もしかして:愛憎 な後編
急いで書いたので文章荒いと思います
おはよう。そして、おやすみ。
ご飯を食べ終わった後の授業はびっくりするぐらいに眠い。
国から重宝されている超能力者がいる、この際腕。乙女ゲームの中では購買などではなく、ご飯は勿論食堂と言われるところで摂取することになるのである。いろんな王道の中での大事な場所。それが食堂である。
初っ端から王道を強調しているのには訳があって、つまり王道のようにうざくて嫌われている「ハーレム員」が、今食堂で王道な修羅場をしているわけであります、まる。
「ちょっと、ゆっくんに馴れ馴れしくしないでよ! アンタみたいなブスに付きまとわれて、ゆっくんが迷惑していることに気付かないわけ?」
それは自分のことを言っているのだろうか。
「あら、本当かもどうかも分からない約束を押し付けている貴方に言われたくはないわ」
自分の気持ちを押し付けて、今まで人を排除してきた君が言うかな。
今朝のことである。転入生を紹介する、と最早お決まりである聞きなれた言葉を吐いた担任。その顔は歪んでいて、生徒に、ああ、またか、と思わせるのは簡単だった。生徒に人気の担任――攻略対象である霧咲綾人がこんな表情をする時は、大体その紹介する転入生とやらが「ハーレム員」になる生徒だからである。
なんでも、今回の異物はどこから持ってきたキャラだろうと、あっちゃん。
淡い銀髪に碧眼の彼女は、何号めか数えるのが面倒な〝トリップ主〟の城田メイ。ハーフだとかなんだとか。
それで今回の設定は、ハーレム男または女から男へ性転換転生をした成り代わり主、鏑木由貴と昔出会い、将来お嫁さんにしてくれるとかいう約束をしたらしい。
鏑木由貴よ、実は乙女ゲームじゃなくてギャルゲーの主人公だったりする?
――――――まあ、違うことは知っているんだけど。
不快な喧騒を聞きながらの、食堂。
で、今はその時間が終わって、教室。全ての授業が終わった頃だ。
更に言えば、いつもの三人と話しているのだが、どうも遥斗の顔が険しかったり。
「どうしたのよ、遥斗?」
「舞華、ねえ………………ううん、何でもない」
いや、その様子はどう考えても何でもなくないよ。でも無理に聞くのもどうかと思うので、本人が言わないなら無関心でいましょうかね。
そう、と遥斗に返して、ハーレム員を見る。放課後だと案の定、何時ものように鏑木由貴の取り合いが始まる。ああ、声が煩い。でも、ちゃんと見て慣れないと。私はあっちゃんが彼女の標的にならないように、ある程度見張っておかなければならないんだから。
「まい、か……」
後ろで呟いた声を、私は知らない。
※
昔の約束がどうのこうのな転入生が来てから、翌日。
今朝もまだ続いているらしい修羅場の声を聞いて時間が経ち、今は放課後。
放課後と言えば、ちょっと遥斗の様子がおかしかったな、と昨日を思い出す。なんか言いかけていたし、明日まで様子がおかしかったなら、ちょっと声をかけてみようかなと思いながら。私はジュースを買いに、際腕の敷地内にある自動販売機へとレッツラゴー。
そこで、あっちゃんを見かけた。声をかけようと、その体に近付く。どうやら、手洗い場で何かしているようで。
いや、手洗い場ですることと言えば手を洗うことしかないわけで。あっちゃんがあの綺麗で細くて美しいあの手を洗っていたのである。
…………………………………………綺麗な、手?
