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7.嫉妬顔スチル

 暗闇の中で揺れるのは、金色のふたつの光。


「ドラグ……」


 硬い鱗が腕に当たっている。

 また、以前のようにベッドへ沈められるのだろうか――でも、私に文句を言う資格はない。


 目を閉じ、“推しを傷つけた罪”の沙汰を待っていると。


『……どうして、ひとりで竜の巣に行ったの?』

「へ……?」


 暗闇の中浮かび上がったのは、麗しい怒り顔――ではなく、黒い鱗の竜だった。


「……なぜ、元のお姿に?」

『これは……』


 簡単に触れられる姿だと、自分を制御できなくなるかもしれない。


 そう言って、ドラグはそっぽを向いた。


「なっ……」


 あの件から、推しが学習している。


 さすがは“人生の推し”――と叫びたいところだが、今はやめておこう。


 ひとまず、ちゃんと顔を見て話がしたい。

 ベッド横のランプを灯して、オレンジ色の光に照らし出されるドラグを見上げた。


「竜の巣にうかがったのは、どうしても確認したいことがありまして……」


 竜のツノについて、ゲルダに訊ねたかった。

 そう、正直に白状すると。


『でも、ひとりで竜の巣に行くなんて危ないよ』

「え…………そっち?」


 この推し竜が怒っているのは、もしかして――。


 純粋に、私の心配をしてくれているのか。


「……ボロネロのツノを磨いていた件は?」


 喉を低く鳴らすドラグに、小声で問いかけると。


『僕はもう、君の愛を疑ってはいないんだけど』

「……っ!」


 危ない。

 突然の供給過多に、心肺停止するところだった。


 この夫竜、いつの間にか嫉妬から卒業していたなんて――でも、昔の“嫉妬顔スチル”をもう回収できないのかと思うと、少し寂しい。


 それに、素直にその言葉を喜べない原因がもうひとつ。


「……でも私、ドラグ様を傷つけてしまったんですよね」


 先刻、ドラグがスライム医院にいたことを話すと。

 ドラグは、『ああ、あれは……』と言いかけた口を閉じてしまった。


「お願いします、正直に答えてください! ツノは竜の弱点だと聞いたのです。もし本当に、私の推し活(ツノ磨き)がドラグ様を傷つけているとしたら……」


 そんなの、耐えられない。


 ずっと胸を塞いでいた疑問を吐き出すと――ドラグは尻尾を震わせ、青緑の炎を吐き出した。


「あっ……」


 ドラグの身体が縮んでいく。

 触れるだけで皮膚が切れる鱗は、滑らかな白い肌へと変わっていく。


 やがて、私とほぼ同じ形になったドラグは、私の前で頭を下げた。


「よく見て。君が毎朝磨いてくれるから、すごく綺麗なんだ……別に傷はついてないよ」

「でも、病院へ行っていらしたではないですか!」

「それは……」


 視線を泳がせたドラグに、詰め寄ったところで。

 黒い尻尾が腰に巻きついてきた。


 そのまま尻尾に引き寄せられて、身体が倒れていく。


「わっ……」


 少し冷たくて、気持ちの良い温度の胸板が頬に触れた。


「ど、ドラグ様……?」


 画面越しではない生身の推しに触れるなんて、許しがたい大罪――とまでは、もう言わなくとも。


 不意打ちを決められると、全身が発火したのではないかと疑うほどに熱くなる。


「そんなことより……あのツノ磨きは、僕だけのものだと思ってた」

「え……?」


 今のは、まさか――。


「ややや妬いていらっしゃる……?」


 かすかな期待を込めて、囁くと。

 私の頭にもたれかかっていた首が、無言で頷いた。


「カッ――」


 推しが嫉妬から卒業しただなんて、誰が言ったのか。

 前髪の隙間から拝むことのできる真っ赤な御尊顔に向けて、いつの間にか合掌していた。


「エメル、どうしたの?」

「これは供給に対しての、推す側の礼節ですから……あっ、もうちょいその角度でいてください!」

「……君って時々、不思議な呪文を唱えるよね」


 私の条件反射に、ドラグもだいぶ慣れてきたと思っていたのだが。

 なぜか彼はまだムッとして、ツノを眺める私をじっと見下ろしていた。


「ええと……やっぱり何か不快なことが?」

「君って本当に、()()()()が好きだよね」

「え……?」


 ようやく身体を解放してくれた夫の隣に腰かけると。彼は牙をのぞかせながら、ため息を吐いた。


「……弱点だからこそ、君には触れてほしいと思ってたのに」


 これはアレだ。

「君はツノなら節操ない」と、遠回しに言われているのだろう。


「ええと、ボロネロの件は……」


 ツノ磨きの相談の流れでした。ボロネロだけでなく、ゲルダのも――と、言い訳混じりの自白をしていると。


「えっ……」


 突然、ドラグの頭が膝の上に降りてきた。


「いいいったいこれは……?」

「……今朝は、まだしてもらってないから」


 少し拗ねたような口調に、「ン゙ッ゙」と変な声を響かせてしまった。


「ほら……早く」

「えっ、でっ、でも……」


 人型の時に磨いたことなんて、今までない。


 こちらをじっと見つめる黄金眼に、両手が震えた。

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