23 これはいったい……
「防御魔法については、1時限目にレイチェルから教わったと思う。2時限目は、この防御魔法の実践をメインに、授業を行う」
曇り空の下。冬の切りつけるような寒さが、校庭に吹く。
ナツメ・クラハ先生は、そんな中、約30名ほどの生徒の前で、授業を開始した。
「まず、そうだな。ルーク・グレンフェルド、前に出ろ」
彼女に指名されて、四列横隊に並ぶ生徒の中から、薄い金髪の青年が前に出た。
「よし、グレンフェルド。何でもいいから、私に攻撃魔法を放ってみろ」
「え、何でもいいんですか?」
生徒の質問に、コクりと頷くナツメ先生。
「で、では。ファイアボール!」
ルークはそう唱えると、彼女に向かって小さな火の玉を発射した。
それとほぼ同時に、ナツメは水壁を作り出し、その攻撃を防御する。
地面から噴水のように現れた水の壁が、ジュッと音をたてて、彼の放ったファイアボールを打ち消した。
(なるほど。要するにリズムゲームと同じか)
タイミングよく、その魔法を打ち消す壁を作り上げる、と。
「このように、相性の良し悪しを考えて瞬時に防御魔法を発動することが、この魔法のポイントだ。だがしかし、こう思った生徒もいることだろう。別に、そうと決まった魔法じゃなくてもいいんじゃないか?と」
先生はルークをもとに戻すと、今度は俺を指名してきた。
「ウィリアム・マーキュライト。撃ってみろ」
撃ってみろって言われてもな……。
俺は、横隊から先生の前に出ると、とりあえずルークと同じくファイアボールを撃つことにした。
「ファイアボール」
前に手をかざして、魔法名を唱えた。
すると、掌から何かが吸い出されるような感覚がして、火の玉が出現した。
おお、これが火魔法か……。
(なんか、あのモヤモヤより魔法っぽくて感動するな)
火の玉は一瞬にして凝縮されると、その勢いを反発するかのように手から飛び出した。
──シュジュン!
しかし、それはナツメの前に噴き出した炎の壁にぶつかって、波紋を広げて壁の中に潜り込んでいった。
「このように、防御魔法とは、同じ属性の防御魔法で防ぐことにより、吸収することが可能だ。この時、魔力の循環公式の解がプラスになった場合、その魔力を絡め取られて威力が増大するので、注意するように」
それほど熱くない炎の壁を消し去ると、ナツメはふぅ、と一息吐いた。
なるほど。
教科書を丸暗記して理解はしていたけど、やっぱり実際に見るのとアーカイヴスで記憶するのでは、やっぱり印象が違うんだな……。
これが、アーカイヴスの弱点か。
「他に質問ある奴はいるか?」
横隊に戻ると、ナツメは生徒にそう呼び掛けた。
しかし、誰も疑問を挙げないことを確認すると、彼女は早速、練習を開始させた。
「それでは、三人一組になって、防御魔法の練習だ。一人は攻撃役、もう一人は防御魔法の練習。残りは両者のフォローに入れ。笛の合図で、三人の役をローテするから、焦らないように!」
彼女の合図で、校庭に生徒たちが散らばった。
「なるべくグループごとに距離を開けろよ!怪我すると危ないからな!」
ざわざわと騒然とするグラウンド。
あるあるだよな……。
体育で実習とかするときに、二人一組になれ!だとか、三人一組!とかさ。
高校だと男女別だし、別段仲のいい友達もいなかったから、俺はいつも残り物と組まされてたっけ。
そんな感傷に浸りながら、俺はそんなクラスメイトたちを見回した。
すると、突然後ろから体操服の裾を引っ張られた。
「ウィル、私と組もうぜ!」
「いいよ、ケイト。じゃあ、あと一人だな……」
そういえば、ケイトのステータスってどんな感じなんだろう?
【ステータス
名前:ケイト・ハートフィリア
種族:人間
レベル:1
EXP:0
NEXT:1000
特技:針流武術
Mod:先天性チート身体能力
危機察知能力レベル2】
先天性チート身体能力……?
なんだ、それ?
【先天性チート身体能力:先天的に受け持った、チート的な身体能力。人間、もしくはエルフのみに発症する。
詳細:全ステータスが、表記データより実際の二倍の状態になる。
例:レベル1と表記されているが、実際の能力はレベル2相当になる。
NEXT:1000と表記されているものが、実際には2000の経験値が必要となっている】
……なるほど。
所謂超人体質ってことか。
超人みたいな身体能力を発揮する代わり、次のレベルに上がるために必要な経験値が二倍になる、ということだな。
夜バージョンのゴブリンで示すなら、俺がレベル2に上がるのに必要な数が4体なのに対して、彼女は8体必要ってことか。
「なるほど、お前も苦労しているんだな」
「?何の話をしているんだ、ウィル?」
そんな俺の感想に、彼女は不思議な顔を浮かべているのであった。
授業が終わり、放課後になった。
ユウカのやつ、また昼食と一緒に夕飯も食ってないだろうな……?
そんな不安が頭から抜けなかったので、俺は依頼を確認せずにそのまま寮の部屋へと戻ってきていた。
「ただいま~って、あれ、これ誰の靴だ?」
帰ってくると、玄関に見慣れない靴が一足置いてあった。
サイズから考えて女の子か。
(いったい誰だ……?)
俺には、毎日夕飯を作ってくれるような幼なじみはいないし、ましてや合鍵を渡すような恋人も友人もいない。
合鍵を持っているとしたら、それはたぶん、寮長であるミーちゃんくらいなものだ。
でも、この靴はミーちゃんの靴ではない。
え?何でわかるかって?
俺がロリコンであることを舐めちゃいけない。
幼女のいつも履く靴くらい暗記している。
(なんたろう……。文章にして書いてみると、なんかめっちゃアブナイ人みたいに聞こえる)
この靴は、ミーちゃんのではないのは確かだ。
ケイトの靴でもないし、ましてやナツメ先生の靴でもない。
……いったい、誰の靴だ?
ダイニングに続く扉を開けると、その答えは明らかになった。
「お帰りなさおませ、ご主人様!」
「……おかえり、うぃる」
そこには、見知らぬ薄い緑色の髪をしたメイド服姿の幼女と、至福に顔を歪めている青い髪の幽霊がいた。




