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【完結】クリムゾン・コート・クルセイド Vol.Ⅱ ”平和たる軍靴"  作者: アイセル
第七章 Apple of Discord

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不和—①―

当作品の無断転載、AIを含めたあらゆる二次利用を禁止します!!

Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI!!

4月14日 上万作(あまんさく)市 上万作(あまんさく)駅前通り商店街 駅ビル 午後7時02分


「……一平、本当に問題ないのか?」


 一平の背後から、龍之助の戸惑う声が聞こえた。


 振り返ると、彼の掛けている眼鏡の奥から疲れの色が伺える。


 上半身裸で戦い切ったからか、彼の身体から生傷が見える。


 煤や塵にも覆われた龍之助の上半身を、苔色の外套(コート)――ブルースのもの――に袖を通していた。


 龍之助が、苔色の外套(コート)越しに、紅い外套(コート)に包まれたロックを背負っている。


 金髪碧眼の青年は、彼の背中で眠りについていた。


「大丈夫だって」


 一平はそう言いながら、雑居ビルの内部を進む。


 龍之助の後ろには、同じくサキもシャロンの背で寝ていた。


 サミュエルとブルースが最後尾にいる。


 飴色のジャケットとパンツを纏った青年と、苔色の外套(コート)を脱ぎ、ポロネックのインナーのブルースが自分たちに向けられる敵意を警戒していた。


"電脳右翼(デンウヨ)"と"電脳左翼(デンサヨ)"の乱闘の果てに乱入した"黄金色の嬰児"――"チキンブロウ"――と、変貌したロックの暴走という嵐に見舞われた上万作(あまんさく)市役所。


