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反逆の心臓  作者: だいふく丸
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第2話【6】

 この子、絶対モテるよな……。


 心霊相談で赤羽神社を訪れた女子大学生に、白石美空がそんな感想を抱いた。


 名前は古野桃香ふるのももか、赤羽駅付近の大学に通う経営学部三年生だ。 


 小柄なおっとりタヌキ顔の愛らしい雰囲気だが、どこか哀愁を漂わせており、男はほっとけないだろうな、と女刑事が思ったのだ。


 古野は首の痣、絞められた痕をカウボーイハットを被る心霊保安官に見せ、花柄スカーフを巻き直した。その近藤が古野の話を進める。


「最近、その金縛りに遭うということですが、心当たりがないと」


「はい。ここ一週間前から、ちょくちょく真夜中に息が苦しくなって。でも、こんなこと初めてで。ネットで調べて、盛り塩をしたんですけど、効果がなくて」


 盛り塩で効果がない、悪戯好きな心霊の仕業ではないようだ。


「一週間前ってことは、まだ春休みですよね。心霊スポットでも行きました?」


 古野は思い返すも、そのような場所には近づいていない、という。


「私、怖いの嫌いなんですよ。デスサンタの映画とか、そういうのがダメで」


「お化け屋敷は?」


 白石が話を折る。「お化け屋敷って、危ないんですか?」


「うーん、危なくはないんですけど、心霊には住みやすい場所ですよね」


 古野は首を振るう。「お化け屋敷も苦手で」


 メモを取るカウボーイは、まじまじと相談者を見つめ、断りを入れて清水スプレーを吹きかけた。清水スプレーは、日々の生活で穢れた心霊を慰霊する効果と、人間に憑依した霊をあぶりだす効果がある。


 結果、古野は咳込んだ。丁重に謝罪する。


「すみません……やっぱり憑いていないんですよね……」


 霊道士は霊眼にならなくとも、霊気は肌感覚で察知できる。古野からは邪悪な霊気を感じない。小指で鼻をぽりぽり、女刑事が思いついた。


「あ、事故物件とか?」


「住んで二年になりますけど、金縛りなんて経験ないです」


「では……古野さんが嘘をついているか、お家にいるか、ですね」


「う、嘘はついていないです! 首の痣、見せたじゃないですか!」


「勘違いさせてすみません。たまに自作自演で悪霊がやったと嘘をつく人がいて」


 白石がまた口を挟む。「え、何のために?」


「霊道士への詐欺行為です。具体的に話すと、占星術師の言う通りに部屋を模様替えしたら金縛りにあって怖い思いをした。SNSに書かれたくなかったら慰謝料払え、です。サイトに書かれたら面倒ですから」


「ひどいな、それ……」二人はしかめっ面だ。


「心霊案件は弁護士も対応しづらくて。ちなみに、自分が摘発した事件は悪徳霊道士が人気の同業者に嫌がらせしたケースでしたね。わざわざバイトを雇って」


 古野が疑問を投げる。「犯罪って、心霊だけが原因じゃないんですね」


「万引きがわかりやすいですか。癖でやっちゃう人は心霊ではなく、性格と習慣の問題なんです。麻薬も心霊汚染だったが、常習化して性格の一部となって、さっきのスプレーをかけても無意味というか、治らないというか。心霊を言い訳にする奴はいますけどね。それも無意味ですけど」


 女刑事が有名な広告文で補足する。「お疲れなあなたにソウルケア、ですね」


「ですね。意識的なストレスは日常の嗜好品で解消できるんですけど、無意識的なストレスは霊魂にたまって心霊汚染につながり、ある日突然、凶悪犯罪を起こす。たまには非日常感、旅行やライブ、お祭りに参加して発散してほしいですね」


