26 魔法祭当日
【魔法祭。それは、今期の生徒会メンバーを決めるために行われる、魔法を使ったバトルコンテストみたいなもの。
バトルコンテストってなんだよって?
ん~、簡単に言えば、魔法による戦闘で、それぞれのカップによって視るところは違うけど、例えばエンドレス・タワー・オブ・ディフェンスなら、魔法の持続力をメインに審査するね。
他にも、攻撃力や攻撃範囲がメインになるフロアー・アタックや、発動速度がメインになるスピード・スターなんてカップも設けられているよ。
基本的にこのコンテストでは、汎用性と特殊性の両方の部門に参加する必要があって、そこの開始前の検査で勝ち残った各二十組が、トーナメント式に戦うよ!】
要するに、各杯にて審査内容が異なり、それらの天辺についた人が、生徒会に選ばれる、と。
会長はその中でもトップの人がなるわけで、トップには選ぶ権利はない、ということか。
……しっかし、アーカイヴスのレベルが3になってから、オプションに話口調っていうのができたから試してみたものの。
「やっぱり使いにくいかな……」
魔法祭当日。
俺は、会場のちょうど真ん中辺りの座席に腰を掛けながら、そう呟いた。
因みに、俺の隣には武器化を解いた幼女メイド(名前はケイ(佳)に決まった)と、その反対隣には、俺の方を訝しむ様に見上げているマフユの姿があった。
「ナンのはなしデスか?」
「何でもないよ。気にしないでくれ」
「ソーデスカ」
そう言うと、彼女は目の前で開催される開会式を眺めた。
「ご主人様、ここからではよく見えません」
「じゃあ、膝の上来るか?」
首を一生懸命伸ばして向こうを見ようとする彼女に、俺はそう提案した。
くっついて座っていれば、どこを触っても事故だし、俺、ナイスアイデア!
とか、そう思っていると、二人の方からなぜか冷たい視線が注がれていた。
「変態」
「変態Deathネ」
おいちょっと待て。
マフユのデスがなんかネイティブな英語の発音に聞こえたんだが気のせいか!?
「まだ何も言ってねぇだろ……」
何でわかったんだよ!?
そうこうしている内に開会式も終了し、舞台の人たちはそれぞれの休憩所に戻っていった。
因みに、俺は出場しない。
今回の俺の目的は、あくまで魔法の使い方や、そのアイデアを貰おうっていうだけである。
それなら、別に戦わなくてもいいだろ。
俺は膝の上に座ってジュースを飲んでいるケイの頭の上に顎をのせながら、そう考えていた。
魔法祭は、六つの会場を使って、それぞれのカップでトーナメントを行う。
私が現在来ている会場は、エンドレス・タワー・オブ・ディフェンス、つまり魔法持続力をメインに審査する。
童話系統の魔法は、基本的に集中力が必要で、集中力のスタミナが、直接的にこの分野に影響を及ぼす。
トーナメントは午前に準決勝まで決めて、午後に決勝戦を行う。
戦闘時間は三十分以内と決められていて、この間に勝敗がつかない場合は、審査員の判断で決める。
私はあまり魔法が得意ではない。というのも、使えないっていうわけじゃない。
ただ、制御が苦手で、あまり本気を出しすぎないようにしないとある意味面倒なことになるのだ。
そりゃ、そのまま使えば、威力の成績は優秀だろうけど、暴発するからなぁ。
コントロールなんて細かい作業は、私には向いていない。
……けど、今回ばかりは運か良かった。
私は、目の前に対峙する生徒を見据えながらそう思った。
相手は風属性が得意だと聞く。
なら、火属性の魔力を最大限活用して、燃料にしてやろう。
そう思いながら、私は開始の合図に耳を済ませた。
「開始!」
審判の声が舞台に木霊する。
その瞬間、私は叫んだ。
「炎之謝肉祭!」
瞬間、観客を保護するための魔法障壁が展開され、舞台が火の海に呑まれた。
炎之謝肉祭。
広範囲に炎を生み出し、周囲の相手を骨にする魔法。
繊細な操作能力など必要なく、暴れ狂うままに八大地獄を顕現させる。
メリットとしては、自分のいるエリアまで魔法の影響下におくことで術者の存在を隠蔽し、さらに広範囲に攻撃できる点だ。
私なんかより操作能力の長けている人ならば、その空間をすべて自分の支配領域に起き、場の魔力を焼失させることで相手に防御させる隙を持たせないことができる。
だが残念ながら、私にそんな器用な真似はできない。
(暑い……)
歯を食い縛りながら、自分の魔法に耐える。
普通は自分のところだけ火を避けさせるのだが、生憎そんな操作能力は持ち合わせてはいない。
しかし。
それを見抜かれたのだろうか?
対峙していた生徒が、この魔法を消し去った。
「マジかよ!?」
相手が使っているのも領域魔法(広範囲に影響を与える魔法)だろう。
(押されている……だけど!)