 市役所と商店街の一部を破壊したものの、ロックを元に戻すことができた。


 "チキンブロウ"も動きを止めた。


 いずれも、"ベ(・)ネ(・)デ(・)ィ(・)ク(・)ト(・)ゥ(・)ス(・)"の(・)助(・)け(・)を(・)得(・)て(・)、だが。


 サキも混戦を止める為に力を使い果たした後、意識を失った。


 騒動の中心となっていた二つの異形がいなくなるやいなや、警察と"ワールド・シェパード社"がなだれ込んだ。


 遠巻きに見守っていた報道関係者も、乱入しようとして一悶着も起きた。


 そのどさくさに紛れて、一平達は倒れたロックとサキの二人を運び出した。


 だが、警察と"ワールド・シェパード社"の検問が、彼らの前に立ちはだかる。


 "命導巧(ウェイル・ベオ)"を使う政治団体、"命熱波(アナーシュト・ベハ)使い"に"ウィッカー・マン"との連戦により、疲れ果てた一平達。


 ロックとサキにいたっては身動きも取れない。


 騒動の後の喧騒も介せず眠り果てる両者を休ませる場所を、ブルースが探そうとしていた。


 候補先が出ない中、一平は自分の居場所を紹介した。


 目の前の"電源カフェ:アルティザン"がそれである。


 一平の提案に、ブルースが二つ返事で乗った。


 周囲が済し崩し的に同意しつつ、龍之助がそれに懸念を示している。


「その……"アルティザン"は凛華さんの店なのだろう?」


 龍之助が、先の戦いとロックを背負う疲れで、息を切れ切れに、


「お(・)前(・)の(・)姉(・)さ(・)ん(・)の(・)電(・)源(・)カ(・)フ(・)ェ(・)とはいえ……大人数で負傷者まで持ち込むなんて……」


「大丈夫、電源カフェは10人未満の団体だったら講座とかで使うこともあるし、今日はお休みだ」


 一平は肩をすくめ、


「ちゃんと、合鍵もある」


 一平は、パーカーの右ポケットから龍之助に鍵を一つ見せた。


 鍵を眼にして龍之助が溜息と共に、


「合鍵なんてよく持っていたな……」


「いや、作(・)っ(・)た(・)……バイト代が飛んだけど」


 一平の一言に目の前の龍之助が、大きく目を剥く。


 瞬間、シャロン、ブルースとサミュエルの視線も一平に大きく注がれた。


「……一平、"建(・)造(・)物(・)侵(・)入(・)罪(・)"って……知ってる?」


 サミュエルが震える口調で言うと、


「まあ、わかるけど……でも、新聞配達の帰りに一眠りしたいし、"命導巧(ウェイル・ベオ)"の修行場も近いし」


「それ、弁護士の前で言ってみな? 確実に出禁食らうし、国(・)選(・)す(・)ら(・)も(・)裸足で逃げ出すよ……」


 サミュエルが額に手を当て呻く。


 龍之助の顔が、言葉にしたいが言葉が出ないというもどかしさで、苦悶の色に染まった。


「どっちにしても助かった……あとは、休ませたらドラッグストアで包帯とか買えばいいし」


 ブルースがそう言うと、『大丈夫だろ』という小さい呟きが聞こえた。


 シャロンにいたっては、


「まさか……合鍵を作るとはね」


 サキを背負いながら、複雑な面持ちを作る。


 一平は、龍(・)之(・)助(・)以(・)外(・)の(・)反(・)応(・)に(・)引(・)っ(・)掛(・)か(・)り(・)な(・)が(・)ら(・)、扉の前に立つ。


 "アルティザン"という仏語の"職人"という言葉とは裏腹に黒と硝子張りのドアは、どこか機械的な雰囲気が醸し出される。


 閉店中の札が吊るされたドアを作った合鍵で、一平は開けた。


 暗がりが広がるが、眼が慣れる。


 店の奥はソファとテーブル、それとホワイトボードが陣取っていた。


 それから、普通の椅子と丸テーブルで2,3人座れるスペースが三か所。


「足元に気を付けて、ソファに寝かせようぜ」


 一平が店の奥に進みながら言うと、龍之助たちが続いた。


 最後のサミュエルが入り、一平が奥のソファに向かおうとすると、


「確保じゃー!!」


 女性の声と共に、電源カフェ"アルティザン"に突然光が灯った。


 一平は考える暇も与えられず、蛍光灯に覆われた天井が目の前に広がる。


 左足が動かないと思ったら、右脇から何(・)か(・)に(・)巻(・)き(・)付(・)け(・)ら(・)れ(・)る(・)感(・)覚(・)に襲われた。


 首をまとう褐色の両腕を見た瞬間、一平の背筋が強制的に起こされる。


 胸から腹部、背骨に激痛を与える肋折り――所謂、プロレスの"コブラツイスト"――を仕掛けられた一平は、


「姉ちゃん……!?」


 痛みに悶えながら、照らされた店内を見渡した。


 小麦色の肌をした短髪の少女が仁王立ちで、入口で立ちふさがっている。


 店の照明のスイッチの場所を見ると、黒髪の少女の白い手が添えられている。


 突然の事に、龍之助も目を白黒させて、


「キョウコに……アカリ!?」


 叫ぶと二人が、笑顔となる。


 アカリの方は純粋なそれだが、キョウコの方は『し(・)て(・)や(・)っ(・)た(・)り(・)』と言わんばかりに勝ち誇ったものだ。


「リンカさん、狙い通りでしたね」


 キョウコの悪戯めいた笑みを浮かべる瞳の奥に、映る女性。


 金髪、付け睫毛と星空を思わせるメイクを両目の周りに施し、全身が褐色肌だった。


 そんな彼女が、現在進行形で一平にプロレス技の"コブラツイスト"を仕掛けている。


 肋骨を圧迫する更なる痛みで、一平は呻いた。


「弟よ……『ど(・)う(・)し(・)て(・)?』って言いたいのかな、チミは?」


 含みを持った笑顔で、一平を弟(・)と呼ぶリンカ。


 心を見透かした様な声と彼の背筋を撫でる彼女の吐息に、一平は内心が凍り付いた様に思った。


 龍之助、ブルース、サミュエルとシャロンという四対の眼が、そんな一平とリンカを映す。


 その眼差しが、異口同音に『ど(・)ん(・)な(・)ヘ(・)マ(・)を(・)し(・)た(・)?』と尋問している様に見えたのは、一平の気のせいと思いたかったが、


「テ(・)メ(・)ェ(・)の(・)小(・)遣(・)い(・)帳(・)に鍵(・)屋(・)か(・)ら(・)の(・)レ(・)シ(・)ー(・)ト(・)が(・)貼(・)っ(・)て(・)あ(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)に決まってんだろうが!?」


 肋骨と背骨に更なる痛みが走り、一平は一際大きな叫び声を上げた。


 誰も苦痛に悶える彼に手を差し伸べようとしない。


 ロックを背負いながらも龍之助が、さもありなんと言う視線を向ける。


サキを背負うシャロンも、サミュエルとブルースにアイコンタクトを交わした。


 三人が気まずそうに視線を泳がして、思い切り肩を落とす。


「そして、テメェが新聞配達のバイトが終わったのに最近帰りが遅いわ、今日も停学中に関わらず『ちょっと出る』という書置きをしていたから、キョウコとアカリを呼んで待ち伏せして――」