おかしい。おかしい。綺麗な手のはず。
なのに、今見えているあっちゃんの手は、傷だらけだ。血のにじんだ絆創膏が目にいたい。数が多い。どうして。手を洗っているあっちゃんの顔は、とてもいいものではなかった。目元には涙のあと。口には噛みこんだであろう、血が見えた。
手を洗うことに夢中で、あっちゃんは頭を挟んだ目線の向こうにいる、私に気付いていない。
――――――――――あーあ。
私ってば、本当に駄目だなあ。
何時の間に、もう標的となってたんだろう、あっちゃん。
駄目だ、やっぱり。慕ってる、いや、親友のあっちゃんが傷ついているのを見て、我慢できるはずがない。元々、この世界について知っていて、知らないふりして生きていた私も悪いのだから。こうなることなら、もう目立つのがどうこう言わずに、害のある異物を消しとけばよかった。
あのねえ。私は、憧れに生きる女なんだよ。
女として慕っている、親友として大好きなあっちゃんに手を出して、ただで済むと思ってるの?
「あっちゃん」
落書きされただろう手をずっと洗っていたあっちゃんに声をかけると、びくりとその体が揺れた。
「――――怪我、したなら保健室行った方がいいんじゃない?」
何も知らないふりしてそう言えば、あっちゃんは、そうね、と言って去って行った。そんなに取れないなら、保健室で包帯でも巻いてもらえばいいよ。一日で取ろうとしたら、肌が荒れるよ。
じゃあ、私はその間に異物どもを嵌める計画でも立てようか。
私は、こちらを見ていた視線にも気付かない。
※
あっちゃんが標的となっていることに気付いてから、二日後。今までずっと、あっちゃんを男子二人に任せて、害のある異物たちをストーカーしていた。その中に言わずもがな愛はなく、監視しながら行動を探り、また仕草や癖を学びつくす。
異物全員、はめてやる。
さて、計画実行は明日。失敗したら、自分まで目をつけられる。
狙われていると知らないで能天気なハーレム員と鏑木由貴を見ながら、ふと疑問に思う。
「なんか……減ってない?」
鏑木由貴を取り囲むハーレム員が、二人足りない。
いないのは平凡主の瀬田奈々に男装主の子島結城。
「まあ……いいか」
どうせ気に掛けることでもないよね。
私は、まだ視線に気づかない。
※
翌日。今日はハーレム員全員を嵌めて、学校から追い出す日。
いやあ、びっくりしたよ。まさかテンプレ通りに、傍観主が逆ハーレム狙いを嵌めるために、監視カメラと盗聴器を所有しているだなんて。
嵌め方は簡単。その二つを傍観主であり奪い取り、監視カメラの位置を変える。これはもう、今朝早くに来てやっておいた。場所はこの前の手洗い場。あそこは人があまり通らないから、きっとあのあたりで苛められていたのだろう。
そしてその映像を、既に傍観主がやっていた通りに、学校内に放送されるように策士。これは確認するだけでいい。まさか傍観主は、自分が貼っていた罠に嵌って居場所がなくなるだなんて思っていないだろう。
「舞華、おはよう」
あっちゃんの声。
「おはよう、あっちゃん」
ほくそ笑んで本を読んでいたように見せていた私が、顔を上げる。そこには笑顔のあっちゃん。おお、いつも通り麗しいね。
「それ、何の本?」
「この前話してたでしょ、ほら、チキュウから千年後の世界で、主人公が――」
「ああ、あれか。それ一巻?」
「うん」
「じゃあ、読み終わったら貸してくれない?」
「いいよお」
表紙を見ようと本を掴んだあっちゃんに、そう言いながらページに栞を挟んで本を渡す。一瞬だけ手が触れた。さっと手を避けた時、見えたあっちゃんの手。
……………………………………………………綺麗な、手。
今度こそ、思い描いたような、あっちゃんの手。
「――――え?」
「ん、どうかした……?」
どうして、と呟く前に教室のドアが開いた。入ってきたのは樹生。黒い短髪をガシガシ掻いた後、欠伸をした。その後にようやく私とあっちゃんに気付き、よお、と声をかけてきた。
「おはよう、樹生」
「おはよ、樹生。今さ舞華のこの本のことで話してたんだけどさ、アンタ、これ映画で見たとか言ってなかったっけ?」
あっちゃんが、私が今まで読んでいた本を目で示した。
ああ、それ? そうそう、言ってなかったっけ。
隣で二人が話しているけど、中々に目に入らなかった。
昨日。あっちゃんは一日じゃ取りきれないような、落書きを、手に、された、はず。
無理に消そうとしたら肌がこんなに綺麗なわけがない。
なんで……?
