脱出―①―
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4月14日 上万作市役所付近のビルの屋上。 午後6時17分
"パトリキウス"の眼下で広がる風景は、夜も目を瞬かせるほど煌びやかだった。
空から落ちて来た高さ五メートルの"巨大騎士甲冑"が、市役所を壊して前進。
鶏の頭部を模した右手の槌を振りかぶる。
紅い外套のロック=ハイロウズが、その一撃を受ける切り込み隊長となった。
ロックの後方支援の形で、河上 サキの軽機関銃と大きな片刃を組み合わせた"命導巧"が、巨大な甲冑の胴に光弾を浴びせられる
彼女の隣で、"命導巧":"ヘヴンズ・ドライヴ"による二振りのショーテルの鍔部分の機関銃を使い、ブルースが巨人に弾幕を張っていた。
二人の攻撃で、歩みを止めている巨大甲冑の頭部に、ロックが翼剣型"命導巧":"ブラック・クイーン"を振り下ろす。
ロックの頭部への斬撃が命中し、ブルースの二振りのショーテルによる交差斬撃が続いた。
巨大甲冑の腹部が大きく抉られ、膝をつく。
跳躍したサミュエルが散弾銃に付けた大鎌の刃――"命導巧":"パラダイス"――に砂塵の一刃を、巨大甲冑の右肩に振り下ろす。
思ったよりも切れ味が冴えず、金色の砂塵の刃が途中で食い込む。
甲冑の鶏の頭部の右腕部が、サミュエルの斬撃を跳ねのけた。
鋼鉄の鶏の嘴が、サミュエルを捉える。
シャロンが薄桃色の風となり、サミュエルを抱えた。
嘴の鉄槌が、サミュエルのいた場所を擂鉢にした。
空を切り地中を大きく抉った巨大甲冑の上半身に、一平と言う男が"ライオンハート"という拳型の"命導巧"に付けた銃口から放った炎の榴弾で迎撃。
榴弾の爆轟で大きく身体を反らす甲冑の胴に、原田 龍之助の矛槍型"命導巧":"セオリー・オブ・ア・デッドマン"の刺突で追い打ちを仕掛ける。
蒼い一撃に、甲冑が上半身を仰け反らせた。
尻餅を突いた甲冑に、ロック、ブルースとサミュエルの三名が上空から来襲。
しかし、巨大甲冑が両腕を振り回す。
三人が"命導巧"を構えて、"磁向防"を発動。
不可視の結界で甲冑の攻撃を受け止める。
衝撃に流されるように、ロック達が吹っ飛んだ。
「"ソカル"の出る幕じゃないと思うけどね……」
「お前達が出る時点で、"俺たち"が入る余地は十分にあると思うがな……"サロメ"、"コロンバ"?」
"パトリキウス"は背後からの声に振り向く。
声の主は、扁桃を思わせる吊り上がった眼の女。
ポンチョを着た細い男――"コロンバ"が、扁桃の眼の女の隣に立っていた。
「"命熱波"の様な"UNTOLD"に振り回された奴らには、駆け込み寺が必要だ……"ホステル"、"ワールド・シェパード社"は愚か、"ブライトン・ロック社"も…碌なことを考えていないからな」
"パトリキウス"の皮肉めいた口調に、"コロンバ"が弾けた様に笑い出した。
そんな嘲笑に染まる"コロンバ"の眼に、"パトリキウス"が映る。
"赤毛"に膝丈までのパンツを纏う自身の姿。
彼の業物を思わせる鋭い眼光を"コロンバ"が愉快そうに受け止めると、
「でも、その割には随分とフットワークが重いようだけどな――?」
道化の仮面を思わせる笑顔を浮かべながら、
「いや……動けてないと言った方が良いかな? ……ところで、ブリジットの他に、今日はお供の"狼くん"と"牛くん"が見えないようだけど――」
「分かっていて聞いてくるなら、相当、悪辣だな」
含みを持った笑みの"コロンバ"に、"パトリキウス"は硬質を含んだ声で返す。
「……そうそう、"バタリオン・ピース"として対応に追われていたよね……噂一つで大変だね、ホント!!」
"コロンバ"が大仰に両手を叩く。
"パトリキウス"の中で、"ポンチョ"の男が悪戯を楽しむ猿の様に見えた。
――"ハチスカ文書"……本当に厄介なものを広めてくれる!!
文書の存在の有無は定かではない。
しかし、内容だけは妙に生々しかった。
曰く、
『体外受精を利用した人体実験が行われた』
そういった噂が、"B.L.A.D.E."地区で出回っている。
その中に伊那口が含まれていたのもまずかった。
加えて、巷を騒がしている十代の少年少女の怪死事件。
被害者が『その手術から生まれた子どもたち』という内容も致命的だった。
"B.L.A.D.E."地区内では、上万作市との敵対も辞さない強硬論が出始めている。
その状況の打開に奔走しているのが、元"七聖人"が一人――"ブリジット"。
"ライト"と"バイス"の所属している"バタリオン・ピース"の内部の強硬派を抑え、他のチームの牽制にも努めていた。
「そこまでわかるなら、こちらの動きを気にする必要はないのではないか?」
"パトリキウス"は、変わらぬ鋭い視線を"コロンバ"に送る。
「私たちは忙しいのだからな」
「それなら、"ワンダーウォール"の向こう側には、興味は無いということだね?」
扁桃の眼を象牙色にして、女が言う。
その口調はどこか、嬉々としていた。
「競争率が高くてね」
扁桃の眼の女が、柘榴色の唇を吊り上げる。
"パトリキウス"は"競争率"という言葉から、その内容に納得した。
"サロメ"が指すのは、"破宴の王母"という名の"命導巧使い"の女――三条 千賀子。
"サロメ"に続いて、"ウィッカー・マン"の調整が出来る者であり、この世界で"UNTOLD"による自律兵器の起動が出来る者だ。
"パトリキウス"は、
「"リリス"の復活か……お前らが、色んなところにアクセスを得ているのは歯痒い。だからと言って『やめろ!!』という言葉に聞く耳も無い。好きにしろ」
「見逃してくれんのか?」
訝しげにつぶやいたのは、"コロンバ"だった。
「話した内容の割に、随分と寛大な対応じゃないの?」
「こっちの興味は、"アンゲンの子牛"だ……貴様らの行動にとやかく言うつもりはないが、アイツらの邂逅は住民たちの目覚めに繋がる」
"パトリキウス"の言葉に、"コロンバ"が肩を竦める。
面白みのない回答で、興味が失せたようだ。
"パトリキウス"は一息吐くと、
「精々、そちらの火遊びでこちらも巻き込まんことだ……馬鹿話や与太話の出来る頭で一秒でも"長く"生きたいのならな」
腹を抱えて大笑いをする"コロンバ"、鋭い目線の"サロメ"を背にその場を後にした。
その前に見た眼下の喧騒を思い出す。
"政市会"は庁舎北側の駐車場で、オーツと蹲るエヴァンスと、"スウィート・サクリファイス"を装備した会員達が事態の推移を見守っていた。
"政声隊"も、トルクを付けた者たち――黒シャツの"力人衆"も含め――も負傷者を運び、三条の背後に回っている。
ただ、どちらの陣営も戦意を喪失。
両陣営のどちらにも属さない"命熱波使い"と、突如乱入した大型甲冑による"死闘"に眼が釘付けとなっていた。
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