「あー、ハレとケってやつですね」


「ある日突然って、昨日の立てこもり事件のような事件ですか?」


 女子大生の問いに、近藤は女刑事の横顔をちらり見る。


「そうですね。無意識なストレスがカルト団体を惹きつけます」


「えー、怖いな」


「近藤保安官は、立てこもり犯がそのストレスから爆発したとお考えなんですか?」


「白石刑事は、依頼人のお話に集中しましょう」


 女刑事は隙を見て立てこもり犯の情報を引き出そうとするも、軽くあしらわれた。


「古野さんの金縛りを解決するには、お家に行く必要があります。よろしいですか?」


 依頼人は了承し、《心霊事件捜査依頼書》に必要事項を記入していく。


「白石さん、付いてきてもらっていいですか。依頼人が女性なので、男一人で行くのはトラブルの元なのです」


「トラブル……あ!」


 ふと、トイレ全裸事件を思い出す。たしかに危険だ。


 二つ返事で了承し、刑事と保安官は古野桃香の家へと向かった。




 心霊保安官の証、濃緑色の制服を着ているものの、カウボーイハット、護神庁の紋章である丸の中に五芒星を刺繍したマントを羽織る男に、隣を歩く女子大生は疑問を口にした。


「あのずっと疑問なんですけど……ラブヘルパーってなんですか?」


「ラブヘルパーとは、愛で人を助けるわたくしの名前そのものですね」


 と、右手中指のハート型の指輪を示す。慈愛の美徳を誓う指輪だ。


「なんで、そんないかがわしいネーミングに? 普通でいいじゃないですか」


「諸事情で、ラブヘルパーを名乗らないといけなかったんです。赤羽神社に配属されてからラブヘルパーですから。今年で早四年ですね」


「大学で、赤羽神社のラブヘルパーはヤバい奴だって噂があったので、どんな人なんだろうって思っていたんですけど、ちょっと安心しました」


 白石はさきほどのトイレ全裸事件を思い返す。ヤバいというより、変態だと。


 一方、近藤は自身の生い立ちが頭を過ったようだ。


「なるほど。ヤバい奴って俺の父親の件かな? 大統領暗殺事件」


 ドキリ、古野は苦い顔をする。近藤が気遣う。


「そんな顔しなくてもいいですよ。俺が人を助けるのは、大罪を犯した父親の、近藤家の贖罪ですから。ラブヘルパーを名乗るのはその戒めです。父親がなぜ事件を起こしたのか、世間の皆様に伝えないといけないですから」


 近藤の本心は父親が本当に大統領を殺したのか、事件の真相を明らかにしたい。世間ではテレビ番組で触れることはなく、教科書にも載らない、すでに終わった事件だと思われているが。


「辛くないですか、それ。自分を否定しているようで」


 白石が話の流れからか、気になることを尋ねた。昨日の事件から彼が気になり、ネットで素性を調べていた。暗殺事件後の誹謗中傷じみた週刊誌記事から、赤羽神社に所属後のラブヘルパーお手柄記事、新聞記者とのインタビュー記事まで読んでいた。


「うーん、ウンチを投げるゴリラの気持ちがわかりますね」


「え、ウンチ?!」


「知りませんか? 動物園のゴリラってウンチを投げるんですよ。一平ちゃん曰く、暇つぶしに投げるらしいんですけど、逃げる人間の反応が面白いらしいです。ゴリラじゃなくてもいいんですけど、動物園の動物たちの気持ちですか。世間の関心のために生きているような見世物、おもちゃ。芸人みたいなもんですかね」


 近藤は加害者遺族の現実を話している。白石も警察官として遺族の現実を知る。


 あー、古野が納得する。


「芸人さんだから、カウボーイなんですね! ハンバーグが好きとか?」


「違います! カウボーイなのはマグナムがカッコいいからです。マグナムを回しながらホルスターに収める仕草とか、こんな風に」


 と、腰に巻くガンホルスターからマグナムを取り出し、実演して見せる。


 古野は拍手を送るも、白石は異論を唱える。


「えー、刀を回す方がカッコいいじゃないですか。サムライの方がモテますよ」


「うーん、ノーコメントで」と口を濁す。刀を捨てた記憶が過ったから。


「では、そのマントは? 夏でもそれをするんですか? 暑くないんですか?」


「夏は悪霊退治のときだけですね。このマントは結界で、もしもの……」


 古野が立ち止まって、指さした。


「すみません。この団地です!」

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