脱出―⑩―
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「『テメェの保身のため』ってのが、テメェの泣き言からよく分かったぜ!! テメェらの平和は、"政市会"と同じ"独り善がり"の押しつけってこともな!!」
ロックは怒号と共に"駆け抜ける疾風"の神経強化で、"チキンブロウ"との距離を一気に詰める。
"チキンブロウ"の青白く輝く鶏の形をした金色の右手の肩に、翼剣"ブラック・クイーン"の"籠状護拳越し"の拳の一撃がめり込んだ。
体重と加速度の乗法により導き出されたロック自身の力で、"チキンブロウ"の巨体が折れ曲がる。
雑賀の叫び声と共に撃ち上がる"黄金の嬰児"。
順手に持ち替えた翼剣で、ロックは飛翔し追撃に移る。
ロックの繰り出す無数の斬撃が、黄金の人型を紅黒の奔流に飲み込んだ。
紅黒の嘴に怒涛の如く啄まれた"黄金色の嬰児"。
その右手を覆う青白い炎が血のように噴き出した。
商店街の路地と店舗を焼いた。
"ラーメン屋 わさの"の入り口を"チキンブロウ"の背中が潰す。
"黄金色の嬰児"を覆うロックの紅黒い斬撃の暴風雨が止んだ。
金色の嬰児の表面に映る、"紅き外套の守護者"が紅黒い片翼を大きく広げた。
紅黒い光に包まれた翼剣をロックは大きく振りかぶる。
"チキンブロウ"の金色の瞬く輝きすらも、翼剣の斬閃が呑み込んだ。
ロックは右側から、自らの担う紅黒の輝きすらも飲み込む暗がりを見る。
巨大な咢が、そのひと振りを飲み込まんと、ロックを覆った。
「やっと見せたな、"スパイニー"!!」
ロックの忌み名を呼ぶ声は、大きな銀色の頭部から聞こえる。
その大きさは、"チキンブロウ"の金色の頭の半分を覆うほど。
商店街に立ち上る青白い炎を貪りながら、ロックに進撃してくる。
"驢馬の一嚙み"。
ダグラス=スコット=クレイの"疑似物理現象"――"銀の血蜜"の作る銀のナノ粒子を含んだ可燃ジェルで出来た、巨大な驢馬の"しゃれこうべ"だ。
銀色の驢馬の頭蓋骨が商店街に立ち上る青白い炎を貪る。
巨大な驢馬の"しゃれこうべ"の咢が、黄金色の嬰児の右手も食らった。
黄金色の嬰児を焼く巨大な驢馬の一噛みが、ロックもその消し炭にせんと迫る。
「準備運動代わりだ、"スパイニー"!!」
「面倒なのが来やがった……」
銀の驢馬のしゃれこうべから飛び出した、首を覆う毛皮の外套を纏うダグラスに、ロックは"ブラック・クイーン"の紅黒い刀身を向ける。
紅黒い光を纏った刃を、半身が銀鏡に蝕まれたダグラスとその背後の銀の驢馬のしゃれこうべに向けて、疾走らせた。
銀色の驢馬のしゃれこうべが、両断。
青白い炎と共に散った。
ダグラスが"命導巧":"ザ・ネーム・オブ・ザ・ゲーム"――右手に付けた獅子の拳の方――で、ロックの斬撃を受けた。
「準備運動なら入念にな……生兵法は大怪我の元だから、せいぜい逃げられるように身体は温めておけよ!!」
ロックは左に振った翼剣の勢いを維持しながら、時計回り。
その勢いで、右後ろ回し蹴りを展開し、ダグラスの右頬を砕いた。
ダグラスの歯と血が飛び散り、青白い炎の陰影に染まる。
しかし、鉄板を仕込んだロックの靴による蹴りでも、ダグラスは倒れない。
否、それどころか、攻撃をしたロックの姿を焼き付けんと、その眼を爛々とさせていた。
ダグラスに背後を見せる形で停滞するロックに、"ザ・ネーム・オブ・ザ・ゲーム"の左拳――蜂の針の細剣――が無防備な背中に放たれる。
青白い炎を纏った刺突は、ロックの背後に届くことはなかった。
"驢馬の一嚙み"の炎に焼かれた巨大な影が、ロックとダグラスを覆う。