あれ、そう言えば………………………………今日、ハーレム員見たっけ?
「……あっちゃん、」
「なに?」
「今日、安藤さん、見た?」
傍観主で粘着質な安藤美湖。うちのクラスの委員長。
「――――……誰?」
※
何時もの帰り道。私は何時もより、家に着かないようにわざと遅く歩く。
今日の学校の変化。有り得ない。十人近くいたあのハーレム員を、誰も覚えていないなんて。
異物が、いなくなった。
でも全員じゃない。私と鏑木由貴、あとは最強主の今藤さん以外、皆消えた。
今、鏑木由貴の近くにいるのは、同じ立場の攻略対象たちと、ヒロインの羽純さんのみ。
「どうして……?」
お陰で、今日の排除作戦は全てなかったことにされた。
今日、あっちゃんを苛めた攻略対象を、ようやく痛い目見せられると思っていたのに。
でも、本人も周りも覚えてないんじゃ仕方がない。
「――舞華」
遥人の、声。
振り返ると、走ってきたのは少しだけ息を切らせている、遥斗。ふわふわの茶髪が揺れて、思わず撫でたい衝動に駆られた。
いや、しないけども。
「ねえ、舞華? 今日何で一人って帰ったの?」
「いやあ……用事があったものだから、……ごめん」
そういえば、言ってなかった気がする。もしかしたらメールとか電話とか、してたかもしれない。考え事に集中しすぎるというのも難点だね。
「ううん、いいけど。…………ねえ、舞華」
「なに?」
「※※※※※?」
「……え? 何?」
何、今の?
遥人の言葉に、なんか――砂嵐の音が重なって聞こえなくなった。
「ねえ、どうしてずっと※※※※のこと見てるの?」
「は? ちょ、聞こえないんだけど……」
「もう※※※※じゃないのに、どうして?」
あれ、……何かおかしい?
いや、この前からずっと、遥斗はおかしかったけど。今みたいに暗くなかった。
でも今は、なんか、凄く怖い。何でかって言われても分からないけれど。遥斗の青い目を見て――その目が、私を見て据わっていることに気付いて、一歩後退した。
遥人の手が、私の首を掴んだ。
「※のね、※はもう※※から。あの※言った※ね、※※※※※※※※※って……」
「遥斗? ごめん、何、っ?」
首を掴んだ手に力が入る。
息ができないことはないが、苦しいし、痛い。
「俺は※※が※※なんだよ」
「ん、」
「――このまま舞華の首を絞めれたら、どんなに楽だろう」
最後、ハッキリと聞こえた声で、意識を失った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※――
白。
しろ。
白。
しろ。
白。
白。
白。
白しろ白白白。
色の付けられていない線画。
影のない世界。
ただただ、そこは白い世界だった。
俺がその場にいて、何年経っただろうか。もう何百年になるか、――いや、もしかしたら何兆年だったりするかもしれない。
自分で作ったからには快適な空間だけれども、どうやらこの空間――ヴィオは、人間にとっては不快らしい。
時々暇つぶしに人間を連れてきては転生させたり、トリップさせたりするけど。皆が皆、ここは気持ち悪いと言う。
人間と同意見じゃないということは、嘆くべきだ。
人間は神を模して作った、言わば自分の子供である。なのに、感情が同じではないとは、いったいどういうことか。
そろそろ、この空間を不快に感じないものを浚って、語りたいと思っていた。
だから、転生したいと思っているものをてきとうに呼んで、ここに持って来たんだけど。
でも、俺はこんなの望んでないんだけどな!?