 リンカの声が、唐突に途絶える。


「――サキ!?」


 キョウコの声がして、一平の首と胴への拘束が解ける。


 痛みを覚えながら、一平は"コブラツイスト"を見舞った姉、リンカに目を向けた。


 彼女の眼に映る、シャロンの背負うサキに駆け寄るキョウコの姿があった。


 シャロンの方へ、一平が眼を向けると、


「……一平、サキに何があった?」


 キョウコの顔が一平の目の前にあった。


 彼女の眼差しと吐息が、一平の鼻先を撫でる。


 キョウコの怒りと悲しさ。


 無力感も籠った無言の問いに、一平が黙すると、


「龍之助……あんたも、一(・)平(・)と(・)一(・)緒(・)に(・)い(・)な(・)が(・)ら(・)何が起きた!?」


 飛び掛からん勢いで、怒りの矛先を龍之助にも向けるキョウコ。


 しかし、サキの友達であるアカリがキョウコを止める。


 だが、彼女の凛とした鋭い眼が、一平たちを捉えた。


「はいはい……取り敢えず、いろいろ言いたいことがあるだろうけど、みんな落ち着け?」


 アカリとキョウコの前に、凛華が立つ。


 ちょうど、一平たちとの間で彼女が壁を作った。


 一平は、凛華のコブラツイストから解放され、痛む背中を摩る。


 凜華の鋭い視線がキョウコたちの代弁と言わんばかりに、サミュエル、シャロンとブルースにも注がれる。


「ただ……あんたら、何(・)が(・)起(・)き(・)た(・)の(・)か(・)く(・)ら(・)い(・)は(・)話してほしいね……こ(・)の(・)娘(・)た(・)ち(・)の(・)溜(・)飲(・)を(・)下(・)げ(・)た(・)い(・)、ね?」


 凜華の冷たい声質の声が"アルティザン"の気温を下げると、


「うるせぇな……どうしたってんだよ……」


 龍之助に背負われた、ロックが目を覚ました。


「……あれ、えーっと、キョウコにアカリ……?」


 シャロンの背で眠っていたサキも起きると、キョウコとアカリが凜華を押しのける。


 事態を理解できないサキの前で、キョウコとアカリが駆け寄る。


 サキはどうしてここにいるのか把握できない戸惑い、友人と再会できた喜びの混じった表情でシャロンから降りた。


「……あ?」


 サキとの再会を喜ぶ女性陣の声が、ロックの声にかき消される。


 一平はロックに目を向けると、彼は龍之助の背から降りていた。


 しかし、彼の眼が大きく見開かれ、ただ一点に集中している。


「……ここは地(・)獄(・)か、それとも……夢(・)か分からんが……俺が、世(・)界(・)で(・)一(・)番(・)会(・)い(・)た(・)く(・)な(・)い(・)奴(・)が(・)目(・)の(・)前(・)に(・)い(・)る(・)んだが……」


 ロックの目に映るのは、一平の姉――凜華。


 彼の血の気が引いた反応に対し、姉の凜華は嬉しそうな顔で、


「よう、弟(・)弟(・)子(・)……元気だったか?」


 一平、龍之助、サキ、キョウコとアカリが、凜華の唐突に向けたロックへの敬称に、声を失った。


 笑顔の褐色の女性とロックの間で――一(・)平(・)が(・)肌(・)で(・)感(・)じ(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)出(・)来(・)る(・)ほ(・)ど(・)――感情の温度差の乱高下が発生している。


「……ブルース、テメェに頼むのも癪だが、携帯通信端末(スマートフォン)とパ(・)ソ(・)コ(・)ン(・)の(・)H(・)D(・)D(・)……俺(・)に(・)関(・)す(・)る(・)記(・)録(・)を(・)全(・)部(・)、処理してくれ……あとは、死ぬ」


 吐き捨てたロックの顔が真っ青になり、卒倒する。


 サキとブルースが戸惑いながらロックを受け止めた。


 足腰が崩れたロックを、ソファに連れていく。


 一平は、突然の事態に、龍之助、キョウコとアカリに視線を交わした。


 余りの事態に、互いの掛けるべき言葉が見つからず、視線が泳いでいる。


「……取り敢えず、何か食う……請求先はブ(・)ル(・)ー(・)ス(・)だ(・)け(・)ど(・)?」


 凜華の言葉に、一平とブ(・)ル(・)ー(・)ス(・)を(・)除(・)い(・)た(・)面々が首を縦に振った。

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© 2026 アイセル

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