青白い炎を纏った"チキンブロウ"が大きく両腕を上げ、不規則に振り回した。
両腕が、ロックとダグラスの間を切り裂く。
ロックは"籠状護拳"越しに、嬰児の右腕の一薙ぎを防いだ。
その反動で吹っ飛び、土瀝青の大地を背中で受け止める。
後ろへ回転しながら、立った。
左腕に巻き込まれたダグラスの方は、叩きつけられる。
「……随分とやんちゃな赤ん坊だな!!」
ダグラスがうつ伏せに地面を舐めつつ、右足から立つ。
銀鏡の右半身を晒し、口から血塊を吐き捨てるダグラス。
彼の銀鏡の皮膚が、青白い光を反射させる。
ロックが光の出所に目を向けると、"チキンブロウ"が立ち上がっていた。
肋骨の鳥かごに囲われた雑賀を青白い光が覆う。
ロックに刻まれ、ダグラスに燃やされて出来た傷や罅が消えていった。
「これじゃジリ貧だよ!!」
桃色のトレーナーを着たシャロンが、"滑輪板"でロックに駆け寄る。
「……あんたの"命熱波"、相当追い込まれているよ?」
シャロンが、ロックの胸に右手を当てる。
ロックは荒ぶる力が、落ち着いていくのを感じた。
「そもそも、"ウィッカー・マン"って、こんなに動けるものなのか?」
炎の煌きを模したパーカーの一平が、戸惑いながらダグラスと"チキンブロウ"を指して言う。
「いや……"ウィッカー・マン"は独特の熱源で、動いている……しかも"機械"であることは変わらない!! あれほどの攻撃を受けていたら既に壊れていないとおかしいよ!!」
サキが片刃と機関銃の柄の繋がった"命導巧":"フェイス"を手に駆けつけると、
「この場合、熱源がバリアと見て良いかもな……」
苔色の外套をまとうブルースが、二刀流のショーテルを構える。
「じゃあ、その"バリア"の動力は何処になるのかな、ブルース?」
"命導巧":"パラダイス"の畳まれた大鎌を積む散弾銃の銃口を、ダグラスと"黄金の嬰児"を射程に入れて、サミュエルが話す。
「考えられるのは……」
シャロンが目を向けるのは、"黄金の嬰児"の傍らに浮かぶ白い少女――"レン"。
「じゃあ……アイツを倒せば!!」
「待ってくれ!!」
一平の一言に、龍之助が割り込む。
大きな矛槍型"命導巧":"セオリー・オブ・ア・デッドマン"を手に、ロックの前に立ちはだかる龍之助。
彼の眼に逡巡の色が宿っていた。
右目も蒼くなり、赤い少女の姿が現れる。
「龍之助、そいつは!?」
「一平、分かっている……これは、"アイ"だ。そして、白い服を着たのは……彼女の妹、"レン"だ」
ロックは"レン"と"アイ"を交互に見て、
「……姉妹だと?」
ロックは眉を顰めた。
周囲も思いもよらない言葉が出てきて、どう反応を返して良いか戸惑う。
ただ、ブルースだけが目を見開いていた。
ロックはブルースの反応について問いかけるが、
『"レン"、お願い……もうやめてよ!!』
"アイ"が眼に涙を溢れさせながら、叫ぶ。
呼びかけられた"レン"の眼に感情は無い。
ただ、赤い少女の"アイ"を眼に留め、周囲を見渡した。
"レン"が唐突に首を止める。
彼女の白い眼が、紅い外套を着たロックを捉えた。
『ロック、逃げて!!』
脳内に少女の声が響く。
――ファン!?
唐突にその声の主の女性を呼んだ時に、白い少女――"レン"がロックの眼と鼻の先にいた。
『"レン"、やめて!!』
"アイ"という少女の声に、ロックは振り返った。
"アイ"と言う名の少女の目に、白い少女――"レン"――がロックの腹に入り込むのが映る。
サキを始めとした周囲が戸惑い始めると、ロックの周囲を紅黒の竜巻が遮った。
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