「ええっと――――中島良吾くん」
「何だ」
「君、俺のこと呼んだよね?」
「呼んでねえよ」
「あ、あれー……?」
どうして、目の前の人間は、俺の事睨んでいるんだろうね?
神の力を使えば調べることもできるけど、そこまで興味があるものでもないなあ。
「でも、君は呼んだよね?」
「そもそも、お前の名前を知らねえよ」
「でもでも、呼んだでしょ? 神様ー、って」
そう言えば、ようやく彼の目が丸くなった。
うん、うん。人間は驚いた顔が一番いいよね。人間って、大体このヴィオにくれば、その時点で驚き喚くんだけど。彼はここに来ても、俺を睨むだけだったからなあ。
「アンタ――神様?」
「うんうん、そうだよな。そうだよ、俺、神様」
「何、願い叶えてくれるわけ?」
「いいよお。その変わり時々俺の話し相手になってくれるって言うならね」
途端、彼が笑顔になる。
「なら、生き返らせてくれッ!」
「あ、無理無理。誰かは知らないけど、人間生き返らせるのは無理」
「お前神なんじゃねえのかよ!」
「神だけど、万能じゃないんだ。――まあまあ、話は聞くから、取り敢えず落ち着こう」
どうどう、と俺の胸倉を掴もうとした彼を手でバリアー。
馬じゃねえよと言われて、知ってるよと返した。
「それで、誰を生き返らせたいんだ?」
「俺の……………………親友だ」
「滅茶苦茶間があったね! まあいいけれど。親友、ねえ?」
笑ってみせると、彼は不快に顔を歪めた。
「何だ?」
「いやあ、俺、今まで人間の願い叶えてきたけどさ。自分の為の願いじゃなくて、違う誰かの為の願いを言う人って、いないこたないけど少ないからさあ……」
「俺のためでもあるぞ――――――――――殺したから、な」
哀愁帯びた目でそう言ったかと思えば、次には憎悪を浮かべる。目の前の人間は、とても感情が豊からしい。
「成程、死んだことさえなくしてしまおう、と。そう思ったわけだね?」
「――――――それも、ある」
「理由か複数あるってことだね、俺に言ってみる? 叶えてあげるかもよ?」
彼は少し黙った後、小さな声で言った。
「死んでみたかった。死んだら、どうにかなると思った」
「つまり、死んでなかったことにしたかったことがあるんだね?」
「…………ああ、そうだ」
彼は、何もない白の、遠い先を見た。どうもわずかな疲労が見られる。
憎悪に哀愁、そして疲労。何かあった。何が、あった。何かが、あった。
「それで、君の願いは?」
「……叶えてくれるのか?」
「いいよ。でも、さっき言った通りに条件付きだし、生き返らせることはできない」
「それでいい。だが、一つ問題がある」
「なあにー?」
「もう一つ世界を創らなければならない」
「――――ああ、なんだ、そんなこと? 大丈夫だいじょーぶ」
ヒクリと顔を引きつらせる彼。何に驚いたのかは知らないけど、早くしないとこの空間にあんまり長くいると、気が狂ってしまうよ。もう狂っているなら別だけど。俺よく彼のこと知らないし。
「じゃあ、その世界に俺と親友を転生させてほしい」
「うんうん」
「その世界で、自分を設定したいんだ」
「ほうほう。完璧人間になるとか?」
「いや、完璧じゃなくていいんだ」
「うん? じゃあ美形になるんだね?」
「…………まあ、そんなところ」
ちょっと違う、と彼が言った。
「そっか。まあいいや、じゃあ設定内容は?」
「長くなるけどいい?」
「うん、いいよおー」
その時、彼がカッと目を開いた。突然の変化に人間の真似をして後退してみる。
何故か行き成り雰囲気が変わった彼は、一気にまくしたてる。
