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5.ツノなら良いってもんじゃない

「うーん、やっぱり何か足りないわねぇ」


 普段の姿からは想像もできないほど大人しく、私にツノを削られる美魔女竜だったが――。

 まだ極上の磨き心地ではないと、ゲルダはソファから起き上がった。


「評価対象がアタシだけだと、調整できないでしょ」


 そう言って、ゲルダが手を鳴らすと。


「……ゲルダ、なに? 竜遣い荒い」


 部屋の奥から出てきたのは、エプロンを身に着けたボロネロだった。


「ゔっっっ!」


 さすが『幻想国家シビュラ(ゲーム)』の人気キャラ投票ランキング5位に入るイケメン竜――いきなり特殊衣装のお披露目は死人が出る。


 しかもゲルダは、彼を自分の代わりにソファへ転がした。


「ほら、アンタもやってもらいなさいよ」

「えっ? でも……ボロネロは良いのですか?」


 ゲルダによると、ツノは竜の弱点であり磨かせるような部位ではないという話だった。


 しかも彼は、ゲルダの夫()()1()だ。


「ゲルダ、許可した。後妻ならいい」

「ぐっっっ!」


 国宝級顔面が、私の膝の前に転がっている――。


「ちょっとアンタ! なに財布出してるのよ」

「いえ、だって……!」


 このねじれた青いツノに触れるなら、無課金では許されない。


 そっと、ボロネロの頭の横に銀貨を積み上げると。

 あのゲルダが、「アンタ、キャバレーにだけは来ないほうがいいわよ」とため息混じりの炎を吐き出した。


「アンタんところの吸血鬼執事と一緒になって貢ぎだしたら、グロウサリア家もいよいよ終わりね」

「まぁ! 失礼な……いえ。ご忠告、痛み入りますわ」


 実際、その通りになりかねない。


 それにしても――雑談交じりにツノを磨いていなければ、正気が保てない。


 完全に竜の姿になっている時は言うまでもないが、人型だと余計に顔の良さが際立ってしまう。


「くっ……でも、推しのツノが一番良い……」

「後妻、泣いてる?」


 いくら夫の従兄弟たちとはいえ、他のツノを磨いて分かった。

 彼らには失礼だが――夫以外のツノを磨いていても、正直毛づくろいをしている感覚だ。


 やはり朝のツノ磨きは、私にできる最大の愛情表現。

 それだけは、間違いない。


「……帰ったら、ちゃんと話そう」


 しゅっとしたツノの先端を仕上げ磨きしながら、呟いたところで。

 廊下の方から、騒がしい声が近づいてきた。


「だからよぉー! シオン最強の俺様と勝負しに来たんじゃねぇのかよ?」

「ちっ、違って言ってるでしょロードン……エメルはどこ?」


 あの声は――。


 立ち上がるより早く、洞窟にはめ込まれた扉が開いた。


「なっ……!」


 こちらを見て固まっているのは――少し猫背の、黒い竜人。


「……ドラグ、さま?」


 最推しのツノへ真っ先に目が行ったが、今はそれどころではない。

 

 彼は私とボロネロを交互に差して、指先を震わせていた。


 これはマズい、非常に。

 あの絶望オーラがにじむ顔、確実に誤解している。


「んだぁ? テメーの嫁、ガチでひとりで来てたのか」


 主張の激しい筋肉に、金の鱗が張り付いた竜人――ゲルダの夫その2が、ドラグの肩を叩いている。


 やめろ筋肉竜、それ以上刺激するな――!


「……そっか。それって別に、僕だけにやってたんじゃなかったんだ……」

「ドラグ様、違います! これは……」


 これはツノ磨きの腕を上げるための研修で――いったい、何と説明したら良いのか。


 口が動かないうちに、尻尾を下げたドラグは踵を返した。


「どうして、こんな僕の“顔が良い”って言うのか不思議だったけど……やっぱり、ツノがあれば誰でも良かったんだ」

「あっ、ドラグ様!?」


 尻尾が見えなくなるまで、動けなかった。


 それでも布を握りしめ、ドラグの後を追いかけるが――。


 あの夫竜、玄関を出た途端、元の姿に戻って飛び去って行った。


「ドラグ様……!」


 この光景、何度目だったか――でも今は、苦い思い出を振り返っている場合ではない。


『後妻、背中貸す?』

「ボロネロ……!」


 さすがはシオン最速のイケメン竜だ。

 

 遠慮なく飛び乗り、町の方へ飛び去るドラグを追いかけた。

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