どちらが正義か
「最強…ですか?」
ルシアはロレスに聞き返した。
「そうだ。俺たちは父さんとルノをさらった奴らを倒すためには、それぞれの分野で最強の名を持つ人物、その人物の子孫を仲間にしなきゃいけないんだ」
ロレスは真剣な眼差しで、ルシアに言い放った。ルシアはロレスの強い気持ちを感じ取り、軽く微笑んだ。
「それなら、早くここを出ましょう。私はもう準備はできていますから」
ロレスはそんなルシアのもとに歩み寄り、頭を撫でた。
「ありがとな…ルシア」
「えへへ…」
ルシアは照れ臭いのか、頬を赤く染め、照れ笑いを浮かべた。
「よし、それじゃあ行こうか」
「はいっ!」
2人がテーブルに置いてあった荷物を手に取り、椅子から立ち上がった途端…家の屋根が轟音とともに吹き飛ばされた。
「きゃっ!!」
ルシアがよろめき倒れそうになったが、ロレスがしっかり支えた。
「お久しぶりです…いえ、貴方からしたら〈はじめまして〉…ですかね」
ロレスとルシアが空を見ると、二つの影が見えた。どうやら翼からして、悪魔種族であることがわかった。
「誰だ!」
ロレスはよく通る声で2人の悪魔に言い放った。2人の悪魔は、ロレスの声に臆することもなく、静かにロレスとルシアの前へ着地した。一人は男で、もう一人は女であった。
「我々2人は、貴方の父親であるランス・カークローを捕らえた者です」
着地一番、男の悪魔がそういった。
「なに!?」
ロレスはいきなりのことに驚くとともに、相手に掴みかかりに行っていた。しかし…
「うわっ!?」
あと少しだというのに、見えない壁によって行く手を阻まれた。
「まーまー、そんなにアツくならないでよねー王子ちゃん」
見えない壁を作ったであろう女の悪魔が、そんなロレスを見て小馬鹿にしたような笑みを送ってきた。
「なんなんですか、あなたたち!!」
ロレスを小馬鹿にしたことにルシアもさすがに怒り、悪魔2人に言い放った。
「だーかーらーっ、私たちはランス王をさらった張本人だっていってるじゃん。もしかしておバカちゃん…?」
しかし、アミーリは怖がるそぶりなど全く見せず、ルシアを小馬鹿にした。
「この…っ!」
ルシアを馬鹿にされたことに今度はロレスが怒り、アミーリに突撃していった。
「やんっ!押し倒されちゃう勢い…身体がアツくなっちゃーう!」
アミーリは余裕の表情で、少し頬を赤らめた演技もし、ロレス挑発した。
「じゃあ、こういうのはどうでしょう?私とルシアさん、アミーリとロレス王子で、軽く対決してみませんか?これだけ血の気が多いと、少し力でねじ伏せなければ言うことを聞いてもらえそうにありませんし」
アモルは敵意をむき出しにする2人に手を焼いたのか、そういった提案に乗った。
「いいだろう…正々堂々勝負してやるよ!」
ロレスは即答で相手の罠にハマってしまった。もちろん、ルシアも罠だとは全く気付いてない。
「決まりましたね。おっと、まだ名乗っていませんでしたね。私はアモルと申します。お見知りおきを…」
そういって、男の悪魔のアモルは右腕を胸の前に出し、深々とお辞儀をした。
「私はアミーリ!よろしくねーっ」
女の悪魔のアミーリは、軽い感じでウインクをした。
「俺たちの名前は知ってるみたいだな。じゃあ始めよう…」
ロレスはそう言い、戦闘態勢に入った。
「ルシア、無理はするなよ」
「大丈夫です!」
ロレスとルシアはお互いを気遣う言葉を交わし、それぞれ敵の元に向かった。アモルとアミーリはお互いを横目で見つめ合い、そのまま敵の者へ向かった。
まずはロレスとアミーリが向かい合い、少し離れたところで、ルシアとアモルが向かい合った。
「では、始めましょうか」
アモルのその声とともに、ロレスとルシアが真っ先に動き出した。2人とも魔法を使い相手に立ち向かった。一方のアモルとアミーリは、それぞれ魔法を余裕の表情で受け流していた。そのため、ロレスとルシアは一方的に魔法を使い、体力を消耗していくだけであった。
「おやおや、先に言い出した割には、随分と息が上がっていますね」
「ほーんと、私たちなんて息が上がるどころかあくびが出ちゃーう」
アモルとアミーリは、さも退屈そうなそぶりで、ロレスとルシアを見下した。しかし、ロレスとルシアは怒る気力もないほど疲れていた。
「大丈夫ーっ?」
そんなロレスにアミーリは近づき、抱き寄せた。ロレスは抵抗することもできず、アミーリの身体が押し付けられる形となった。ルシアはそんな光景を見て怒りながらそちらに向かおうとした。
「まったく、貴方の相手は私ですよ」
しかし、アモルがルシアの目の前に光線を放ち、ルシアは驚きで硬直してしまった。
「王子ちゃんってまだルシアちゃんに手出してないっぽいねー!じゃあ、私が先に色々なコト教えちゃおっかなー」
ルシアは悪戯っぽく笑い、さらにロレスに身体を密着させ、キスをしようとした。
「だめーーっ!!」
ルシアが叫んだ。まさにロレスとルシアの唇が合わさりそうになったその時…なぜか、アミーリの口から赤い液体が流れ出ていた。
「な…に…これ…」
アミーリは、つぶやくと同時にロレスから離れた。アミーリの腹には、深々と剣が突き刺さっていた。全員がそれを見たところで、アミーリが大量に吐血した。
「くっ…」
この事態に真っ先に動き出したのは、アモルであった。アミーリを抱き抱えると、すぐに剣を引き抜いた。おびただしい量の血が、アミーリの腹を濡らした。
「くっ…これはマズイですね…」
アモルはとりあえずアミーリを安静にさせ、治癒であろうか、魔法のようなもので応急処置を行った。
「まったく…王子ともあろう者が不意打ちですか…」
アモルは、心底残念そうといった顔でロレスを見た。
「それがどうした…!」
ロレスは悪魔を攻撃したことに対し、自信に満ちた顔で答えた。
「貴方…最初に正々堂々といったのを覚えていますか…?」
アモルのその言葉に、ロレスは固まった。喜んでいたルシアも、表情が一気に曇った。
「その様子だと、まったく覚えていないようですね。まったく…自分の言ったことを実行できないとは…それでも王子ですか?」
その言葉に、自信に満ちていたロレスはがっくりと膝を追って倒れた。
「それに、あなた方の戦いは、我々にとっては目をつぶっても余裕があるほどです。それで勝てると思って勢いだけで我々に攻めてきたとなれば、それは間違いです」
ロレスとルシアは、既にアモルのペースにハマり、何も言い返せなかった。
「我々もお二人と良い戦いができると思い、楽しみでした。しかし、こんな結果に終わるとは残念です」
アモルは一通り言い終わると、アミーリを抱き抱えた。
「次に出会う時は、もっと満足のいく戦いができることを願っていますよ」
アモルはそう言い捨て、そのまま飛び去っていった。
ロレスとルシアは自分たちの未熟さ、そして敵から色々と教えてもらうということへの屈辱感から、ただ立ち尽くしていた。
「すみませんアミーリ…帰ったらしっかり手当てをしてあげます…」
空を飛行中、アモルはアミーリにそう漏らした。
「大丈夫…だ、よ…?助けて…くれて…あり、がと…」
アミーリは半目を開いて、アモルに笑いかけた。




