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【完結】クリムゾン・コート・クルセイド Vol.Ⅱ ”平和たる軍靴"  作者: アイセル
第六章 St.Anger

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脱出―⑬―

当作品の無断転載、AIを含めたあらゆる二次利用を禁止します!!

Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI!!

 サキの眼前で、"チキンブロウ"の右腕に青白い炎が宿る。


 皮膚の表面の金色をかき消す、炎(・)の(・)竜(・)巻(・)と(・)な(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。


 彫られた"チキンブロウ"の眼が、青白い炎に照らされるサキ、サミュエルとシャロンを映す。


 サキは、"紅黒の魔人"と化したロックからも、同色の竜巻が生じているのを見た。


「サキ、"磁向防《スキーアフ・ヴェイクター》"を展開して!!」


 シャロンを挟み、サミュエルが"チキンブロウ"に向かい合う。


 サキは、ロックの方へ右手を突き出した。


 "命熱波(アナーシュト・ベハ)"の守護者である、"ライラ"と"ヴァージニア"の二人もサキの前に躍り出る。


『間に合わない!!』


『間(・)に(・)合(・)わ(・)せ(・)る(・)の(・)!!』


 "ヴァージニア"の切れ長の眼差しが揺らぎ、"ライラ"の爛々とした眼が"紅黒の魔人"へ不屈の意思を叩きつけた。


 "紅黒の魔人"の突き出した右腕に、紅黒の光が集まる。


 目を潰す輝きを放つ業火と共に、全てを呑みこまんとする暗黒の輝きを発していた。


 "ライラ"と"ヴァージニア"の展開した"熱力(エネルギー)の場"が、サキの前で瓦礫を巻き上げながる。


 "紅黒の魔人"から放たれる死の光が、サキの目を覆った。


 "ライラ"と"ヴァージニア"の二対の眼も、"紅黒の魔人"の双眸に映る"チキンブロウ"の青白い炎を捉える。


 サキ達も射程に入れ、ロックの紅黒の光を迎え撃つ。


 しかし、ど(・)ち(・)ら(・)も(・)三(・)人(・)を(・)消(・)し(・)炭(・)に(・)す(・)る(・)こ(・)と(・)は(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。


「サキ、みんな……無事か!?」


 吹っ飛ばされた、ブルースが一平と龍之助を引き連れてくる。


 しかし、一平が上を見上げて、


「……"ベネディクトゥス"?」


 一平の一言に、サキは彼の視線に思わず合わせる。


 一平の視線の先にいる男――"ベネディクトゥス"――が"インヴァネス・コート"を纏い、宙に浮いていた。


 時計の形をした"籠状護拳(バスケットヒルト)"の剣が煌き、輝きがサキ達を包み込む。


 紅黒の閃光と青白い炎が、"ベネディクトゥス"を中心に広がる不可視の壁で遮られていた。


 "ベネディクトゥス"の囲う力場から斥力が発生。


 "紅黒の魔人"と"チキンブロウ"を、サキ達から吹き飛ばした。


「間に合いましたか……」


 首筋まで髪を伸ばし、その切っ先を整えていた青年――"ベネディクトゥス"が、サキの隣に降り立つ。


 柔和な雰囲気を保つ彼の眼差しが、"紅黒の魔人"に注がれていた。


「サキ、こいつは"ベネディクトゥス"。最強の"命導巧(ウェイル・ベオ)使い"」


 ブルースが、"ベネディクトゥス"を右親指で指しつつ、


「そして、今回の協力者」


 龍之助を"政声隊"から抜けさせる依頼だけでなく、ロック達の会話でも出て来たことも含めて、サキは漸く思い出した。


「"セイント・アンガー"……まさか、"へルター・スケルター"との拒絶反応でこ(・)こ(・)ま(・)で(・)、ロ(・)ッ(・)ク(・)を(・)暴(・)走(・)さ(・)せ(・)る(・)とは……」


