苛立ち
後に担当者の署名ではない決裁書は(鵜且が書いたものだが、)急ぎだった為に通り至急議員秘書の二人に伝達された。ちなみに毎年冬季に開催される此度の協議は席順が固定ではない、故に各人の事情を鑑みつつ配置決めをするのが決まりだった。午後からの予定だが当時猶予も無く、指定された席を並べるだけで手一杯だった。(まあ正直、あの二人ならば的確に席を並べ替える事も可能だったが。)
進行は作業の進行速度を見ながら悪態を吐き、書記は黙々と資料を配るのに徹した。「シウ、それで最後か…」やはり仕事が速いと感心しながら声を掛ける、シウスは頷いて戸口を示した。腰掛けていた窓辺から立ち上がりヘウスも後を追った、下端には指示を言い置いてゆく。
「ヘウス、君のその二面性。(部下が)気味悪がるから止めといた方が無難じゃない?」誰もいない回廊を進みシウスがその日はじめて口を開く、柔らかな低音は容姿と相俟って美しい旋律だと彼の認知されていない信者なら大いに湧くこと間違い無し。
同じ髪型、同じ瞳の色、同じ服装、同じ…。まるで鏡面を見ているのでは、そう錯覚するほどに彼等は似ていた。艶のある銀糸を一纏めに髪紐で留め、白銀のフロックコートとスラックスを上下に、光沢のある長靴を履きこなす彼等は極めて作り物めいていた。
だが、やはり一卵性の双子ではない彼等にも違いがある。
(例えば、そう。声とか)高音とまではいかないまでもそれなりに高い声、聴き様によっては女性とも取れるかも知れない。現にシウスは夜空に浮かぶ月のようだと囁かれていた。外に面した道なりに行くと向こうに見知った顔、幼馴染だ。
シウスは遠くその姿を認めた。「イグサ、」誰にとも拾われない音は空しく溶けてゆく。
彼らの長袴は薄く綺麗な灰の繊維で成っていて角度により太陽光を反射する。物の例えとしてはラメが輝いているような、と言い置いておこう。ええ、衣服には詳しくないので悪しからず…