「顔は勿論美形でカッコいいと可愛いよりもどちっかって言うと中性的で垂れ目の癒し系にしてほしい。髪は金髪に近い茶髪で、フワフワで、その垂れ目は青に近い水色なんだ。睫毛は男にしては長い方で、背も高い方でよろしく。体は見た目華奢だけど実は細マッチョで、性格に似合わず武闘派。性格はほんわかしていて、見た目に合うようなボケッとしているマスコットのようなドジっ子属性を加えた天然。でもテストは満点を普通に取る秀才で、実は腹黒。でもヘタレを素で行くわんこでもあること。血液型はA型。好きなことは遊ぶこと。嫌いなものは秘密。家はそれなりに裕福。将来の夢は作家。得意なことはゲームで連勝。よくやるのは動物に餌をあげること。実は影の超能力を持っていて、それは両親も知らず、知っているのは自分の幼馴染の一人だけ。家族構成は父、母、自分、妹。祖父は生きているが、祖母は生きていない。所属は図書委員会。放課後のほとんどは本を読むことに費やされている。ただ図書から借りたもので、貯めているお金には一切出費がない。ただ一途で貢ぐ癖があって、恋愛はプレゼントから入るタイプ。スポーツは短距離走が一番得意。時々幼馴染のサッカーについあっているため、それもある程度には出来る。家ではハムスターを飼っていて、友人と遊ぶことと本を読むこと以外では、そのハムスターのソラで時間を潰す。ゲームセンターにはあまり行かない方。でもプリクラは知っていて、自宅用ゲームを沢山持っている。家がマンションだから犬や猫は飼っていないけど、基本動物はなんでも好き。休日は眼鏡をかけることも、ヘアピンで前髪をあげることもある。白色のパーカーを三つ持っていて、休日の服装は大体それ。能力の影で盗聴や盗撮、ストーカーすることもできる。そんな設定で名前は――〝赤里遥斗〟であること」
言い終わるとやりきったようで、スッキリした顔になっていた。
そんな彼の言葉に、俺は一つの可能性を頭に浮かべる。
「もしかして、もう一つの世界って……二次元? それっぽい用語が結構あったけど」
「ああ、そうだよ。ちなみに、【対抗デフォルト】っていう、ゲームの世界」
「…………検索にかけてみたけど、それって女の子がするようなものじゃないの?」
「好きなのは俺じゃない。さっき殺したって言った、そいつ」
「ふうん………………つまり、転生が主で世界ちょっとオマケ?」
「いいや、それも結構な主だ。その世界のその設定じゃないと意味がない」
「ええっと?」
「そいつが、その赤里遥斗が好きって言ってたから……」
「…………ああ、成程、ね。了解了解。似て非なる並行世界だけど、もう作られてあるから、いいよ。他に願いは?」
「俺が殺した親友の、その時の前後の記憶を消してほしい。一日丸ごと。俺が成り代わるから、その親友をまた幼馴染にすること。傍にいることについてまったく疑問を勘欺させないこと。あとは――転生ってくらいだから、戸籍はあるよな?」
「もちろん。それだけでいいかな?」
「あと、この前世の記憶。それで以上だ」
安心しきった表情で、彼が胸を撫で下ろす。まさか本当に神が叶えてくれるとは思ってなかっただろうけど、人を殺してその殺した相手が自分の懸想していた相手だとなると、尋常じゃなく焦るだろう。今の彼を、その親友とやらに見せてやりたい。
「――――ねえ、聞いていい?」
「何を?」
「どうして、殺したの? その親友を」
まさか聞かれるとは思わなかったのか、目を瞬かせる目の前の人間。次に目を伏せると、また哀愁を浮かべる。何を言おうとしたのか口を一回開けたが、また閉じる。そして、もう一度開けて、声を出した。
「拒絶、したから」
「何を?」
「俺…………多分、フラれたんだよ」
「あ、もしかして愛憎?」
「……………………愛憎、か。そうかもしれない。でもただの空回りだ。本当にフラれたのかも分からないし」
「分からないの?」
