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私の中のリアル  作者: 五月雨
Account-List 3
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Say hello to everyone,so……bye.

 電光石火だった。壁を打ち抜き、少女の元に辿り着くまで。


 低く屈み、小脇に抱える。そして自分の開けた大穴から離脱。窓を破ろうと思えばできるのだが、余計な力を使いたくないとでも云わんばかりに。


 それが侵入者――浅黒いレオンの失策だった。少女を護ろうとする者達に、考える暇を与えてしまった。彼女らの利害は一致している。このままケイトに盟主の影武者を続けさせること。居合わせた一人、イスカが議論の口火を切った。


「…妙な場所でお会いします。あなたは西へ向かったはずでは?」


 これは連合の意思かと、言外に問うている。しかし、そうではないとも分かっていた。何かを頼まれたとして、根底にあるのは必ずレオンの意思。自分を含む大多数のごとく、お金や暇潰しのために遊んでいるのとは違う。


「……巻き込まれたあなたには、知る権利があるかもしれないわね」


 一瞬足を止め、レオンは前を向いたまま呟いた。


「でも時間がないの。今は行かせてもらう」


「Freeze! Yes,you……」


「行かせないよ!」


 ウゥヤの手が空を摑む。窓を警戒するえりっちの読みも外れた。完成前に大きく動かれると言霊は効果を発揮しない。異常な瞬発力を持つレオンならではの離れ業だ。化物だったことを忘れるなど、この期に及んで油断を思い知らされる。


(あの人は……っ!)


 命の恩人が、こうも不愉快な理由。多少のことは目を瞑れる。だが、これはない――舌打ちしたイスカは、ようやく答えに思い当たった。


 一人で抱え込もうとするから。辛いことや苦しいことを全部。父ハンス、ウゥヤについても同じことが言えた。今では二人とも、昔より打ち明けてくれるようになったのに。


「追いかけましょう。まだ近くにいるはずです」



 ☆★☆★☆★☆★☆



 火の雨を降らせる。集中的に。連続的に。三次元的に。攻撃は最大の防御――昔の人はよく言ったものと、アスランは思う。


「『焔の息よ。我創り出さむ、大いなる輝きの緋扇』……」


 絨毯爆撃で足を止め、火力を集中させる作戦だ。言霊は牽制、自走端末によるオート射撃が本命。反撃はなく、今のところ思惑どおり進んでいる。それでもアスランの額は冷や汗を浮かべていた。


(早く。急いで。お願い……!)


 力と恃むビット達を激励する。


 周りを漂う二枚の正六角形。左右に一つずつ、盾の役割を果たしている。裏側から射出された球体は特殊合金製。水のように形を変え、また周囲の景色へ溶け込む。戦うときは光線を使い、設計者の敵を燃やし尽くす。


 明らかに異質だった。中世や現代はおろか、近未来エリアでさえ。誰かがやってくる前に、決着をつけてしまわねばならない……


 土煙が晴れ、半ば予想していたものが現れる。無傷のレオンと盟主もどき。


 このまま続けても周囲のマナを喰い尽くすだけ。となれば戦力以外の要素――互いの事情が勝敗を決める。時間の余裕が少ないのはどちらか。


「素敵な玩具ね。誰が造ったの?」


「自分だよ。買ったり貰ったりしたわけじゃない」


「教わったのね。ラフィニアに」


 話の間も攻撃は続いた。ランダムで連携し、予測撃破率が六十パーセントを下回った時点で次のパターンへ切り替わる。マナ切れか目標が沈黙するまで止まらない。


 レオンは舌打ちした。『断絶』の結界を張れば攻撃は防げる。しかしそれでは離脱できないし反撃も不可能。相手は軍用レベルの補助端末を使っている。マナの凝縮効率、術式構築速度、最大火力。どれを取っても比較にならない。アラヒトガミのクラリス本体ならば、まだ戦いようはあったかもしれないが。


 ここへは手掛かりを求めて来た。二十四時間お飾りとして眠り続け、連合が存亡の危機に陥ったとき目覚めて外敵を掃う自律型NPC――連合皇帝スペイディア。


 その彼を叩き起こしたところ、創造主はワヤドの町にいて少女の姿をしているという。そこで見つけたのがケイト、しかしどう考えてもスペイディアと同じ自律型のインカネイト。担がれたのではと疑いつつ、強硬手段を選び続けて現在に至る……


「西の街道で会ったときから、怪しいとは思っていた。知らないはずが憶えている。一度や二度ではなく、似たような場面を繰り返して」


「……ディフェンスビット、パターン9。押し切りなさい」


 六角形も攻撃に加わる。搦め手が増えたことで、徐々に攻撃が当たりはじめる。レオンの右肘を直撃、関節があり得ない方向に曲がった。


「あの子は、何を恐れているの?知っていたら教えて。私はニアと戦うつもりなんてない。今でも友達だと思っている」


「………………っ!」


 赤い光がレオンの身体を十字に貫く。マナが薄くなっており、か細い線しか出せなかったが、それでも死にぞこないを打ち据えるには充分だった。地面に投げ出されたケイトが目を覚ます。寝惚けた瞳は何も映さない。浅黒いレオンは血の海に沈んだ。


 三十八個の球体が六角形の裏側へ収納されてゆく。二枚貝の形を取ると、光学迷彩が働いて主の目からも見えなくなった。


 レオンの瞳孔が開いているのを確認、安堵の溜息を洩らす。これなら多分、納得してもらえる。子供まで殺すとなると、ゲームの中にしても悪役度が高すぎる。


「…アスラン?」


「っ!」


 魔界伯爵が瓦礫の上を歩いてくる。陽動後も近くにいたらしい。声を聞いたとき、楽園侯爵は作戦の失敗を悟った。


「どういうことだ。これはお前がやったのか……?」


「…………………」


「イスカとえりっちはどうした。まだ中にいるのか?」


 侵入者を倒した。そう説明すれば、この場は切り抜けられるだろう。だがあの二人は、ここまでやると思わなかったはず。


 何よりビットを見られた。力を好む同盟では、他のアライアンス以上にチート行為が嫌われる。事実かどうかは関係なかった。火のないところに煙が立ち、背鰭と尾鰭がついてくれば。あとは勝手に独り歩きを始めてしまう。


「その子が盟主だな。まあ、いつもとは雰囲気が違うか」


「……………………」


「何とか言え!黙っていては分からん……」


(あと一匹。そちらも片づけてください)


 それはエルネスタも殺すことを意味する。もはや『親衛隊』のアスランではいられない。いや見られてしまった以上、どちらにしても同じこと。


「……ごめん」


 赤い条光が降り注ぐ。


 楽園侯から魔界伯へ、陰惨な別れの挨拶だった。

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