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4.カリスマ公認の腕前

 ツノを磨かれるのは、竜にとってどんな感じなのか――。


 ようやく決心した疑問に対し、ゲルダは目を瞬かせている。


「どうって……アンタ、まさか」


 ドラグのツノを磨いているのかと、向かいのソファのゲルダが詰め寄ってきた。


「えっ、やっぱりマズいのですか?」

「マズいも何も、ツノなんて普通磨かないわよ」

「なっ……!」


 思わず、手元のコーヒーをこぼすところだった。


 私たちが耳掃除をする感覚で、竜もツノを磨いているものだと思っていたのだが――。


「……“美魔女竜”でも、磨かないのですか?」

「アンタ喧嘩売ってるの? アタシはモデル以前に竜人だけれど、生まれてこのかた磨いたことなんてないわ」


 それでも、さっき屋敷の前で鱗を研いでいたではないか――鱗とツノ、何が違うのだろうか。


 こちらへ身を乗り出したゲルダのツノに、試しに手を伸ばしてみると。


「ちょっとやめなさいよ! ここ、くすぐったいんだから」

「え……?」


 ゲルダは赤い炎とともに、「ツノは竜の弱点よ」と吐き出した。


「弱点……?」


 そんな設定、ゲームの『シビュラ』にはなかったはずだ。


 でも、現実に生きる彼らにとってのツノはそうなのだろうか――。


 眉根を寄せるゲルダに、胸の奥が冷えていった。


「そうよ。だから普通、誰にも触らせないの」

「そんな……」


 するとドラグは、我慢してツノ磨きをされていたのか――?


 溜め息が止まない。

 ボロネロがせっかく淹れてくれたコーヒーが、どんどん冷めていく。


「朝のツノ磨き……やめなきゃ、ですわね」

「……“ツノ磨き”、ですって?」


 先ほどまで、私を薄目で見ていたゲルダが尻尾を揺らしはじめた。


「え? ええ。この特別な磨き布で、ドラグ様のツノをお掃除することが、それはもう至福でして……」


 その時間ももう、強制終了というわけなのだが。


 なぜかゲルダは、ソファから立ち上がって私の前まで歩いてきた。

 お得意のモデルウォークで。


「アンタ、それちょっとやってみなさいよ」

「……はい?」

「だから! その“ツノ磨き”よ」


 少し頬を染めたゲルダに、ついポカンとしてしまった。

 

 まさか。「磨く」という言葉が、彼女の最も崇拝する「美」に繋がったのだろうか。


「ほら、ツノを磨くのがどんな感じなのか、アタシが実験台(モニター)になってあげるから!」

「あっ……」

 

 なんと、ゲルダは私の膝にツノを向けて仰向けに寝転がってしまった。


 領の主権争いを繰り広げてきた彼女が、まさか私にツノを預ける日が来るなんて――。


「ほんと丸くなりましたわね……」

「はぁ!? 毎晩9時以降は食べないし、毎朝の飛行だって欠かしていないわよ!」

「別にそういう意味では……とりあえず、上を向いてくださいませ」


 マグマのような赤黒い一本ツノに、少し失礼して――ドラグ用に制作した、やすり付きの布を当ててみると。


「はぁ……!?」


 突然のぶち切れボイスに、イスから転がり落ちそうになった。


「やっ、やっぱりコレ、不快なのですか?」

「違うわよ! 何なのこれ……気持ちいいのに、古い角質がゴリゴリ削れてるじゃない」


 気持ちいい――いま、そう言ったのだろうか。


 高鳴る胸をおさえて、磨き布の角度を変えてみた。

 こうして色々な方向から、強さを変えてやっていくと、ドラグのツノはいつも艶を増していくのだが――。


「アンタ……商売だけじゃなくて、こんな武器も隠してたのね」

「別に隠しては……あっ、ツノの先も気持ちいいですか?」

「油断すると眠りそうよ!」


 やっぱり「キレ対応」だが、ゲルダの喉がグルグル鳴っている。

 ドラグと同じ反応ということは――彼もコレが気持ちいいのだろうか。


「なんだ……」


 ドラグがツノ磨きを嫌がっているなんて、余計な心配だったのかもしれない。


「アイツがアンタに許してたことの重み、知れたんじゃないの?」

「え……?」


 弱点を預けるなんて、ふつう気の置けない相手にしかできない。


 ゲルダの早口に、思わず頬が緩んだ。


 もしドラグがそう思ってくれていたら、“推す者”冥利に尽きるのだが。


「それって、ゲルダも私に気を許してくださっているということですか?」

「アンタ……丸焼きにされたいの?」


 でも、そうすると――。


「……“仕返し”って何だったんだろう」

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