落とし前―④―
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ロックと凜華を囲った"政市会"会員たちが、訝しげに見上げた。
上空では、"スコット決死隊"のオーツを、ブルースとシャロンが駅前の建物を飛んで、追っている。
苔色の外套の男からの双刃、薄桃色のトレーナーの少女の"滑輪板"の一撃が、巨大な寸胴男の分銅を迎え撃っていた。
音の出所に戸惑う"政市会"会員達の懐に、凛華が入り込む。
彼女の持つ大太刀――"政市会"会員の指す"イペタム"――の白刃が、立ちはだかる"政市会"会員たちに疾走った。
一筋の斬閃に、彼らの持つ"UNTOLD"起源の特殊警棒――"芝打"が一つ残らず、両断される。
凛華の担う剣気の衝撃に、"政市会"会員が吹き飛んだ。
ロックも凛華の一撃に倣い、"政市会"会員に立ち向かう。
彼の目の前にいるのは、スリムフィットのデニムの女。
二十代後半を思わせる、落ち着いた雰囲気を纏う"政市会"会員の女性が、凛華の攻撃に怯みつつ、ロックに右手の警棒を向けた。
ロックの間合いに届かず、彼女の警棒が縦一文字の軌道を空に描く。
彼の闘士としての眼光に晒された女性の眼に、恐れの色が混じた。
涙を若干浮かべながらも、我武者羅に棒を振り回す。
「……殴るんなら、"殴られる覚悟"くらいは持てよ?」
ロックは、彼女の警棒を振る右手を掴んだ。
背後に素早く回り、彼女の首を左腕で絞めつける。
右腕を背後に捻じられた痛みにも喘ぐ彼女を、ロックは背中から突き上げた。
ロックは若い女性会員を盾に、"芝打"を振りかざす中年女性の"政市会"会員に向かって走り出す。
どういう動機で、この女性たちが加わったのかは定かではない。
少なくとも、同士討ちをするためではないのは確実だった。
味方が突っ込んでくる事態を呑み込めない中年女性の会員は成すすべなく、ロックのデニムの女性の盾に吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだ衝撃が、ロックの右腕に伝わる。
「……たす……け……」
「国の為とはいえ、弱気な大和撫子だな……もう少し意地を見せろよ?」
微かに戻る"超微細機械":"リア・ファイル"の力を感じながら、スピードを上げる。
加速の勢いに、若い女性会員の声が途絶えた。
ロックの目の前に立ちはだかる中年男性と背広の男を二人吹っ飛ばしたところで、盾にした女性から枝が折れるような音が聞こえた。
「肋骨でもイったか?」
盾にされた女性は答えない。
いや、言葉すら出ない。
ロックに立ちはだかる会員達の眼には、彼女が痛みで叫び、涙と鼻水の化粧に染まる顔が映った。
ロックによる恐怖の看看兮が唐突に終わりを告げる。
女性たちに同情を覚え、何もできない"政市会"会員の中から、波掛かった長髪の男が躍り出た。
ロックの頭は、彼の胸の位置にある。
大男が警棒を右手に振りかぶり、ロックに突進してきた。
ロックは、長髪の大男に向けて女性を背中から蹴飛ばす。
ロックの吹っ飛ばした女性に対して、長髪の大男が右手の警棒を構えた。
左から右へ振られた特殊警棒"芝打"が、涙化粧に染まる女性の右の頬骨を砕いた。
大男の眼には、女性への哀れみはない。
ただ、吹っ飛ぶ女性の影に隠れ、飛び込むロックを映す。
大男の眼に初めて感情を宿った。
ロックの無策ぶり。
もしかしたら、それによって"紅き外套の守護者"を倒せるという功名心故か。
長髪の大男の欲望は、ロックの突き出した右手に裏切られた。
大男の両眼に映るのは、もう一本の"芝打"。
女性を蹴り飛ばす寸前で、ロックが奪い取ったものだ。
ロックは突き出した"芝打"の引き金に指を掛け、大男の鳩尾を突く。
青白い光が、黄昏に染まる路地を大きく照らした。
男から呻き声が聞こえ、膝を落とす。
膝立ちの大男が、"芝打"を突きつけるロックの眼に映った。