私は、そこで本気を使った。
ケイトの試合が始まった瞬間、観客たちを護る魔法障壁が自動で展開した。
立方体の障壁一杯に、燃え盛る炎の渦が跳ね返り、猛り狂う。
フレイムカーニヴァル。
火属性童話系統領域魔法に分類されるその魔法は、使い方次第によっては一瞬で相手を死に至らしめる。
しかし、死亡者が出ないための工夫としてこの舞台には、一定以上のダメージを受けた者を場外へ放り出す『条件結界』という結界が張られているため、相手側が死亡することはない。
「うわぁ……」
いくら操作能力が無いからって、これは無いだろ……。
流石に引く。
と、思っていたのだが、周りの人には案外受けがよかった。
──しかし。
そんな優勢な状況も、長くは続かなかった。
間一髪で場の魔力の支配権を勝ち取ったのだろう、相対する青年が、突風を巻き起こして炎を蹴散らして行く。
「ダイナマイト消火か……」
ダイナマイト消火。
言ってみれば、蝋燭の火を吹き消すのと同じ原理を使っている。
今回の場合、風属性の陰性の魔力を利用して、ケイトの炎が必要としている酸素と場の魔力を奪っているのだろう。
咄嗟の思い付きでここまでできるということは、相当の実力者なのだろう。
みるみる内に、青年の魔力がケイトの炎を食らっていく。
この結界は、内からの干渉に対しては有効だが、外からの影響にはいっさい触れることはない。
つまり、酸素も場の魔力も問題なく、尽きることはまずあり得ないのだが……。
やがて、僅かな炎をも食らいつくした青年は、この空間の魔力を全て支配することに至ったのであった。
「強いデス、あの男子生徒」
驚嘆しながらそうコメントするマフユに、俺はそうだなと返した。
「この実力があれば、おそらく最後まで残るだろうな……。ケイトには悪いけど、ここは彼女の敗けで……は?」
ここは彼女の負けで決定だろう。
そう結論付けようとした瞬間、彼の男子生徒の体が数十メートルもぶっ飛んだのが、俺の目に映った。
「くそっ!」
なんなんだよあいつは!
勝手に私の魔力パクりやがって!
挙げ句、どや顔をして勝ち誇ったように上から目線でアイツはこう言った。
「そろそろ降参したらどうかな?今の君じゃ、ボクに勝てないよ?」
腹が立つと言ったら限りがない。
もう、こうなったら素手で殴り飛ばしてやろう。
そう考えるか否かの隙間に、私は舞台を蹴った。
ゴリゴリッ、という音が聞こえて、舞台の床が捲れ上がる。
脚力を全開にして、私は拳を引き抜き、そして、放った。
──チュドン!!
もはや亜音速の域まで達した全力の拳は、しかし一瞬ながら彼の魔力防壁に抗われる。
だが、私の拳はそれを貫き、コンマ一秒のタイムラグを残すのみにおいて、彼の顔面を強打した。
──パァァァン!
前の音と先程の音がほぼ繋がって聞こえてくる。
合間は二十メートルはあったはずなのに、それを一瞬で駆け抜けた(正確には跳躍した)のだから、それも当たり前だろう。
目の前で青い光に包まれて場外に転移した彼を見送ることなく、私は会場を見渡した。
(やってしまった)
不意に、そんな感情が浮かび上がった。
周囲は静寂に包まれており、一部だけざわざわとした音が聞こえるだけだった。
急に吹っ飛んでいく青年を見ながら、俺はあんぐりと口を開けていた。
これはもはや、魔法競技では無くなっているじゃないか……。
しかも物理攻撃……いや、あの速度の攻撃を、素手による攻撃と断言できるだろうか?
もしかしたら、陰性火属性の強化魔法かもしれないじゃないか。
……しかし、審判を行うものとして、この現状を正しく認識しなければならない。
自分の考えだけでは、あの現象を反則と果たして言うことができるだろうか?
俺は、しばらく思考停止していた頭で、必死にどうにかしようと結論付けようとしたが、無理だった。
無理だ。
無理に決まっている。
こんなこと前例になかったし、この手のことは俺には荷が重すぎる。
この試合の勝利条件は、魔法を使った勝負で相手に勝つこと。
魔法を使わないで勝った場合、何てものは想定されていないが、魔法を使った勝負で勝つことが条件であるため、全く使わない勝負は認められない。
だがしかし、あの子供はちゃんと魔法を使った。
それも、中級クラスの中でももっとも実用性のあり、本来なら持続性もそれなりに高い魔法だ。
勝負の判定は、それまでの戦闘で使用した魔法の汎用性、特性、今回の場合は持続力の三つの点数と、勝利ボーナスでつけられる。
この少女の場合の判定は、満点100点中、汎用性満点、特性満点、持続力50点、勝利ボーナス300点で、系550点。
対して、青年の点数は、汎用性満点、特性満点、持続力満点、敗北ペナルティ100点で、計200点だ。
どんなに優れた魔法でも、勝たなくては意味がない。
だから、勝利ボーナスは300点に設定されているのだが……。
この最後の音速にも等しい勢いでの物理攻撃を、果たして魔法と判定するかどうか……。
そんな風に迷っていると、後ろの方から主催者がやって来た。
「どうしましょうか、これ」
困った風に聞いてくる彼を見ながら、俺は苦笑いを浮かべた。
「どうしましょうかねぇ。あれを魔法と判断するか、体術と判断するかで、後々の点数が変わってきますから……」
「あぁ、そうだ!魔術痕は見えたのか?それが確認できるだけでも、判断する材料になる」
「でも、青年の『魔力食い』の影響で、ハートフィリアさんの魔力が見えないんですよ……」
そうかと項垂れる主催者を見ながら、俺はある決断をした。
「よし、俺が彼女に聞いてきます」
ちょっと怖いけど、やるしかない。
正確な点数をつけないと、後々厄介なことになりかねない。
「わかった」
俺は彼の了承を得ると、そのまま舞台の方へと駆けていった。
長くなったので一旦切ります。