「――――幼馴染だったんだけど、な。ずっと一緒にいると思っていたのはオレだけだったらしい。中学にのぼる時、言われた。勘違いされたら嫌だから、これからはもうちょっと距離置こう、って。意識されてなかったことよりも、離れるって言葉に驚いた」
「ははあ~ん。それで、今度こそ両想いになりたくて、好みの容姿と性格をチョイス、ってわけだ」
囃した声に彼は表情を変えなかった。言われ嘲られることも、それが本当であることをふまえて、ちゃんと理解しているようだ。
頭の中で彼の言うゲームの内容、そして設定。ボロを出さないように、それを自身の設定としたこと。そうなると、彼は自分の人格さえ捨てようとしているらしい。殺すまでの憎しみを持った相手に、よくそこまでできるな。
「じゃあ、君を〝赤里遥斗〟にしてあちらに送るね。対価である俺の暇つぶし、つまり話し相手になる時は大体、君が眠っている夢の間となるよ」
「――――」
もう、目の前の人間は何も話さなかった。
ただ恍惚と狂気を笑顔に混ぜて浮かべ、これから来る楽しいであろう時間を想像する。彼が設定として幼馴染だと言ったのは、生れてからできるだけ早く会いたくなったのか。それとも、自分と世界だけと変えた人間関係を築き、自分が相手にされなかった過去を全て容姿の所為にするためなのか。
…………まあ、どうでもいいけれど。
※
自分を呼ぶ声がして、それが彼だと分かり、彼の夢の中に入った。意識して俺に会おうとすれば自然と明晰夢になるように設定したのが、随分と役に立っているようである。
「――――おいッ! いないのか! おいッ、金髪野郎!」
狂ったように呼び続ける彼の前に、いつもの白装束のまま応答し現れる。
「はいはい、金髪野郎のお出ましだよ。どうしたの、いったい」
――――――今日は随分と、ご乱心のようだけど。
くすくすと笑いながら言うと、彼はようやく俺を見つける。この前までは神様だと言っていたのに、今日は金髪野郎だ。何があったんだか。
彼は設定されたフワフワの茶髪を掻き崩した。
「どうしてッ、どうしてなんだ! アイツが俺を見ない。アイツが、違うやつを見てるんだッ! 俺が、赤里遥斗が傍にいるのにッ!」
酷い取り乱しようは、どうも噂の彼女のことらしい。いや、彼がそれ以外で取り乱すのは有り得ない。思い人を殺した時でさえ、あんなに頭の中は冷え切っていたのに。
やっとの気持ちで吐き出している言葉から察して、その子に好きな人ができたかもしれないということ。見ていると言っているだけだから、もしかしたらただの嫉妬なだけで、色恋は関係ないかもしれないけど。
それでも、彼はそれが気に入らないらしい。
「――――――それで、君は何のために俺を呼んだの? 自分の彼女が自分を見てくれないから、惚れ薬でも出せって?」
「違うッ!」
「じゃあ、なあにい?」
「――――殺したい、殺す! 鏑木由貴を殺す許可をくれ!」
「……………………うん?」
鏑木由貴。確かその名前は、前にそっちへと送った、一人目の転生者の、今の名前のはずだけど。そう言えば、最高神の娯楽で彼は元々彼女だったけど、男になって転生したとか言っていたけど。世界の様子は見てないけど、もしかしたらあの成り代わりが彼の彼女を口説いちゃったり、または勝手にその子が惚れちゃったり、とか。
でも、それは無理だ。
彼女も、彼と同じように他の人間との約束に、守られているから。
「あっはー、怖いねえ。リリスの言っていた娯楽って、実はこれだったりしてな」
最高神の名前と不満を呟く。
「あのね、ええっと、誰くんだったかは忘れちゃったけど。うん、それ、無理」
「どうして!」
「他の転生者と約束しちゃったんだ。彼は、自分以外に殺されないようにしてくれ、って言ってたから、無理だなあ……」
脳裏に自分のよりも淡い金髪が通りすぎる。