ロックの双眸の中で、波の入った長髪の男が己の"芝打"の引き金を引いても"無反応"であることに戸惑っていた。
「おいおい……女殴って悦に入るって、なかなか良い趣味じゃねぇか?」
ロックの嗜虐の笑みに、膝立ちの大男の眼の湖面が揺れる。
「……何、震えてんだよ……"芝打"が"リア・ファイル"封じなら、同じことが"芝打"にも言えるんじゃねぇのか?」
"UNTOLD"について言えば、概ね"超微細機械":"リア・ファイル"で動くものが含まれる。
もし、"リア・ファイル"を動かし、封じることが出来るなら、"芝打"も例外ではない。
ロックに指摘され、優位を崩された長髪の大男から反論は無い。
しかし、ロックの口を実力で封じることを選んだ。
ロックは後退りで男の突進を躱す。
大男が、ロックに右直拳撃を放った。
だが、それは届かない。
その代わり、頭蓋骨大の分銅が大男に地を舐めさせた。
落ちてきた分銅に、大男がつぶれる。
大男を中心に土瀝青を抉った擂鉢を作ると、分銅が不可視の糸で持ち上げられた。
ロックは、昇る分銅を見上げる。
苔色と薄桃色の双風に、不可視の衝撃が立ちはだかった。
「おいおい……自称"愚連隊"だったら、見栄を見せる戦い方してみろよ!! その方が楽しいぜ、オーツ!!」
「……私は全く楽しくない。ブルースも、アンタも!!」
ブルースとシャロンが言い合いながら、宙に浮かぶ一人の男に向かう。
「……中々、骨が折れるぜ」
吐き捨てるように、幅広の大男のオーツが頭蓋骨大の分銅を放つ。
ブルースが二刀のショーテル型の"命導巧":"ヘヴンズ・ドライヴ"を腰から抜刀。
分銅型の"命導巧"の一つを、両手を交差させた斬閃で弾き飛ばす。
ロックの目の前に落ちた分銅が、オーツに向かう。
空中からの攻撃を逃れるために、ビルに降り立ったオーツ。
オーツを守るために分銅が戻るが、動きが遅い。
シャロンの"滑輪板"から、灰色狼が現れた。
硬質な灰色の牙が、オーツに向かう。
ブルースも、分銅使いに急降下で迫った。
地上から昇った分銅が狼の咢にめり込む。
オーツが、ブルースに視線を向ける。
ブルースのショーテルに弾かれた分銅が、オーツの敵意に反応して、再び彼に向かった。
ブルースの右手のショーテルが、オーツの左首筋に届く寸前で分銅が防ぐ。
"命熱波"発生による力場――"磁向防"――をオーツが発動させて、ブルースを弾き飛ばした。
シャロンもその衝撃の波に呑まれ、ロックの前に落ちる。
「ちょっと失礼!!」
そういって、ブルースもロックの隣に並んだ。
「というか、"命熱波"封じに引っ掛かってやんの!!」
薄桃色のトレーナーを着た少女、シャロンがロックへ小馬鹿にした笑みを浮かべる。
ロックは無視するが、
「シャロン、ロックは猪突猛進なんだから、あまり言うな……後が怖い」
ブルースが、肩を竦めて言う。
ロックを弁護していない内容に、
「……よくわかってんじゃねぇか、覚悟はできてんのか?」
「覚悟云々言う前に、シャロンに治してもらえ」
ロックの抗議を躱すブルースに促され、シャロンが近づいてくる。
彼女がロックの腹と背中に手を当て、力が溢れるのを覚えた。
「"芝打"か……半信半疑だったけど」
ブルースがぼやきながら言うと、
「見ての通りだ……厄介なことに、少しの間"リア・ファイル"が使えなくなる」
ロックは"芝打"を叩き折り、その場に捨てる。
腰に付けた翼剣型"命導巧":"ブラック・クイーン"を構えた。
翼を思わせる、ナノチタニウム製の幅広の刃が"政市会"会員を映し出す。
「"スパイニー・ノーマン"……」
暗く低い憎悪に満ちた声は、目の前の男――"スコット決死隊"のオーツからだ。
主人に従う猟犬の様に分銅型"命導巧"が一対、彼と共に降り立った。
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