 "ベネディクトゥス"の言葉に、サミュエルの視線が微かに鋭さを増した。


「とにかく、"ベネディクトゥス"。来てくれて助かる!!」


 感謝を述べるブルース。


 "ベネディクトゥス"は返事をしない。


 今度は、視線を"チキンブロウ"に向け、


「……"へルター・スケルター"による干渉、思ったよりも強いですね」


「どういうことだ?」


 龍之助が首を傾げる。


「ロックと、この巨大"ウィッカー・マン"……両方とも、"へルター・スケルター"が入り込んでいます」


「"へルター・スケルター"って、三条が出し入れしている存在って聞いたけど……」


 一平の言葉に、"ベネディクトゥス"がややあって、


「正解ですけど、そ(・)れ(・)は(・)一(・)部(・)分(・)で(・)す(・)」


 "ベネディクトゥス"が、時計を模した"籠状護拳(バスケットヒルト)"の剣を構える。


 彼に飛び掛かる、"紅黒の魔人"と化したロック。


 "ベネディクトゥス"は顔色を変えない。


 予備動作なしで、彼の右手の"籠状護拳(バスケットヒルト)"が、紅黒の兜を纏ったロックの左顎を打ち抜いた。


 吹っ飛んだのを"ベネディクトゥス"が確認して、


「正確には"へ(・)ル(・)タ(・)ー(・)・(・)ス(・)ケ(・)ル(・)タ(・)ー(・)"の(・)本(・)体(・)から、三(・)条(・)さ(・)ん(・)が(・)取(・)り(・)出(・)せ(・)る(・)分(・)の(・)熱力(エネルギー)の一(・)部(・)を(・)龍之助さんに。そして、残りの熱力(エネルギー)がロックと"巨大ウィッカー・マン"に注ぎ込まれています」


 サキの隣にいた龍之助が、眼を見開いた。


「残りは、"レン"……だな?」


 龍之助の言葉に、"ベネディクトゥス"が頷く。


「しかし……」


「殺(・)す(・)必(・)要(・)は(・)あ(・)り(・)ま(・)せ(・)ん(・)」


 躊躇う龍之助に、"ベネディクトゥス"の力強い言葉が響いた。


「そうか、"愛されし者の右眼《ジ・アイ・オブ・ジ・ビラブド》"!! 干渉が出来るようになるなら、触(・)れ(・)ら(・)れ(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)追い出せるかもしれない!!」


 ブルースが弾けたように、言った。


「……待って、"愛されし者の右眼《ジ・アイ・オブ・ジ・ビラブド》"は"命熱波(アナーシュト・ベハ)"に干渉して、僕(・)た(・)ち(・)の(・)も(・)使えなくするはずだけど?」


 サミュエルの怪訝な眼差しが"ベネディクトゥス"に注がれる。


「サミュエル、それは語弊があります……まず、"愛されし者の右眼《ジ・アイ・オブ・ジ・ビラブド》"が反応するのは、一番強力な熱力(エネルギー)を持つ"命熱波(アナーシュト・ベハ)"です……龍之助くんの中に入っていたのは、強力な"命熱波(アナーシュト・ベハ)"に干渉するが故に繋がり、三条が出し入れ出来るようになったのでしょう」


「じゃあ、この時点で"大きな力"を持つ"命熱波(アナーシュト・ベハ)"は……」


 シャロンの視線が、"紅黒の魔人"と"チキンブロウ"に向かう。


 二体の異形に挟まれるようにして、夜に浮かぶ白い少女――"レン"。


「熱力(エネルギー)の供給網が複数あるなら、上手くいけば"レン"の繋がりも眼(・)に(・)見(・)え(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)な(・)る(・)」