そういえば、彼はどうなっているかな。
まあ、それはともかく。
彼をこのまま返しても、無差別殺人が起きちゃうかもしれないから。そうなると転生者の責任を負って、とかいう理由でリリスの娯楽に付き合わされる。それは嫌だ。
「あのね、君」
「何だよッ!」
「鏑木由貴を殺すことはできないけど――――君が思い浮かべている最悪な未来を変えることはできる」
「……………………本当か?」
「勿論。俺は嘘をついたことがないだろう?」
そう言えば、黙り込んで探るようにこちらを見てくる彼。どうやら信頼はされていないらしい。残念。神になって初めての話し相手なのに。あれだ。信用はしているけど信頼は別、ってやつなんだよね。
探りながらも縋るように見てくる彼に、俺はまず人差し指を立てて笑顔を見せる。
どうしてか嘘くさいと言われるこの笑みだが、自分にとってはどんな時でも役立つ、この美貌に合っていると思う。今は鏑木由貴の彼女にも、威圧感があると言われたのだから。
「その一の手段――――君の彼女の記憶を全てリセットすること」
「駄目だ。俺を忘れるなんてありえない」
普通の思考としては人を殺す許可を貰おうとする方が、有り得ないんだけどねえ。
まあ、ただ真面で面白くない思考の持ち主だったら、今ここにいないだろうけど。
「その二の手段――――君とその彼女以外の異端者の排除」
「いたん、しゃ…………」
「うん、最近調子に乗りすぎている子たちだからね。もしかしたら攻略対象として、異端者がいるから監視してたとか…………ほら、警戒していたから見ていたって言うたけかもしれないし?」
彼は、そうか…………、と内心ドキドキしながらもそれで安心した。元々邪魔になるやつらを殺していいかとの問いだったから、ある意味許可をあげたことになるからね。
「でも、攻略対象は駄目。いいね?」
「…………分かった」
「異端者は殺しても、元の世界に戻ってちょっと絶望するだけだから、罪悪感とかもなくていいし。殺った後はその人の記憶も基本、なくなるから安心していいよ」
「………………………………そう、か…………」
気が晴れたのか、夢が崩れていく。もう聞きたいことがないから、きっと起きるつもりなんだろう。そして、さっそく排除を始めるんだろうなあ。
「ちょっと管理面倒くさいけど、まあいっか」
※
次に会った彼は、とてもいい笑顔を浮かべていた。
勿論、『いい』の基準は俺の基準だけど。
せいせいしたと言うより、中途半端な恐れと愛憎に染まりきって、狂いきって、――――ああ、スッキリした、と言った方が合っているかもしれない。
彼の歪な笑みを見ながら、口を開いた。
「―――もしかして、また殺しちゃった?」
「………………いいや…………………………殺してはない」
「そっか、じゃあどうしたの、そのスッキリした表情は?」
彼もゆっくり口を開いた。
「彼女を、監禁した」
「――――――――――そう」
いつかはやるかなあ、と思っていたけれども。こうも早く実行してしまうとは。薄々、彼自身も予感はしておいただろうけど。一度フラれたっていうか、相手にされずに終わったことを自覚はしているしね。
「それで、これからどうするの?」
「何、が?」
「ずっと監禁?」
「ああ」
「死ぬまで?」
「いいや、壊れるまで」
ニタリと不気味に口を歪め、目を細めた彼。ああ、その狂いようが愛おしいね。
俺は成長した自分の子供を見るような、愛おしいものを見る目で彼を見つけた。歪んでいてむしろ真っ直ぐなその目は、愛に溺れて出られなくなったリリスのようだ。
自分の主である最高神と、彼の彼女――安曇舞華の顔を思い出しながら、薄情にもこれが一番平和な解決かもしれないと。
そう、思っていた。
ありがとうございました!