無駄な足掻きだ。


 学生はピタリと足を止めると、なにやら独り言を喋り始めた。


 何をしているのだろう?


 私は、彼の様子を覗くと、そこには高価そうな儀式用ナイフを手にもって話しかけているのが見えた。


 もしかして、使い魔でも憑依しているのだろうか?

 儀式魔術の中には、たしかそういうものがあった記憶がある。

 儀式魔術の中でも、物に使い魔を憑依させるのは、高等魔術の中でも中級クラス。

 それが意思をもって会話をすることができるとなると、その中でも一段階か二段階は上の魔術師だろう。


 私は、その様子を見てはっとした。

 こんな腕のたつ魔術師なら、仕事に困ることなんてないはずだ。

 そもそも、儀式魔術は、童話系統ではなく、実践的哲学系統の魔術だ。

 それを扱えるということは、少なくともバカではない、ということ。


 ……では、なぜ本を売りに来たんだ?

 全部読んだからといって、暗記したからといっても、普通はこういうものは大切に保管しておくはずだ。


 そんな風に考えていると、学生は再びリストを持って、私のところへ来た。


「お願いします」


「かしこまりました(重っ!?何これ重っ!?)」


 普通の辞書くらいの重さかと思えば、ゆうにその二、三倍くらいの重量があった。

 想像以上の重さに驚いて落とさないように気を付けながら、私はそれを、隣の棚に置いておいた。


「それでは、ここに連絡先と住所、それから氏名と──」


 リストとは別に、依頼書とリンクさせるラベルを作成すると、私は準備出来次第、使いを寄越しますので、お手数ですがその時はもう一度こちらまでお越しくださいと伝えた。















 学園外にある街の本屋から帰ってくると、俺は広くなった書斎を見渡した。


 壁一面の棚は全て空になり、床に散らかっていた本も、すべて亜空間に収納した。


 え?いつの間に亜空間に収納することができるようになったのかって?

 あぁ、それは、ここにあった『空間について』って本をアーカイヴスで読み取ったら、何となく使えそうだな~って前に思ってたことがあってさ。

 何となく今まで使ってこなかったから、今回ちょっとためしに使ってみたんだよ。


 因みに、俺は亜空間って呼んでいるけど、実際は『虚数空域生成』っていう名前の実践的哲学系統の魔法である。

 めんどくさいし長いから、簡単に亜空間でいいでしょ。


「……うぃる、ほこりまみれ」


「うわっ!?マジかよ……」


 そうこうしていると、ダイニングの方からメイドさんがやって来た。


「ご主人様、お払いしましょうか?」


「ありがとう、頼むよ」


 俺はそうお願いすると、その場に立ってじっとする。


 そういえば、彼女の名前を聞いていなかったような気がするな。


「そういえば、君の名前って何なの?」


「私の名前ですか?」


 彼女は、中に舞っている埃に、水魔法の浄化を使いながら俺に聞き返した。


「私は、皆からはケーデルベルスって呼ばれていましたね。ケーデルベルスの扇剣せんけん。武器化一族は、それぞれの名前は武器化した状態の時の呼び名で呼ばれるんですよ」


「ということは、人としての名前はないってことか」


 すると、彼女はほほを膨らませて、そうですけど表現が直球過ぎます!と怒ってきた。


「ごめんごめん」


 ……それじゃあ、こいつにも名前をつけてやろうか。

 さて、何にしようかな……。


 ユウカの時みたいに、幽霊だからユウカ!っていうのはどうだろう?

 今回の場合は、剣だからケンちゃん?


(いや、それはどう考えても男性名詞だろ)


 そんな風に、彼女の呼び名について一人考えていると、薄緑色の髪をした幼女メイドは、こう切り出した。


「あの、ご主人様は何も聞かないんですね?」


「まぁ、だいたい君がなんなのかは予想がついてるしね」


 大方、今までの話を鑑みるに、魔王から逃げてきて、なんかちょうど良さそうなのがいたからとりついてやろうと思っていたら、なんか逆に俺のものにされたって感じだろう。


 うん、あるあるだな。


 その考えを彼女に話してみると、幼女は目を丸くしてこう言った。


「私、もしかしてご主人様の中では、幽霊かアヤカシみたいなのにカテゴライズされてるんですか!?」


「いや、突っ込むところそこかよ!?」

 魔王城に攻め込むのは、まだまだ先のようだ。

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