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反逆の心臓  作者: だいふく丸
35/41

第5話【5】

 プ、プ、プ、ポン! ランプが全て点く。


 スタートラインから勢いよく銀狐の山車が飛び出す。


 スタートダッシュを見事決めたのは、優勝慣れした心霊保安官たちのおかげだ。


 快足を飛ばし、春風を吹かせるシルバー・フォックス号はあっという間にゴールラインを通り過ぎる。「速い、速すぎる……ッ!」


 ストップウォッチを押したスタッフは仰天し、すぐさま審判団へと報告だ。


 報告を受けたスタート地点の進行役が興奮したままマイクを握った。


「王子神社チーム、シルバー・フォックス号、ただいまの記録……二分二十二秒!」


 おおおー、と全国から訪れた山車レースファンたちから歓声が上がった。


「王子神社チーム、とんでもないタイムを出したぞっ! 今年もレコードタイムを更新だあ! さすが前回覇者は違いますね。解説の三橋会長いかがでしょうか?」


 赤羽ルンルン商店街の全長は約三百メートルだ。


 レースは三人一組で山車を担いで走る。上位陣のタイムは三分半だ。


 だが、三連覇中の王子神社は違う。勝つことだけを考えた結果、山車に乗せる狐の人形を発泡スチロールにして軽量化、木材と装飾をできるだけ簡素化したことで、先頭を務める静河恋斗しずかわれんとがもはや一人で担いで走るスタイルに決着した。そう、彼は異次元の逃亡者となったのだ。


 司会の絶叫を聞いた赤羽神社チームは絶望を突き付けられた。


「うわー、終わった! こんなゴリラで勝てるわけねーって!」


「大丈夫だ、聖夜。レッドウイング・ゴリハルコンが空を飛べば勝てる!」


「こんなゴリラじゃ飛べねーよ!」


 希望を語る林手一平に、隊長の近藤の代理選手、大島翔太が吐き捨てた。


「んなわけねーだろうが! 終わり終わり、もう棄権しよーぜ。つーか、こんなクソ重いゴリラ抱えて三百メートルも走りたくねーわ。つーか、何キロだよこれ?」


「百キロです」


「おっも?!」


「ほーん。心霊公安官さんは、か弱い男の子なんですね。一人で棄権してどーぞ」


 と、挑発するのはグリーンパーマの芦田聖夜だ。毛先を指先でくるくる回す。


「んだあ? じゃあ、保安官さんはコレで勝てると?」


「ムリです!」


「はあっ?! じゃあ、なんで作ったんだよ、このゴリラ」


「僕がゴリラを愛しているからですよ」


「フン。愛だの恋だのって、近藤に毒されたのか。じゃあ、パーマのお言葉に甘えて俺はパスするぜ。負ける戦いはしない主義なんでね」


 真上から、神座に着席したアカバネノカミが問いかける。


「逃げるのか、お主。それがお主の美徳なのか?」


「アカバネノカミ、逃げじゃない。分別だ。赤羽で恥はかきたくねーのよ」


「んだよ、大島少佐はだっせーな。兄貴なら、全力出して顔面からヘッドスライディングしても、いい思い出だぜって笑って楽しむのに」


「あんな反逆者なガキと一緒にすんじゃねーよ。グリーンサラダ」


 グリーンサラダとは、聖夜の髪型を揶揄している。彼は生まれつきのパーマだ。


「あん?!」


「少尉が少佐に喧嘩売るのか? お前、近藤から反逆の方法でも教えてもらったのか?」


「上官バカにされて黙っているほど、人間できてねーんだわ。人買いがッ!」


「チ! もう一度言ってみろよ。保安部に抗議するぞ」


「何度でも言ってやるよ、ひと」イテッ!


 聖夜の頬に何かが当たった。足元には食いかけのフランクフルトだ。


「そこまでにしとけ、アホンダラッ!」




 ポロシャツ姿の片腕の男、沖田翼おきたつばさだ。フランクフルトを投げた犯人だ。


「民間人の前で醜態さらすな。護神庁の恥だぞ、てめぇら」


 男は護神庁心霊保安部所属だが、現在は出向中の身で警視庁刑事課の管理官を務めている。心霊公安部と保安部の不仲を知る男でもある。


 ラフな格好なのは祭りのために休みを取り、三船未来の様子を見に来たからだ。


「沖田さん、すいません……」


「聖夜、お前の生い立ちは理解している。だが、二度と公安官をそう呼ぶなよ。次は始末書じゃ済まねぇからな」


 保安官は肩をすくめて平謝りだ。「すいません……」


 反省を示す聖夜に対し、大島は胸を張ったままだ。意地でも謝罪しない。


「それと、口だけのお前。代われ、俺が担ぐ」


「いやいや、沖田大佐は片腕なんですから、無理しないでくださいよ」


「舐めるなよ、バカ。近藤の代わりぐらい、この右腕一本で十分だ」


 地面に落ちた串を拾い、なんと食べた。そして、空串を山車に向ける。


「ほら見ろ、このゴリラだって俺がいいって言ってるぜ?」


 どんどんどんどん! ゴリラが胸を叩き始めた。


「あわわわわ! 落ちる落ちるって!」


 背中の神座にいたカミが揺れに怯え、ころころころ……すとんっ!


 沖田の足元に、アカバネノカミが転がり落ちたのだ。民間人には見えないが。


「なにやってんだよ、ばーさん。足腰よえーな!」


 聖夜が唖然とした顔で黒い怪物を指さし、怯えた声で沖田に伝える。


「おおおお、沖田さん?! ゴリラが、ゴリラが動いていますよ?!」


「はあ?! 何を言ってんだ、聖夜。ゴリラが動くわけ、ってマジかよ?!」


「うおーっ! ジョー・マンジールが動いたぞおおおおおおおおおおおっ!」


 メガネを放り投げて万歳をする同僚保安官の頭を叩く。


「喜んでいる場合か、一平ちゃん! 聖夜、止めるぞ、いいから止めるぞ!」


 赤羽商店街前は、突如現れたゴリラの怪獣ゴリハルコンでパニックに陥った。


 なぜゴリラ人形が勝手に動き出したのか、修理に秘密があるのだが、詳しくは赤羽中央公園を訪れた、傘をさすゴシックドレスの女だけが知っている。


「フフフ。あなたたちはゴリラと遊んでて。理沙ちゃん、御守りよろしく」


「ヒミコちゃん、まかせとき! よしゃ、大三元や! おっちゃん、麻雀も下手クソやね。儲け、儲け!」


 と、傘を預けて魔界へと吸い込まれた。

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