 ブルースが二刀のショーテル型"命導巧(ウェイル・ベオ)"を構える。


「龍之助さん……右眼で、"レン"と言う少女を見てください。サキさん……」


 "ベネディクトゥス"が向き合う。


「その"命導巧(ウェイル・ベオ)":"フェイス"の力で、補助してください」


 サキが言われて、周囲が戸惑うと、


「サキさんの"命熱波(アナーシュト・ベハ)"の力は、"へルター・スケルター"を抑えられます」


 "ベネディクトゥス"の言葉に、ブルースが頷く。


 サミュエルとシャロンも二人が眼を合わせ、その場面を思い出したようだ。


 一平と龍之助が戸惑うが、


「とにかく、ロックと"ウィッカー・マン"……止めるぜ!!」


 一平が拳に付けた"命導巧(ウェイル・ベオ)":"ライオンハート"を突き出す。


 龍之助が深呼吸をして、上空の"レン"を見つめる。


 彼の眼の色が蒼色となり、"レン"の顔が強張った。


 彼女の姉を名乗る"アイ"が、龍之助の傍らに現れる。


「"アイ"、大丈夫だ!!」


 龍之助の声に、サキは"フェイス"を構える。


 機関銃の把手の鞘の先から伸びる蒼白い片刃が、夜の闇を照らした。


 ブルースが苔色の風となり、"黄金の巨大嬰児"に翔ぶ。


 鎌の刃を畳んだ散弾銃の"命導巧(ウェイル・ベオ)":"パラダイス"を携えて、サミュエルが続いた。


 彼が叩き起こした鎌に砂塵を纏わせ、空中を斬る。


 ブルースの翡翠の双刃も、サミュエルと同じ場所を攻撃した。


 不可視の爆発が、白い少女から枝状に伸びる何かを照らし出す。


 更なる爆轟がサキの耳朶を叩いた。


 目を向けると、一平、シャロンと"ベネディクトゥス"の三名が"紅黒の魔人"が"レン"から伸びる白い導管を攻撃している。


 一平の両拳から放たれる"ライオンハート"の炎が弾けながら、ロックと"レン"の繋がりを壊していく。


 "紅黒の魔人"と化したロックが、繋がりを攻撃され呻いた。


 彼に呼応するように、巨大な黄金嬰児――"チキンブロウ"――も痛みに咆哮を上げる。


 "レン"が華奢な身体から、青白い光を放った。


 二人の異形を繋ぐ枝状の導管が青白い光を帯び、罅(ひび)を修復していく。


「させない!!」


 サキの声に応える形で、守護者の"ライラ"と"ヴァージニア"が現れる。


 二人が両手を"フェイス"に添え、蒼白い光の光度を増した。


 "レン"から放たれた青白い光が消える。


 黄金色の巨大嬰児を繋ぐ導管も大きく音を立てた。


 導管が崩れると、黄金色の巨大嬰児が仰向けに倒れる。


 黄金色の鏡面が、サキとロックを映す。


 "紅黒の魔人"と化したロックの身体を一平が羽交い絞めにした。


 腹を突き出されたロックに、シャロンが両手を突き出す。


 紅黒の奔流がロックの周囲を覆った。


 シャロンの身体から出された光が、紅黒の光と混ざり合う。


 "紅黒の魔人"が咆哮を上げ、サキは振り返る。


 彼の周りに現れた紅黒の旋毛風がサキを撫で、中心にいた一平を吹っ飛ばす。


 紅黒の斥力に運ばれるシャロンと入れ替わりに、"ベネディクトゥス"が駆けた。


 "インヴァネス・コート"を翻しながら、時計の形の"籠状護拳(バスケットヒルト)"の剣を順手にロックへ迫る。


 意思を持った紅黒の突風が"ベネディクトゥス"を襲った。


"ベネディクトゥス"が時計の"籠状護拳(バスケットヒルト)"の剣を振るい、紅黒色の疾風が空に消える。


 "ベネディクトゥス"がロックとの間合いを詰め、右掌を頭に翳した。 


 その眼差しは何処か寂しげに、


「まだ……ここで終わらせません……貴方には――」


 彼の言葉がそこで途切れ、ロックから紅黒の風が消える。


 ロックと"チキンブロウ"、それぞれに繋がっていた触手然の導管が砕け散り、"レン"が叫んだ。


 痛みに狂う、白い少女の眼下に映った赤い少女――"アイ"。


 姉の姿に心が動かされているのか、自らの肉体を両腕で抱く。


 サキの耳に"アイ"の言葉にならない叫びが聞こえると、"レン"が夜の闇に姿を消した。


「……あれ?」


 サキは一言漏らし、目の前が一瞬暗転した。


「サキ!!」


 傍にいた龍之助の声が聞こえ、視界が戻る。


 そこで、サキは自分が足が崩れたことに気づいた。


 ブルース、一平、シャロンとサミュエルが、倒れ込んだサキをのぞき込む。


 疲れなのか、力を使い切ったからなのか。


 周囲の声が聞き取れない。


 サキは代わりに眼を動かす。


 ロックを両手で抱える"ベネディクトゥス"が、こちらに歩いてきた。


 その背後から見えた人影に、サキは全身の筋肉が緊張した。


 瓦礫から掘り出された際に付いた埃と泥にまみれの女性。


 薄紫色のシャツの女性を覆う"バラクラバ"が、瓦礫の上に落ちる。

 

 岡(・)田(・) マ(・)ナ(・)だった。


 顔色から生気の抜けたマナから離れた場所を歩く、銀鏡の色の"花鎧"の戦士。


 彼が向かうのは、全身の金色が色あせていく巨大嬰児。


 その胸から全裸の女――雑賀 多恵――が腹ばいで進む。


 サキは彼女の口の動きから、言葉が読めた。


『タ(・)ス(・)ケ(・)テ(・)』


 瓦礫から出た粉塵にまみれた肌で、這ってまで救いを求めたのは"花鎧"の戦士。


 俯き気味だが、戦士が彼女の助けに答えた様子はない。


 覆われた"花鎧"と同じ銀(・)鏡(・)色(・)の(・)煌(・)き(・)が、彼女に応える。


 生まれた姿の彼女から吐息でなく赤(・)が(・)舞(・)っ(・)た(・)。


 夜の闇に混じった血煙。


 サキの中で、言葉にならない感情が大きな渦となる。


 それでも動かないサキの身体が、龍之助とシャロンに支えられていた。


 マナと"花鎧の戦士"の姿が小さくなっていく。


 サキの意識が夜よりも濃い、闇色の混濁に包まれていった。

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© 2026 アイセル

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