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反逆の心臓  作者: だいふく丸
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第3話【4】

 赤羽第一小学校がある飲み屋街入り口には黄色のテープ、警察によって規制線が張られ、その内外では騒ぎを聞きつけた保護者が避難したわが子を介抱していた。


「ガキがバカしやがって。大人なら、酒飲んで愚痴でも聞いてやるのによ」


 野次馬の、昼間から酒を飲んでいた酔っ払いたちは規制線の外に追い出され、屋上にいる少年の安否をチーズかまぼこ片手にカップ酒を飲んで見守っていた。


「ラブ助、こっちだ!」


 正門前、灰色制服の男が手を挙げて、カウボーイの男を呼んだ。


 ラブ助と呼ぶのは心霊公安官かつ旧友の桜ノ宮勇月しかいない。


「勇月、なんでいるんだよ」


「パトロール中だったんだよ」


 彼は駅周辺をパトロール中に騒動を聞きつけ、近藤を待っていた。


「先生、何が起きたんです?」


 近藤の問いに、学年主任の女が答える。


「六年生の生徒が一階の扉に激突して、血だらけになって病院へ運ばれたんです。その事故は自分のせいだって、町岡くんが飛び降りようと……」


「町岡くんって……町岡球理くんですよね。逆位の心臓の子ですよね?」


「そうです! こんな力いらないって……たぶん霊能力のことかなって」


 主任が指さすほう、五階の屋上で男子生徒が立ち尽くしていた。


 望遠鏡で覗くと、やはり見覚えがある少年だった。


 桜の額当てが太陽に反射する心霊公安官が保安官に訊く。


「ラブ助、あの子を知っているのか?」


「逆位の心臓の子なんだよ。野球が好きな子で、赤羽の天才二刀流少年って呼ばれて いるんだ。まだ霊眼は開眼していないんだけども」


 校舎内から漂う邪悪な霊気に気づいた近藤は目に力が入る。なぜ旧友がすぐに助けず、自分を読んだのかを理解した。


 先に駆け付けた警察官から事情を聞いていた白石に望遠鏡を渡す。


「白石警部、念のために神社のゴリラを呼んでおいてください」


「神社のゴリラって……一平くんですね。わかりました!」


 と、女刑事はスマートフォンで応援を呼んだ。


「よし、ラブヘルパーの出番だな!」


 カウボーイは両頬を叩いて気合を入れる。ハットの紐を結び直し、リストバンドの『LOVE』という刺繍と、右手中指のハートの指輪を見ることで美徳を整える。


「反逆者のガキな俺を受け入れてくれた赤羽の子供を守るためなら、喜んで心臓を捧げてみせよう。弱きを助けて強きを挫く、慈愛の美徳を重んじる愛の戦士ことラブヘルパー、ただいま助太刀いたす!」


 キラリン、華麗に戦隊ポーズを決めた近藤とは対照的に、女刑事は冷ややかだ。


「近藤さん、急にどうしたんです? そんなダサいポーズしちゃって」


「気合ですよ、き・あ・い! じゃ、ちょっくら助けてきます!」


「待て、俺も行く。校舎内に何かいるからな」


「さすがに気づいていましたか。さすが、桜の王子様ですね」


「王子と呼ぶな、ただの少佐だよ、俺は」


 二人は同時に合掌した。《心霊開眼》


 霊体となった近藤は腰のガンホルスターから愛銃のマグナムを抜き、校庭から校舎へと侵入する。


 全生徒は飛び降り騒動で避難済みだ。校舎内は静かだが、どこか肌寒い。階段で二階、三階、四階へと駆け上がっていく。


「あら、桜の子犬が一緒とは驚きね。お散歩かしら?」


 四階から五階に上がろうとしたとき、四階廊下から声がした。


 二人が声の方へと顔を向ける。ポツリ、ぬいぐるみが置かれていた。


「ワンちゃんには首輪をつけるものよ、ラブヘルパーくん」


 ウサギのぬいぐるみ、オレンジ色、艶のある女の声だ。


 二人は確信した。公安官が訊く。


「御多福幸子おたふくさちこ、そうだな?」


「違うといったら、どうするの?」


 肯定する返事だろう。二人は顔を見合わせた。確信をすり合わせる。


 桜の額当てと護神隊手帳を向け、心霊公安官がウサギに告げた。


「護神庁本庁所属、心霊公安官、桜ノ宮勇月だ。GFE教団元幹部、御多福幸子、殺神隊に関して聞きたいことがある。護神庁までご同行を願おう」


「まさか、ぬいぐるみを捕まえるの? 頭おかしいんじゃない?」


「ぬいぐるみだが、分霊転身のまま封霊すれば居場所の手掛かりとなる」


《霊力解放》《桜ノ流儀 桜吹雪》


 勇月は合掌し、霊力を解放した。ニンジャの術式が刻印された両腕の小手から、おびただしい桜の花びらがウサギに噴射された。廊下は雪まみれだ。


 近藤は奇襲の忍術に文句を垂らす。


「アイコンタクトぐらいしろよ、危ねーだろ!」


「敵を騙すなら、まずは味方から。それがニンジャのやり方だよ、カウボーイ」


 ウサギは雪に覆われ、雪だるまのよう固まった。


「やったか?」


「そんな訳ないでしょ、ラブヘルパーくん。愛の力は氷なんて簡単に溶かす」


 雪だるまから熱気が、邪悪な霊気が蒸発していき、雪が溶けていく。


「紳士な王子様かと思ったら、意外とオラオラなのね」


「いーや、勇月はオタクな王子様だ。しかも、護神庁のアイドル好きだ。妹の同期生アイドル、しかも未成年に片思いしちゃって、恋焦がれる男の子なんだよ」


「なにバラしてんだ、ラブ助! 相手は殺神隊のボスだぞ!」


 旧友の顔も耳も真っ赤だ。


「へー、桜の子犬にも可愛いところが」


 バンッ!


 一発の銀色の弾丸がウサギの顔半分を吹き飛ばした。


「敵を騙すなら味方からなんだろ? 片思いも少しは役に立つんだな」


「今の話、愛月には絶対言うなよ! 言ったら、一万年氷漬けの刑だからな!」


「それは断る! 俺は田岡くんを助けに行く! あとは頼んだ!」


 心霊保安官は心霊公安官に任せ、屋上へと向かう。


 勇月は更なる忍術を唱える。《桜ノ流儀 桜之氷結界》


 さきほどの桜の花びらが五芒星の結界となってウサギを囲い、絶対零度で凍らせた。

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